シナリオ・センターの新井です。
2017年2月6日にお亡くなりになられた森治美先生。みんな、大好きな先生でした。
湿っぽくなるのは嫌ですが、森先生を偲んで、2015年6月にさせて頂いた講師インタビューを整理して、再掲載させて頂きます。
ざっくばらんな物言いの根底に流れる森先生の優しさみたいなのが大好きでした。そんな一面を感じて頂けたらと思っております。
インタビューを読み返していると、森先生の声や表情が思い出されます。
2015年6月9日 森治美先生インタビューより
「苦しいことも、楽しいことに…」
新井
ゼミや講座に限らず、いろんな講師にインタビューしてきているんですが、今回は5回目になります。毎回どれくらい前に生徒だったのか聞いているんですけど……
森
あら、聞きにくいことかしら? 気にするようなことじゃ……スリーサイズも教えましょうか?(笑)。
新井
いや、それは……遠慮しておきます(笑)
森
30歳を目前にした頃だっから……37、8年前くらいですね。
新井
シナリオ・センターに通う何かキッカケとかあったんですか?
森
本当にたまたまというか、偶然朝日新聞の夕刊にここの広告が掲載されているのを見たんです。
で、ここしかないと思って……文学座での照明の仕事の後、モデル、コピーライターとやってきたんですが、やっぱり芝居が好きで、どうしても観る側ではなく創る側になりたいっていう思いがあったから。
役者をやろうにも30歳からだと、どこの養成所にも入れないでしょ。
新井
劇団の養成所って年齢制限が20代前半くらいですもんね。
森
そう、女性で22歳くらいまでだったかな。
今みたいにシルバーの劇団みたいなものがあれば、役者への応募もできたかもしれないけどね。あとは劇団として文芸部を募集しているということもなかったですしね。
新井
役者に比べるとシナリオは年齢も関係ないし、始めやすいかもしれませんね。
森
結婚もしていたし「主婦でもシナリオ・ライターになれるかな」と。
あと「シナリオで有名になれれば、いずれ芝居も書けるんじゃないか」と夢みたいなことを思って、それでシナリオ・センターに通うことに。
新井
じゃあ、目論み通りですね!
森
どうかしら……ただ、当時はまだコピーライターだったけど、通うからにはコピーは書かないと決めてそれを実行するだけの覚悟をしましたね。脚本家になるんだって。
新井
コピーライターを続けていく気はなかったんですか?
森
う-ん。お金はそれなりに貰えたんだけど、宣伝文句を書くことに自分の中に何かやましさみたいなものもあって……
新井
必ずしも自分がおススメの商品のコピーを考えるわけじゃないですし。
森
ええ、食べていくためには良かったんですけどね。
新井
当時はシナリオ作家養成講座に通われたんですか?
森
そうですね、15期です。まだ、南青山にシナリオ・センターがある頃で、映画シナリオを中心に書いていらっしゃる加藤正人さんと一緒でした。
今とは違って身体も「ほそ-い」ころ(笑)。
新井
(笑)。
昔の写真、見たことあります。モデルさん時代の「ほそ~い」やつ。
森
そうでしょう(笑)。
生徒としては優等生だったと思いますよ。一回も休まず提出物は出していましたから。
新井
へぇ~ちょっと意外です。
森
こう見えても、根はまじめなの(笑)。
シナリオの応募にも出していたけど、一次や二次止まりで最終まで中々引っかかりませんでしたね。
通いだしてから、2年半くらいしてやっと戯曲で賞を頂きました。そのまま、ラジオでデビューできて、現在まで来れたという感じですね。
新井
新人の頃と今と比べて、ここは変わったなってところありますか?
森
基本、今と同じで変わりませんよ。
どこにいても、誰を前にしても態度は全く変わらないです。新人の頃でもギャラの話とかキチンとしていましたしね。
新井
お金の話ってしづらくないですか?
コピーライター時代とかに、「きっちりしておこう」って決めたり、なんかきっかけがあったんですか?
