原作を噛み砕いて咀嚼する
私がシナリオ・センターに通っていたのは、15年程前のことです。シナリオ8週間講座を受けて、本科にも通いました。
今まで映画、ドラマ、アニメーション、バラエティ、小説といろいろやってきました。
アニメ映画『虹色ほたる~永遠の夏休み~』は、製作は東映アニメーションです。『ONE PⅠECE』や『プリキュア』などのテレビアニメの映画化を主に手掛けているところで、アニメのオリジナル映画は実に30年ぶりだそうです。
5年前、梅澤プロデューサーがある雨の日に駆け込んだ本屋さんで、偶然ある本が光って見えたそうです。それがこの映画の原作本でした。それがすべての始まりです。
私がオファーをいただいたのが2008年末で、決定稿になったのが2010年です。この作品は特に長くかかりましたが、一般に映画はテレビドラマなどに比べるとシナリオから公開まで足かけ2年、3年掛かることはザラです。
この作品はアニメーションですが、CGを一切使わず7万枚以上のセル画を描いたそうです。ホタルを描くだけの担当の人がいたくらいです。
原作は、私がお話いただいたときは販売部数6万部でしたが、今は40万部を超えました。映画化が決まって売れたこともあるでしょうが、やはり作品自体の力でしょうね。
原作の小説を、どうシナリオにしていくのか。小説には数多くの要素が詰め込まれています。どの要素を残し、どんな要素を加えたらいいのか。人物やエピソードも削ったり、足したりということがあります。
著者の川口雅幸さんからは特に注文といったことはなく、映画は映画として自由にやらせていただきました。
まず最初に原作を読み込むことが第一歩です。物語を自分の体に馴染ませる。
「ただ小説をシナリオ形式に置き換えました」というわけにはいきません。映像作品として原作とはある意味別物にしていく作業に入ります。
このお話は、主人公ユウタのお父さんが交通事故で亡くなっていて、その1年後、少年はまだそのトラウマを抱えている状態で物語が始まります。
小説だと文章でいろいろと書き込めるんですが、映像やアニメだとそうはいきません。
最初の10分間で状況説明をしなくてはなりませんが、ナレーションや説明セリフでなく、絵で見てパッとわかるほうがいい。お父さんが遺した携帯の留守電を聴くユウタ、というところから始まるようにしました。
その前にも膨大な物語があるわけですが、お父さんが亡くなった場所のガードレールの場所をチラッと見たりとか、ところどころ、まだ立ち直っていない主人公の気持ちを表す描写が、さり気なく入っています。