おめでとうございます。是枝監督
シナリオ・センター代表の小林です。是枝裕和監督の「万引き家族」が今村昌平監督の「うなぎ」以来21年ぶりに、カンヌ国際映画祭の最高賞「パルムドール賞」を受賞され、大きな話題を呼んでいます。
是枝監督は「そして父になる」で審査員賞を4年前に受賞。今期の日本アカデミー賞も「三度目の殺人」で6冠を受賞され、日本で今一番花のある勢いのある監督です。
本当におめでとうございます。
各国のマスコミは「家族の人生や驚くべきドンデン返しを繊細に描いている」「貧しく、先の見えない家族の姿を丁寧に表現している」「ぬくもりを感じる映画だ」「家族のきずなや人間模様を鋭く描いた作品」と高く評価しています。
今受賞作「万引き家族」は、カンヌ国際映画祭では、満場の拍手で受け止められました。
しかし、日本の貧困層を描いて、「日本の恥だ」とか「日本の国際的信用を失墜させた」「日本人がみんな万引きしているように思われる」とか驚くような批判をされる方々がいらっしゃるそうです。
まだ公開されていませんから、あらすじとか予告編だけで批判されているので本質を見極めてのことではないのでしょうけれど、おばあさんの年金6万円と万引きで生活をしている家族を描いた作品というだけで、批判されるのではたまったものではありません。
映画は、国威発揚以外は認められなかった戦前戦中を思い出します。
映画がつなぐもの
昨今の社会は、是枝監督が描くまでもなく、貧富の差が激しく、貧困層は本当にひどい生活を強いられています。
「万引き家族」は、家族の生活費をおばあちゃんの年金6万円だけ、万引きで暮らしている家族のお話しですが、親の年金をもらうために親の死亡届を出さないという事件は、現実に頻繁に起こっています。
私の友人は、親を介護するために仕事を辞めなくてはならず、当然収入は絶たれました。生活費は親の年金だけです。
ですが、15年間介護し、親を看取った友人に遺された現実は、貯金も底をつき、親の年金もなく、歳だけとって仕事もみつからず、家もなく、自分の年金はまだ入らず、泣く泣く生活保護を受けざるをおえない生活でした。
幸いなことに友人の1人が住み込みの仕事を斡旋してくれたことで、今は自活して生きていますが、こんな話は珍しいことではありません。
高齢化社会になって、ますます親子の老老介護は当たり前になり、親の年金が亡くなった時、働く場所もなく年金の狭間に遺された子供は食べていけなくなる・・・ひどい現実です。
もらえたにしても、困らずに暮らせるような年金は、国民のほとんどがいただくことができませんが。
死亡届を出さない人を批判することは簡単ですが、奥底に潜むものを見つめる、想像する力を持たないとただの批判だけ、バッシングだけに終わってしまいます。
ものごとには必ず正面から見ただけではわからない側面があり、あらゆる見方が必要だと思います。
本質を見極めるというのは本当に難しいことで簡単にはできないことだと思いますが、すべての人が一面だけでみないということを常に心して生きていけば、少しはましな社会になるのではないでしょうか。
シナリオには、多面的にみることができる技術、力があると思います。
是枝監督は、この映画が「パルムドール賞」をいただいたことで「対立している人と人、隔てられている世界と世界を、映画がつなぐ力を持っているのではないかと希望を感じます」とおっしゃっていました。