脚本を書いてみると、ト書の書き方が分からなくなってしまうことありませんか。
起こりがちなこととしては、
・ト書が単なる「動作」の指示になってしまっている。
例:A子、立ち上がる/A子、微笑む/A子、座る
・どの登場人物のト書もワンパターンになっていて、キャラクターが出ていない。
例:“戸惑い”を表現したいとき→呆然とする/立ち尽くす/ト書ではなくセリフの「……」で済ませてしまう。
――といったご経験、ないでしょうか…。
こういった問題をクリアにして、ト書を魅力的にする方法をご紹介します。
まずは、シナリオ・センター創設者 新井一が述べたト書のそもそもの書き方を確認しましょう。
ト書の役割は登場人物の動作と舞台装置
「ト書の役割はというと、登場人物の動作、つまり舞台に出たり入ったり、座ったり、腰かけたり、手紙を読んだりするような、どうしても読者なり観客に知っておいてもらわなければならないことを書きます。
もう一つ書かなければならないのは、舞台装置のことです。(中略)
大体のねらいは、その舞台になる場所の程度を具体的に書けばいいのです。具体的にといいましたが、あくまでこれは具体的であって、いささかも、文学的な抽象的な表現をしてはいけないのです。」
(『シナリオの基礎技術』 P21「B・ト書」より)
上記から、「ト書に何を書けばいいか」という書き方は分かりましたよね。原稿用紙へのト書の書き方を知りたい方は、こちらからシナリオ・センター公式Youtubeでの原稿用紙へのシナリオの書き方解説 をご覧ください。
ではト書で、単なる動作に終わらず、かつ、キャラクターが出るように書くにはどうしたらいいのでしょうか。
その方法を、情報番組『あさイチ』(NHK/2017年5月19日OA)で紹介された、出身ライター・岡田惠和さんの『連続テレビ小説 ひよっこ』(NHK)のト書と、「演じる上で脚本のト書を大事にしている」という永井愛子役の女優・和久井映見さんのコメントから読み解きます。
演じる上でのヒントになった『ひよっこ』のト書
主人公・谷田部みね子たちが集団就職で上野に到着し、愛子が迎えに行った時のシーンからの抜粋
そこへ、愛子が慌てて、バタバタというよりパタパタと慌てた感じ。
本人は大急ぎなのだが、そうは見えない感じでやってくる。
このト書に対する和久井映見さんのコメント:
「永井愛子という人を演じるときにどんなふうに演じたらいいのかなと思ったときに、この「バタバタというよりパタパタ」「本人は大急ぎなんだけどそうは見えない」という感じが、私が演じる愛子さんの核となるところなのかなと思って、このト書を見た時からずっと頭で考えていました。
セリフも勿論ですけど、このト書をずっと心にもったまま今日まで来ています。
愛子を演じているときはちょっと声が高くなったり、大きな声で話すんですけど、何日か撮影が続いていくと、それがいきすぎているような気がして、「あれ?大丈夫かな私…」って。
そういうことがあったときに、このト書を思い出して「どうだったかな」と思いながらバランスを考えるというか。
パタパタというのは、地に足がついていないというかフワフワした感じだよな、と。
人物の説明になっているト書が、こんなに多い台本ってあまりないんですよ。
セリフのカギカッコに頼らなきゃいけないことも普通はあったりするので。
だから、こういうト書の1つ1つが、すごく自分のヒントになるんです。」
キャラクターならではの動作をト書に書く
「バタバタというよりパタパタ」
もうこのト書だけで、愛子の性格が出ていますよね。
つまり、他の人ならしないけど、「このキャラクターだったらやるだろうな」という、キャラクターならではの動作をト書に書くと、セリフがなくてもキャラクターを出すことができるんですよね。
そうすれば、ト書が動作の指示だけになってしまったり、ワンパターンになってしまったり、ということがなくなりますよね。
こういったト書の機能についても、新井一は『シナリオの基礎技術』(「(4)ト書にパンチをきかす法」P296)でこう述べています。
「ト書は、前にも述べたように、人物の出入りや舞台装置の指定や、またちょっとした仕草の指定にとらわれがちです。しかしこの際、ト書とは、セリフに対しての映像描写法であることを確認しておきたいと思います。
映画やテレビなどの映像芸術のくせに、セリフにすべて表現を委ねていたのを、映像としての表現に奪還する。つまり本来の意味に戻す唯一の決め手として、ト書を考え直したいと思うのです。」
ト書とは、セリフに対しての映像描写法。
映像で表現することをト書で書く、ということですよね。
そのキャラクターならどんなことをするのか、“映像”を意識してト書を書いていきましょう。
今回ご紹介した「ト書にもキャラクターを出すこと」をぜひ参考にして、脚本作りに役立ててくださいね。
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