『弱虫ペダル』(秋田書店)/渡辺航
注目ポイントはキャラクター
千葉から往復90kmの秋葉原にママチャリで通いつめるひ弱なオタク少年・小野田坂道。そんな小野田が自転車ロードレースに出会い、その才能を開花させる。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回取り上げるのは『弱虫ペダル』。「この作品が顕著なのは主人公の能力が天性のものではない所」と仲村講師。こういった主人公の設定に読者をひきつける魅力があるのです!ではどんな設定がされているのか、ご紹介!
注目ポイントはキャラクター
千葉から往復90kmの秋葉原にママチャリで通いつめるひ弱なオタク少年・小野田坂道。そんな小野田が自転車ロードレースに出会い、その才能を開花させる。
友人・Kちゃんがピンチだ。イジメ事件が発生中である。事件の現場はバレエ教室。発足3年、全員ドシロートのミセスクラスである。そこにドシロートのKちゃんが入会したのは1年前。
ところが。あれよあれよという間にKちゃんは才能を開花させ、なんとトウシューズをはけるほどに上達した。面白くないのは先輩の奥様がただ。
「こっそり別の教室に通ってるんじゃないの?」「小さい時バレエやってたりして」と追求される日々。「フツーにレッスンしてるだけです」と言えば「私達が真面目にレッスンしてないっておっしゃるの?」と逆ギレされるんだと。
おお怖い。「んなことばっか考えてるから、あんたらは上手くなんねーんだよ!」とか言ってやりゃいいのに。
ま、それはさておき。私の推理では、上達の理由はおそらく育った環境だ。
Kちゃんが育ったのは「友達の家は山ひとつ越えた向こう側」ってくらいのど田舎。学校の行き帰りや友達の家に行くために毎日山を上り下りしていたんだそうだ。なんかケニアの陸上選手みたいな逸話だけど、そりゃ足腰も鍛えられるわ。
能力は環境によって作られるのよね。……というわけで今月はこの作品。
※You Tube
TOHO animation チャンネル2018年2月14日(水)リリース!
TVアニメ『弱虫ペダルGLORY LINE』オープニングテーマ
Rhythmic Toy World「僕の声」アニメMV公開!
ひ弱なメガネ君・小野田坂道。小学校3年の時から秋葉原にママチャリで通いつめる彼の夢は「高校でアニメ研究部に入って友達を作ること」。
だがアニ研は部員減少のため廃部になっていた。
落胆する小野田。そんな小野田の前に現れたのは中学時代は圏内屈指のロードレーサーだった今泉。
斜度のキツい校門裏の坂をママチャリで登ってしまう小野田に興味を持った今泉は「負けたらアニ研に入ってやる」条件で小野田に勝負を申し込む…。
いわゆる王道サクセススポ根ドラマである。
だが、この作品が顕著なのは主人公の能力が天性のものではない所。
しかも「体育の成績はDなのに自転車競技にだけは適性がある」という一見矛盾した設定にきちんと理由付けがされているところだ。
小野田の家は急坂の上にある。だから毎日上り下りをしなくてはならなかった。そんな急坂では友達も寄りつかない。孤独な小野田はアニメオタクになりアキバ通いが始まる。
だがママチャリのギアがスピードが出ないよう細工されていたため、ペダルの回転数をあげないとアキバに早く着かない。こんな悪条件ゆえに自然に自転車の適性能力だけがついてしまったのだ。
さらに、アニメと自転車だけが友達だった小野田の、物語序盤の行動や決定はほぼ「友達が欲しい」という、幼い頃から満たされなかった欲求が基になっていることにも注目してほしい。
15歳には15歳なりの15年間のドラマがある。それらを丁寧につみあげていった先に、主人公の「今」が生まれるのだ。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2012年12月号)より