森
特にそういうわけではないけど……フリーでやっているんですから仕事の内容やギャラの事は最初にきちんと確認しておく必要があると思うの。
後で揉めたり、トラブルになるの嫌ですものね。
新井
とはいえ、なかなかギャラについて最初から確認できない方は多いと思います……。
あの……ちなみに、このインタビューはノーギャラです(笑)。
森
安心してください。分かっていますから。
請求書、書いたりしませんよ(笑)。
新井
やっぱり、お金の話ってしづらいなぁ(笑)。
森
人に、私のキャラクターが特別だからってよく言われますけど、依頼を受けて脚本なり企画書、プロットを書く訳ですから、その仕事に対してどのくらいの脚本料なり原稿料をもらえるのかと聞くことは恥ずかしいことでは無い筈ですよ。聞けない方がおかしいと思うんですけどね。
新井
特に新人の方は、仕事がもらえただけで舞い上がっちゃいますしね。
企画料だとかは特に言いにくいだろうなぁ~
森
でも、若い人たちには依頼を受けて書いたものが放送されれば勿論だけど、金額の高低はあるにしてもお金は貰えるんだなっていう意識は持って欲しいんですよ。
どんな仕事でもお金を貰って初めてプロと言えるし、仕事として成立するものなんじゃないかしら。
新井
確かに。依頼されてもお金がもらえないと「なんだか張りがないな……」ってなっちゃいますよね。
森
私は、自分が面白いと思える仕事なら、安くてもやればいいと思うの。
私もやります。でも決してタダはダメ。少なくとも交通費だけは出して下さいとぐらいは言って欲しい。とにかく、ちゃんとギャラの話は最初にしておかないとね。
新井
そっか。ウヤムヤなまま、いい仕事できませんもんね。
森
あと、仕事はやっぱり楽しんでやらないとね。
私は「苦しいことも楽しいことなのよ」って言うんです。
苦しい自分も客観的に見れるくらいの余裕がないとね。大抵のことは過ぎ去ると楽しく話せたりするでしょう。
新井
そうやって、ツラい時こそ余裕を持てると良いんでしょうけど……
分かっていてもなかなか難しいですね。
森
ま、これは私自身が自分に言い聞かせる言葉でもあるんですけどね(笑)
一度や二度審査に落ちたくらいで「諦めるな」「悲観するな」「自信をなくすな」
新井
森先生は審査員として多くのシナリオを評価してこられたと思いますが、どんな作品だと評価されるとか審査に傾向があったりするんでしょうか?
森
審査員によってそのとき時の関心も感性も違うから、どういう作品がいいとか傾向があるとかは一概には言えないですね。第一、満場一致の審査なんて、まずないと言えるんじゃないかしら。
新井
新井一賞の審査でも森先生やジェームス三木さん、岡田惠和さん、みなさん推すものが被らないから不思議ですよね。
森
本当そうなんですよね。
審査ってそれぞれが他に推したいものがあっても、みんなの意見を取り入れて総合的に、「それでいいかな」って決まったり。ある種、妥協の産物みたいなところもありますから。
新井
妥協の産物ですか……
森
審査員の誰か一人で良いので、その人の気持ちをしっかりつかむことが出来れば有利になるかもしれません。
他の審査員を論破してでも「良いんだ」って言ってもらえるほどの作品になっていればですがね。
新井
審査する人達、みなさんの心をつかむのは難しいですか?
森
それはまず不可能でしょうね。
勿論、多くの人に支持される作品もありますけど、それは結果に過ぎなくて、最初から狙っても上手くいかないんじゃないかしら。私は特にラジオドラマでは誰か一人のために書けっていう言い方をするんですが……ラジオドラマってみんなで聞くってことないじゃない?
