「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
今回は、出身ライター・森下佳子さんが脚本を手掛けたテレビドラマ『白夜行』を参考に、ラブストーリーを書く上でのポイントをご紹介。「どういう風にしたらドキドキする展開になるんだろう?」というお悩みが解決しますよ。
ラブストーリーを書いてみよう
こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。
誰かに恋をしたこと、ありますか?
片思いを含めると、ほとんどの人が、あると答えるんじゃないかと思います。人を好きになる気持ちって、それだけ多くの人に共感されやすいんですね。
たとえば刑事ドラマだと、殺人事件を捜査する人の気持ち、分かるなあ……とは、ならないですよね。
刑事ドラマは、むしろ、悪いことしている人を暴いてやりたいという普段ならできない願望を、フィクションの中で満たしてもらっているのです。
そういう意味ではラブストーリーは現実ではできないような恋愛もかなえてもくれて、共感と願望の両方あるんですね。ラブストーリーが王道と言われるのは、そのためです。
とはいえ最近は『男女7人夏物語』とか『東京ラブストーリー』とか『ロングバケーション』みたいなバリバリの王道ラブストーリーは少なくなってきました。
ただ、たとえば『JIN~仁~』には大沢たかおさん演じる南方仁と綾瀬はるかさん演じる橘咲の、『マルモのおきて』には阿部サダヲさん演じる高木護と滝沢沙織さん演じる牧村かなの、『SCANDAL』には鈴木京香さんはじめ4人の主婦たちのそれぞれのラブストーリーが組み込まています。メインがラブストーリーではないジャンルであっても、ラブストーリーがまったくないドラマは、むしろ珍しいでしょう。
それだけ人を好きになる気持ちは多くの視聴者を感情移入させるということです。
個人的には、もっとバリバリ王道ラブストーリーがあってもいいんじゃないかなあとは思いますが…。
というわけで、みなさんぜひ、ラブストーリーを書いてみてください。
ラブストーリーで主人公が好きになるのは、ちょっと意外かもしれませんが、困ったちゃんなのです。
ちょっと待って。困ったちゃんって主人公を困らせる人物でしょ?
そんな人物を主人公が好きになったりしないんじゃないの?
と思われたかもしれません。
たとえば『男女7人夏物語』の明石家さんまさん演じる今井良介にとって大竹しのぶさん演じる神崎桃子は困ったちゃんです。『東京ラブストーリー』の織田裕二さん演じる永尾完治と鈴木保奈美さん演じる赤名リカ、『ロングバケーション』の木村拓哉さん演じる瀬名秀俊と山口智子さん演じる葉山南は互いに困ったちゃんです。
好きになってしまうと困ったちゃんと離れられなくなります。困ったちゃんを放っておけなくなります。すると、ますます主人公が困らせられることになります。
主人公が困らせられれば困らせられるほど、観客や視聴者は、どうする? どうなる? と引きこまれ感情移入して「面白い」と感じてくれるわけです。
困ったちゃんと離れられない『百夜行』
困ったちゃんを好きだから離れられない放っておけないドラマの代表が『白夜行』です。
山田孝之さん演じる桐原亮司と綾瀬はるかさん演じる唐沢雪穂が出会ったのは11歳、互いに初恋の相手となり手をつないで歩きます。しかし、実は亮二の父親は、雪穂の母親に金を出し雪穂を買春していたのです。
その現場を目撃した亮司は思わず持っていたハサミで父親を刺殺してしまいます。それを庇って雪穂は母親に罪をかぶせて無理心中を図り自分だけ生き残ります。
その後2人は、互いの殺人を、再び手をつないで歩けるようになるまで隠し続けようと、見知らぬ関係であるふりをしながら、強姦や脅迫、第2、第3の殺人と次々に罪を重ねていく、いわばクライム・ラブストーリーといった感じでしょうか。
たとえば、亮司が父親と雪穂の買春現場を目撃するところ。その前に雪穂は自分を買いにくる男が亮司の父親だと知り、亮司を避けるようになっていました。離れようとしていたのです。しかし、亮司は自分が避けられている理由が分からず、気になって仕方がありません。
そんな時、雪穂が母親に引っ張られて嫌々ながら建築途中のビルに入っていくのを見てしまいます。好きな女の子のことを放っておけません。ビルに入っていきます。ドアが閉まっていて中に入れないとダクトを伝っていきます。そして、裸にされた雪穂が、父親に写真を撮られているところを目の当たりにしてしまうのです。
好きでなければ、ビルに入っていく雪穂を見ても、そのまま行ってしまうでしょう。ダクトに入ってまで中に入ろうとは思わないはずです。好きだからこそ放っておけないわけです。
好きだから放っておけない
2人は、7年後に再会します。
