○田嶋さん:『サザエさん』には、毎週必ずお名前がクレジットされていますが、毎月どのようなペースで書かれていますか?
○雪室さん:『サザエさん』の場合は、コンストラクションを考える時間は別ですが、書き始めたら1本2~3時間で書けます。
逆に、悩んだりして短時間で書けない作品はつまらない。
現在はこれを1週間に2本弱のペースで上げています。
僕が一番大事にするのは、シナリオのリズム、テンポですね。
○田嶋さん:雪室さんは、初稿が決定稿で、直しをしないという噂を聞いたことがあります(笑)。
○雪室さん:直しは、1カ所ダメだと言われて、そこだけチョコチョコっと直せばいいというものではないでしょう。
いいシナリオは全体が連動しているんですよ。1カ所20カ所直して、面白くなるなんてことはあり得ません。やるなら根本的に直さないと。
自分が納得していないのにプロデューサーの言いなりに直す、これは最悪だと思います。
僕はプロデューサーには「1ヵ所直して満足するのはあなただけ、視聴者は満足しない」と言って突っぱねます。ただ皆さん、くれぐれも僕の真似はしないでください(笑)。
ちゃんと納得して直していれば、自分の身に付く。
僕がこれだけ長い間なんとか食ってきたというのは、自分の言葉で書いてきたからだと思います。
ただ通したいという一心で、自分が理解できない、感情移入できないシナリオにしてしまうのは、視聴者に失礼だと思うんです。
そういう番組は、まず当たらない。僕は、当たらない番組を書いしまうことがすごく嫌です。
たくさんの人に見てもらうのも、少しの人にしか見てもらえないのと、書くエネルギーは一緒でしょう。だったら、書きやすい環境を作ってもらわないと困るんです。
○田嶋さん:同感ですが、雪室さんだから、そのような発言ができる。真似はできないです。(笑)。
○雪室さん:でもね、自分では直しをしているんですよ。
書きっぱなしということは絶対にない。
大体、締切の1週間くらい前には初稿が上がっています。
それに自分で手を入れて、しばらく冷却期間を置く。
それを3稿くらいまでやって、それから渡すというスタイルです。
○田嶋さん:『ちびまる子ちゃん』の場合は、初めプロットを書いて提出、採用になると2回くらい直した後に、シナリオは3稿くらいでようやく決定稿になるという感じです。
『ちびまる子ちゃん』以外の仕事もいろいろしてきましたが、初稿OKということはまずないです。
○雪室さん:僕はプロットも一切書きません。いきなりシナリオに入っていく。
プロットを書く才能と、シナリオを書く才能って違うんですよね。
でも、新人には絶対にプロットを書くことが要求されますから、僕のことは例外だと思って聞いてくださいね。
○田嶋さん:現場ではプロットが書けないとシナリオも書けないと思われてしまいます。
私もデビューして一番苦労したのがプロットの書き方です。自分で勉強するしかないんですが…。
○雪室さん:逆に、シナリオを書いちゃって、そこからプロットを起こしていくという方法もありますよね。面倒くさいけど、手間は同じじゃないですか。
僕がなぜプロットを書かないかというと、プロット通りにシナリオが上がらないから。
プロットを書かない代わりに「シナリオはボツで結構です」と言います。
○田嶋さん:プロットは理屈で書き、シナリオは感覚で書くというところがありますね。
○雪室さん:つまりプロットはストーリーを書き、シナリオは人間を描くんですね。
新藤兼人監督の自伝映画『愛妻物語』の中に、修行時代の新藤さんが書き上げたシナリオを、師匠の溝口健二監督に読んでもらうと「これはプロットでシナリオではない」と突き返されるシーンがあります。
そこで新藤さんは『近代戯曲全集』を読破して勉強したといいます。
プロットで追いかけていくと、単なるストーリーになってしまう。
でも、観客が見たいのはストーリーじゃなくてキャラクターなんです。
寅さんが良い例です。
いつも同じような話だけれど、寅さんだけでなく脇の人物が実にうまく設定されている。
面白いキャラクターができると、ストーリーは後からくっついてくるんです。
いけないのは、ストーリーに合わせてキャラクターを作ってしまうこと。
皆さんのシナリオを読んで一番気になるのは、ストーリーを優先していることです。
「この人物なら、こういう行動にはならないはずだ」ってことを平気でやる。それは先にストーリーがあるから。電車に例えたら、なんとかしてダイヤ通りに動かそうとする。
でも、シナリオはダイヤ通りに動かないものです。
動かないところが、実は一番面白い。
いいシナリオは、プロット通りに上がるはずないんです。
でも構成は大事です。
たった7分、ペラで30枚ほどのシナリオですが、きちんとハコ書を作ります。
ハコ書で一番頭を使うのは出だしですね。
いいファーストシーンができれば、次のシーンも連動的に良くなる。
それから、ハコ書にはストーリーよりセリフを入れます。
ハコ通りにいかないことや、ラストが変わってしまうこともよくあります。
ただし、ハコは絶対に作らないとダメというのが、僕の持論。
ダイヤ通り走らないとしても、この列車はどこに行くのかを決めないとね。