新井 | さてさて、紺野さん!よろしくお願いします。 |
紺野 | 恥ずかしい話しかないんですよ。 |
新井 | いやいや、そういう話がいいんです(笑) シナリオ・センターに通われたきっかけなんですけど、もともと文章を書くことは好きだったんですか? |
紺野 | 学生時代は新聞部でしたからね、好きでしたよ。河北新報って地方紙があるんですけど、そこに小説が掲載されたこともあります。まだシナリオを勉強するずっと前のことですけど。 |
新井 | すごいですね。やっぱり「シナリオ」自体にも馴染みがあったんでしょうか? |
紺野 | いや、全然ですよ。新聞の広告を見て初めてシナリオ・センターの存在を初めて知りました。それまでは知りませんでしたよ。 |
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新井 | あの広告を見ていた人、本当に多いんですね。過去にインタビューした大前さん、金子さんもそうですし、他にも大勢いらっしゃいます。 |
紺野 | そんなに大きな広告ではなくても目に入りやすかったですからね。ラテ欄の下に広告があったんですよ。私もそれを見て、通いたいなって思ったんですけど。当時は、息子、娘がちょうど大学、高校と受験をひかえていていましたからね…。 |
新井 | かなり大事な時期ですね。 それじゃあ、すぐに「通おう」とはなれなかった? |
紺野 | でも…ねぇ。通いたいじゃないですか。いてもいなくても同じような主婦でしたから(笑)。 |
新井 | いやいや(笑)。 受験生が2人もいると大変だったでしょう? |
紺野 | そうでしたね。それに私の夫は決まった時間に出社して、帰ってきて。お酒も決まった分量飲んで。キッチリした人でしたから。 でも、私は早くから結婚して、家事や子育てにおわれて、私用で外出なんてほとんどしたことなくて。なんか気分を変えたい時期だったんですね。楽な暮らしにどっぷり浸っていることにふと疑問を頂き始めた頃でした。 |
新井 | ああ…たまには外の空気を吸いたくなりますよね。当時は割と、「女性は家に居るもんだ」って風潮は強そうですし。 |
紺野 | そうかもしれませんね。 でも、私が通えるようになったのは、ちょっとしたキッカケもあったかもしれません。 |
新井 | へぇ。それはどんなですか? |
紺野 | あるお店でこどもの誕生日のお祝いを家族みんなでしている時に、ある有名な女優さんがいらしたんです。一般の客に混じって。その方が出ている映画を見たばかりの夫はちょうどお熱を上げていたから。「握手してください」って手を差し出したら、「パシッ」と払われて。 |
新井 | うわぁ…。誰なんだろう? ちょっと気になる。 |
紺野 | 夫は、他のお客さんがいる前で「ヒジテツ」されたことが恥ずかしかったのだと思います。ちなみに〇〇さんです(小声) |
新井 | えぇ~! でも、イメージ通りって言えばイメージ通りかも。(笑) |
紺野 | ずっと前のことですけどねぇ…。夫はかなりショックだったみたいです。「オレが映画監督だったら…。あんなヤツ鼻もひっかけてやんないのに」って。 私は「仕事辞めて、今からでも監督になれば」って言ったりしてね。そんなこともあって、夫婦で映画業界に少し興味があった時期なんですよ。シナリオ・センターの広告を見たのは。 |
新井 | なるほどね。タイミングが良かったと。 それじゃあ、今でもお肌のきれいなあの女優さんに感謝しなくちゃ。(笑) |
紺野 | それで夫に「お願い、私に投資して」って言いました。 夫は銀行員でしたからね。「それは成長株なのかい?」って。 |
新井 | 銀行員らしい(笑)。 |
紺野 | そうなんです(笑)。私は「長い目で見てちょうだい」って。「家のことはキッチリやるから」って条件で通うことができました。 |
新井 | 講座は週に一回だから、工夫すれば通えないこともないですよね。 旦那さんとしては投資を回収できたのかな? |
紺野 | どうでしょうかね(笑)。でも「今どんな映画がおススメ?」なんて会話も、自然に増えたりしたりね。なにかと気にかけてくれてましたよ。 |
新井 | 確かに、家族の誰かが習い事とか始めると、会話きっかけって増えますよね。旦那さんもきっと「本気でやっているんだな」って感じていたんでしょうね。 そういえば、紺野さんは第何期だったんですか? |
紺野 | 私はシナリオ作家養成講座の8期ですね。 |
新井 | 8期! いま、128期が開講しているから…120期前。歴史を感じますね。 |
紺野 | ホント時間が経つのははやいですねぇ…。私が受けた時の作家養成講座は特別だったんですよ。通常は半年間ですけど、その時だけ一年間だったんです。 |
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新井 | 一年!? |
紺野 | 受講料も倍でしたけど(笑)。だけど、夫が「大丈夫」って言ってくれて。それに新井一先生の講義をたっぷり受けられて、ラッキーでした。次の期は通常通り半年でしたからね。 |
新井 | 昔はシナリオ・センターとしても、いろいろ試してましたからね。実際、新井一の講義ってどんな感じでした? |
紺野 | 講義中の演技がスゴくてねぇ。名優でしたよ。 |
新井 | 名優!? |
紺野 | 本当に言葉通り、そうなんですよ。全身を使って講義をするんです。たとえば、ボクシングの話をして、サンドバックを叩いているフリをするじゃないですか。本当にサンドバックがあるかのようだったんです。 あとは女言葉が上手だったりしてねぇ…。ご自分でも舞台に立ちたかったんじゃないですかね、きっと。声色もそっくりでしたし。 |
新井 | そうなのかなぁ…(笑)。 確かに、もとは戯曲から始まっているから、演劇的な素養はあったのかもしれませんね。 |
紺野 | あと、その時々のタイムリーな話題を必ず入れたりして、飽きずに聞けました。スピルバーグの映画の話をしていたのを覚えています。「‘激突’の最後のシーンで鳴るサイレンみたいな音、何だか分かる?アフリカ象の鳴き声なんだよ」なんて。 映画の裏話も多くて、とにかく話術が素晴らしかった。ノートをとっている時間がもったいないくらい。上手く伝えられなくて、ちょっともどかしいけれど(笑)。 |
新井 | ええ、そんな感じなんですね。じゃあ、えらい所長さんが教えてるっていう感じではなく? |
紺野 | そう。寄席に通っているような感じで。単純に楽しいんです。あんまり楽しくって家族に申し訳ないくらいでした。 |
新井 | シナリオの技術を上から目線で教えるのではないっていうシナリオ・センターのモットーを、まさに体現してたんですね。 |
紺野 | そう。それに生徒の目線に合わせて…とかでもなくて。 |
新井 | というと・・・? |
紺野 | 生徒を同じステージに引っ張り上げてくれるような、牽引力みたいなものがあった気がします。 「教わるんじゃくて、一緒にシナリオを書くことを楽しもうよ」って語りかけてて。きっとハートが違うんでしょうね。 |
新井 | ハートかぁ。なるほどねぇ…。結局、それが一番大事なことだったりしますよね。 |