それまで見知らぬ関係を続けていたわけですが、養護施設から裕福な養母に引き取られた雪穂は、通っていた女子高で、殺人犯の娘だと知った同級生からイジメられています。駅のトイレに書かれた悪質な落書きを消している姿を、亮司が見つけます。本当なら見知らぬふりを続けなければならないのでしょうが、亮司は放っておけません。
ちょうど亮司も、昔の遊び友達から父親と雪穂が写っている写真を大金で買い取れと脅されています。その写真を、亮司の父親の殺人事件を執拗に追う刑事に見られたら、2人の犯行がバレてしまいかねません。
そこで雪穂をイジメている同級生を拉致し、強姦されたかのように写真を撮って脅すという第二の犯罪を犯します。そして、その強姦犯の疑いの目を、亮司の昔の遊び友達に向けさせ、アリバイを証明してやる代わりに、写真を手に入れるのです。
こんなエピソードもあります。
大学に進学した雪穂は、ソシアルダンス部に所属し、OBである製薬会社の御曹司を好きになってしまいます。一度は嫉妬心にかられる亮司ですが、雪穂が幸せになるためならと応援することにします。
ところが、御曹司は、雪穂の親友に思いを寄せ付き合い始めるのです。雪穂は亮司に親友を強姦するよう頼みます。
これはもう雪穂の私怨でしかありません。本来の二人の犯罪を隠し続けるための犯罪ではなくなっています。当然、亮司は断ります。
しかし、雪穂が亮司から離れるような素振りを見せると、亮司は結局、雪穂の親友を拉致し強姦されたかのように写真を撮って送りつけます。それによって御曹司と親友は別れてしまいます。
抜群に上手い小道具の使い方
さらに、母親の元浮気相手を殺害した亮司は、父親が雪穂を裸にして撮った写真のネガを手に入れます。雪穂がダンス部の部長と婚約したものの、部長が他の女性を好きになりそうになると、部長と女性を会わせないように工作します。
その結婚が、部長のIDカードとパスワードを盗み出すことで、亮司に普通の企業に就職することができるようにするのと、離婚して多額の慰謝料を得るのが目的と知ると、今度は離婚に協力し、DVを捏造するため亮司は雪穂の顔を殴ります。
そして、養護施設から雪穂を引き取り、育ててきた養母が倒れて病院に運び込まれ、養母が、庭に埋めてあった亮司の母親の元浮気相手の遺体に気づいた可能性があると聞かされると、雪穂が養母を殺そうとしていると気づき、病院に駆けつけます。養母につながれた医療器具を引き抜こうとする寸前で雪穂を引き止め、自分が代わって医療器具を引き抜いて養母を殺害するのです。
こうなると、もう、離れられない放っておけないどころか、自分から望んで困らせられに行っている感じです。
このドラマはディテール、特に小道具の使い方が抜群に上手いので、そこも参考にしていただきたいと思います。
たとえば、亮司が母親の元浮気相手を殺そうと思ったとき、その浮気相手を型どった切り絵の人形をハサミで切り刻んでいきます。同じように雪穂が殺そうと決意したときは、見上げた太陽を遮るかのように伸びる小枝を折ります。
浮気相手の死体が養母の家の庭に埋められていることを刑事が気づくときは、レイバンのパチモンのサングラスの欠片が使われていました。浮気相手はパチモンのサングラスで一儲けしたことがあり、いつも身につけていたのです。
ほかにも2人を執拗に追う刑事の後輩の七味唐辛子の瓶、ダンス部部長が好きな女性に貸した折りたたみ傘、亮司が転がりこむことになる女性が公園で並べた心境の変化と時間経過を表す缶ビールなどなど、あなたのシナリオに応用して取り入れることができる小道具の使い方が必ずあると思います。
ラブストーリーを制する者はシナリオを制す!これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P84より
シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。
★次回は12月の第5土曜日に更新予定★
ドラマ『白夜行』データ
2006年1月~3月(全11話)
TBS系木曜21時枠
脚本:森下佳子
原作:『白夜行』東野圭吾(集英社刊)
プロデューサー:石丸彰彦
演出:平川雄一朗・那須田淳・石井康晴・高橋正尚
出演:綾瀬はるか・山田孝之・渡部篤郎・武田鉄矢 他
平均視聴率:12.28% 最高視聴率:14.2%(初回)
“だれでも最初は基礎講座から”~講座コースについて~
今回の記事をご覧になって「ちょっとシナリオ、書いてみたいな…」と思われたかた、是非お気軽にいらしてください。
シナリオ・センターの基礎講座では、魅力的なドラマを作るための技術を創作初心者のかたでも楽しく学べます。
また映像シナリオの技術は、テレビドラマや映画だけでなく小説など、人間を描くすべての「創作」に応用できます。
まずはこちらの基礎講座で、書くための“土台”を作りましょう。
■シナリオ作家養成講座(6ヶ月) >>詳細はこちら
■シナリオ8週間講座(2ヶ月) >>詳細はこちら
■シナリオ通信講座 基礎科(6ヶ月) >>詳細はこちら