犬養家の血筋
シナリオ・センター代表の小林です。豪雨も暑さも自然のやることですから、幾ばくかの防備はできても、哀しいかなほとんど太刀打ちできないことの方が多いようです。
だからこそ、常に想定外を減らす備えを考えなくてはいけない気がします。
温暖化のせいなのでしょうか、今まで経験したことのない~といわれる災害が多過ぎますよね。
人間のやることは、本気で取り組めば記録も記憶も管理することはできます。今まで経験したことのない対応さえなくなればですが。(笑)
評論家の犬養道子さんが亡くなられました。享年96歳。
5・15事件で暗殺された犬養毅首相のお孫さんです。 ご自分で「犬養道子基金」を作られ、難民救済のために、難民環境保護や奨学金支給などに奔走されたご生涯でした。
よほどの自立心が無ければ女性は動けない時代に、自らの力で難民救済の乗り出した方で、上智大学教授の元国連難民高等弁務官でいらした緒方貞子さんは従妹にあたります。
犬養家の血筋はすごいですね。
犬養道子さんの御逝去の報を知った時期に、ちょうど犬養道子さんのお祖父様の犬養毅首相が暗殺されるお話の本を読んでいました。
視点を変えると面白い話になる
「チャップリン暗殺指令」(文藝春秋刊)
出身ライター土橋章宏さんの書かれた小説です。
このお話は、5・15事件の時に、来日中の喜劇王チャップリンを暗殺しようとする陸軍士官学校の津島新吉が主人公です。
5・15事件が起きた昭和7年は、関東大震災の傷跡も癒えぬまま、世界恐慌が起こり、経済は悪化し、汚職にまみれた政治家たちへの不満が高まっていた時代です。
東北では三陸地震、冷害などで農民は食べることもままならず、娘を売ったり、離散したりと大変な時代でした。
時の政府が手をこまねいていたわけではないでしょうが、国民の暮らしは一向によくなりません。
主人公の新吉が陸軍士官学校へ入ったのも、いわば口減らし、お金をくれて食べられる軍隊に入ることで家を助けようという思いからです。
陸軍には、新吉と同じ境遇の政治家や財閥などの支配層への大きな恨みつらみを持った貧困にあえぐ若者たちが集まっていました。
首相官邸で、チャップリンの歓迎会が開かれると知った陸軍青年将校たちは、天誅を下すべくその日を狙います。
首相のみならずチャップリンもアメリカの象徴として抹殺する、アメリカが怒ったら、それを契機に戦争も辞さないという心意気でした。
チャップリン暗殺の指令を受けたのが主人公の新吉。
暗殺のために、いろいろ調べ始めた新吉は、青森ではもちろん陸軍学校では知り得なかった場所や人々と出会い、チャップリンの懐へ入ることに成功します。そして・・・。
新吉のキャラクターを形成する背景事情をさりげなく描きながら、5・15事件が起こる経緯、チャップリンの生き様をも活写し、そこにまつわる人々の悲しさ健気さ強さを見事に描いています。
土橋さんは、小説も脚本もと超売れっ子でお忙しいにも関わらず、文章もどんどん研ぎ澄まされているようで、確実にエンタテイメントを描く小説家として腕を上げているなあと感心します。
歴史は繰り返される・・・この時代に似ている今だからこそ、これを土橋さんの脚色で映画化をしたら、多くの方の共感を得られると思うのですが、いかがでしょうか。