新井
たしかに。部屋で一人で聞きますね。
森
だから例えば、私が新井さんに対して、どうしたら感動させられる作品になるか、どうしたら想いを伝えられるかを思い浮かべて書くと、結果よいものになりやすいっていうのかなぁ……
新井
確かに「みんな」って漠然としてイメージが涌かないけど、「具体的に身近な人をイメージする」と筆が進みそうです。
森
そうなんです。あと、ラジオドラマに限らず、作品を書く上で大事なことは「世の中の流れを掴めているか」「今現在にリンクしているか」ですね。去年良いなって思ったことや問題意識が今年も、とは限らないですから。
新井
その時ならではの題材や鮮度、切り口も審査に影響するでしょうしね。
森
好きな小説でも、読み返すと、「いいな」と思うところが変わってたりするでしょ。
新井
あぁ確かにありますね。その時の気持ちとか、自分の年齢や社会的立場によって、面白く感じるものって変化しますね。
森
「運」も才能のうちという言い方もありますが……やはり最終的には「運」に左右されるとしか言えない時、ことがありますよね。だから、一度や二度審査に落ちたくらいで「諦めるな」、「悲観するな」、「自信をなくすな」そんな言葉を投げかけたくなりますね。
あるラジオドラマの審査のことなんですが、3次で落ちていた作品があってね。だけど、2次を審査した人が「あの作品は?」って落ちた中から探し出して、他の審査員たちに読んでもらって。
結果「よし」となって最終審査も通ったことがあったんですね。稀なケースかも知れませんが、そういうこともありますからね。
新井
そういう話を聞くと、1、2つ応募して諦めるのは早いのかなぁって思いますね。
話は変わりますが、最近はラジオ自体が再び注目されているように感じます。3.11をキッカケとして、また定着してきたのかなって。
森
昔のような勢いはないですけど、少し前より盛り返したとは思いますね。民放でもラジオドラマを作るようになっていますから。でも文化庁芸術祭賞を受賞するのは地方局のものが多いみたいですね。東京のラジオ各局も以前のように50分、1時間のドラマ作品を作って欲しいものです。
新井
やっぱり作り手が少ないことも影響しているんですかね?ラジオドラマって作り方も独特ですし。セリフの間や効果音の調整とか繊細ですよね。
森
作品を聴くと脚本の世界観を出し切れていないって感じることもありますね。現場の技術が継承されてないじゃないかと思うこともあって……制作者たちの脚本に対する思いが薄くなっているような気もします。
それに、ちょっと大袈裟な言い方ですけど、少しでも脚本、シナリオを愛してくれる人が増えて欲しいと思っているんです。そう、だから脚本について教えるようになったのかなぁ。
新井
シナリオを教えられるようになって長いですよね?
シナリオ・センターはもちろん、日大芸術学部の放送学科でも教えられています。大学だと脚本家になりたい人ばかりじゃないですよね。演出や音響、ラジオやテレビ制作やアナウンサー志望などいろんな人いるでしょうから。
森
ええ。でもディレクターやプロデューサー志望は勿論ですが、音響や照明などの技術畑を志す人たちにも分かって欲しいんです。
ドラマなどを創るってことは、「脚本が土台」になっているんだってことを。脚本が読めないとどうしようもない。
「なんで脚本の勉強すんだと思っていても、いずれ現場についた時にふと分かる瞬間があるだろう」と思って教えていますね。
新井
なるほど。現場でシナリオが読めないのは、きついですものね。土台がグラつくわけですから。
ちなみに今の大学生はテレビドラマを観てる人、多いですか?シナリオ・センターの生徒さんでも観ない人、割といるんです。
森
大学生も同じですよ。
皆、忙し過ぎるんでしょうね。でなけれゃ、どうしても観たいというドラマがないってことかしら。
ただ、脚本家になりたいのに「シェイクスピアやチェーホフも知らない」という人もいて……これは困ります。最低限知っておいて欲しいですね。
新井
古典や名作など、自分が普段触れないものは最初、取っ付きづらかったりするけど、食わず嫌いのことも多いですからね。我慢して読んだり、観たりすると「意外と面白いじゃん」ってなったり。
森
そう。それから、世間で評判となっているものは、観てみることでしょうね。何故今これが……と考えられるし、もし、それが自分には「いいとは思えない」としたら、「それはなぜなのか」と自分に問うことで自分の軸が把握できると思うんです。そうすれば、自然と書きたいものも分かって来るんじゃないかしら。
新井
確かに「自分が何を書きたいのか」が見えてきそうですよね。
森先生が、御著書で「どう書くか」はシナリオ・センターで教えられるけど、「何を書くか」は教えられないと書かれてました。
森
もともとは新井一先生の教えですが……シナリオ・センターに通っていて納得もし、共感したことなんです。書きたいものは、自分で見つけるしかないですもの。
新井
最後にこれから脚本家を目指す方にメッセージをお願いします。
森
脚本家の地位がどんどん下がっていると感じるんですよ……
世間の目がどうあろうと、これから脚本家を目指す人には、「自分が土台になるものを書くんだ」という気概と自負をもって欲しいですね。
- 森先生の作品世界に浸る音ナイトを開催
2017年2月6日にお亡くなりになられた故・森治美先生の月命日である2月に、森先生の作品を通してラジオドラマに親しむ「音ナイト」を開催します。「少しでも脚本、シナリオを愛してくれる人が増えて欲しい」という森先生が遺してくれたことばに、報いることができればと思っています。
ラジオドラマは、一人で聴くものですが、「音ナイト」ではみんなで聴きたいと思います。
是非、ご参加ください。