観客の気持ち
シナリオ・センター代表の小林です。眠い。昨晩というか今朝というか、全仏オープンで西岡選手の壮絶な試合を見ていて、眠れませんでした。
足を痛めながらフルセットで4時間超の接戦を繰り返し、よし行ける!と思ったら、最後の最後に負けてしまいました。
大きなひざの故障をやっと治してのグランドスラム挑戦、気持ちを強く持って向かっていただけにとても残念でした。
その頑張り続けた西岡選手を会場の片隅でひっそりと見守っていた錦織選手、どんな気持ちで見守っていたのでしょう。
錦織選手は1回戦突破。それにしても、錦織選手が怪我で休んでいる間に、トップ10にあっという間に若い選手が増え、時の流れの速さを感じます。
でも、どっこい1・2位で頑張っているのがナダルとフェデラー選手、ベテラン健在です。
彼らを見ていると21位までランクを落とした錦織選手もまた駆け上ってくるのだろうと思うし、大坂なおみの活躍も期待できそうです。
私は、本当は勝敗はどうでもいいと思ってしまう人です。だって、勝負ってどちらかが勝ったらどちらかが負けるに決まっているのですもの。当たり前ですけれど。(笑)
それよりも、どれだけ心を尽くし身体を駆使して試合に臨んでいるか、それが試合の面白さだと思うのです。純粋に相手に向かっていくことだけを考えて、努力して、その瞬間に賭ける・・・それがスポーツの醍醐味ではないでしょうか。
観ている人を魅了するのは、小手先の狡いプレイではありません。
どんな強い相手にも、対等に真摯にぶつかっていけば、はねつけられても素晴らしいと見えるし、うまく頑張れたら賞賛の嵐になるし・・・そういうもんだと思います。
生きていくこともスポーツ同じで、もっとまっとうにやっていきたいものです。
しばらくは寝不足が続く2週間です。
忘霊トランクルーム
人は過去を引きずりながら生きていくものでしょうか。
出身小説家の吉野万里子さんの「忘霊トランクルーム」(新潮文庫刊)が文庫化になりました。
吉野さんと言えば、児童文学で有名ですが、こちらは大人向け。
大人から子供まで幅広い年代に合わせて書かれている吉野さんの力は並大抵のものではありません。
でも、考えてみたら子供向けだからといって、人間を描くことには変わりません。要は誰に向けるかだけですものね。
この「忘霊トランクルーム」の忘霊は亡霊ではありません。校正ミスではありません。忘霊です。
忘れてほしくない、忘れたい想いが織りなす人間とモノの物語。
鎌倉・片瀬海岸の一角に、主人公星哉のおばあちゃんが自宅の一角でやっているトランクルームがあります。
星哉は、アメリカ長期旅行へ行くおばあちゃんに頼まれて、お留守番のバイト。17歳で初めての独り暮らしが始まります。
トランクルームのお客様は、年上の魅力的な女性西條さん以外は、なんとみんなモノに憑りついた幽霊たち。
でも、見えるのはおばあちゃんと星哉だけ。 そのことを知っている西條さんと仲良くなる星哉は、彼女に淡い憧れをいだきながら、二人でトランクルームに置かれているモノに憑ついている忘霊の想いを解放してあげようと、動き出します。
ペンダント、千人針、ウエディングドレス・・・それぞれのモノには、持ち主の哀しい切ない思い、過去が憑いており、ひとつひとつに心寄せたくなるエピソードがあるのです。
そして、それは星哉の驚くような過去に繋がっていきます。
吉野さんの「想い出預かります」(新潮文庫刊)、「海岸通りポストカードカフェ」(双葉文庫刊)も、やはり様々な想い出を大切にしているお話しでした。
吉野さんの小説は、いつも他人の想いを大切に大切に汲み取って描いていらっしゃるので、優しい気持ちにさせてくれます。
吉野さんの小説を読まれると、こんな登場人物たちのそばで暮らしていたい、と誰もが思われることでしょう。
口から紡ぎだすのは誰もがわかる嘘ばかりの屑な大人たち、そんな世の中に爽やかな風を運んでくれる小説です。是非ご一読を。