「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)からご紹介。
途中で飽きずに、最後まで眼が離せなくなるドラマの脚本はどう作ればいいのか。ヒントはシナリオ・センター出身ライターの根津理香さんが脚本を手掛けたドラマ『絶対彼氏』にあります。“先輩”の作品から学んでいきましょう!
話をまとめていませんか?
こんにちは。エンゼル浅田です。あなたのシナリオをパラダイスに導きます。
話をまとめようとしていませんか?
話をまとめようとすると、作者や主人公に都合よくなってウソっぽくなったり、葛藤がなくなって盛り下がったり、どこかで観たことがあるようなパターンになったりと、ロクなことはありません。
特にクライマックス。一番盛り上げたいところなのに、話をまとめようとすると、ガク~ンと盛り下がってしまいます。
どうして、まとめようとしてしまうのか?
一番大きな原因は、ああなってこうなってとストーリーを考えて、ストーリーを書こうとしているからです。今まで何度も書いてきたので耳にタコかもしれませんが、ストーリーでは面白くなりません。
いや、そこそこにはなります。決してつまらなくはない、うまくまとまっている、でも、もう一つ面白くない……。ストーリーでは、そこそこにしかならないのです。
まとめないようにするための1つの方法として、クライマックスで、どっちに転ぶか決めておかないという手もあります。クライマックスを考えておかないわけではありません。
たとえば裁判で主人公が有罪となるのか無罪となるのか、判決が言い渡される瞬間をクライマックスにするところまでは考えておくのですが、じゃあ有罪になるのか無罪になるのかは決めておかないのです。
無罪と決めてしまうと、どうしても無罪になるように無罪になるように、つまり、まとめようまとめようとしてしまいがちです。でも、決めておかなければ、無罪になるようにも有罪になるようにも描いて、どっちにでも転ぶようにしておきます。そして、最後の最後まで、どっちだ? と思わせるようにしてみてください。
本当は、どっちに転ぶか決まっていたとしても、どっちにでも転ぶように描けるといいですね。研修科では、クライマックスを描く『裏切りの一瞬』『愛する一瞬』『憎しみの一瞬』『別れの一瞬』という課題があります。
たとえば『裏切りの一瞬』なら、主人公が裏切る一瞬をクライマックスとして描くわけですが、みなさん、主人公が裏切るように裏切るように描いてしまがちです。でも、それは結果としてストーリーを自分の都合よく運ぼうとしてしまっています。うまくストーリーをまとめようとしていることになるのです。
逆に、主人公が裏切ろうとしないように、裏切れなくなるようにも描いてみてください。裏切ろうとする、けど、裏切らないでおこうおする、が、やっぱり裏切ろうとする、でも、裏切れないと思う、しかし……みたいな感じです。
そして、ついに有罪に決まりそうになったら、あるいは、いよいよ主人公が裏切ることになったら、もう一つ引っくり返せないか考えてみてください。最後の最後まで、もう一つ引っくり返してやるのです。
そうすればグイグイ盛り上がって、観客や視聴者が「面白い!」と思ってくれるクライマックスになること間違いなしです。
『絶対彼氏』の最終回
今回は『絶対彼氏』の最終回を観ていきたいと思います。
速水もこみちさん演じる理想の彼氏ロボットが開発され、モニターとして相武紗季さん演じる井沢梨衣子が選ばれます。梨衣子の理想の彼氏データがプログラムされたロボットが、梨衣子のもとに届けられ、一緒に生活することになるのですが……という、ちょっとだけSFチックな「困ったちゃんと同居」型コメディータッチのラブストーリーです。
天城ナイトと名づけられたロボットを演じる速水もこみちさんがハマリ役です。鴨居をよけようとせず頭をぶつけたり、顔が小さくて手足が長い容姿もあって、実はもこみちさん自身が本当にロボットなんじゃないかと思えてきます。
また、第1話の冒頭で、いきなり全裸(もちろん大事なところは映りません)で登場したり、パンツ一丁や裸にエプロンなど、もこみちさんのセクシーショットが、特に前半、たくさん盛り込まれています。
もう一つ、エンディング曲の良さにも触れさせてください。最近、興ざめするエンディングが多く、大人の事情もあるのでしょうが、逆に、そんな事情を想像させられるとシラケてしまいます。このドラマのエンディング曲(絢香さんの『おかえり』)はドラマと一体となって毎回毎回、ジーンとさせられました。
さて、最終回ですが、連続ドラマの最終回って失望させられることが多いと思いませんか? すごく引きこまれて毎回観てきて、さあ、最終回どうなるんだろうと期待したのに……なんてことが、よくあります。原因は話をまとめようとしてしまっているからでしょう。
『絶対彼氏』は期待を裏切らない最終回でした。それどころかグイグイ引きこまれて感動させられ、これで終わってしまうのが名残惜しく、まだ続いてくれるといいなあと思わせてくれる最終回になっていました。
まず、いきなり引っくり返します。
第10話の終わりに、ロボットが感情を持ち始めたことで危険と判断され、ナイトは回収されてしまいます。梨衣子はパティシエ修行で向かおうとしていたパリ行きをやめ、ナイトを助けようと駆けつけますが、間に合わず、目の前でキーボードが押され初期化が実行されてしまいます。
ところが最終回の冒頭、初期化が実行されたはずなのに、コンピューター画面に「初期化エラー」と表示されナイトが動き始めるのです。
最後の最後まで目が離せない
さらに信じられないことに、第10話からナイトの機体温度が上昇しシステムエラーを起こしていたのが「危険温度」「機体温度上昇中」の表示が消え「機体温度正常」と表示されるのです。
梨衣子は、原因が不明なままではあるもののナイトが修復されたと思って喜びます。
と思ったら、また引っくり返します。
メインICの稼働率が「53%」と表示されるのです。
そうとは知らず、梨衣子はナイトが正常に戻ったと信じています。ナイトとデートしながら「ずーっと一緒だよ」と言います。
しかし、ナイトのメインIC稼働率は「40%」と表示され「39%」と下がっていくのです。
梨衣子はNのイニシャルがついている手編みのマフラーをナイトに渡して「手袋でしょ、セーターでしょ、帽子でしょ。来年も再来年も毎年いっぱい編んであげる」と言います。
しかし、ナイトのメインICの稼働率は一気に「2%」から「1%」に。
その夜、ナイトは「愛してるよ、梨衣子、ずーっと愛してる」と梨衣子の寝顔にキスをし、部屋を抜け出すと自分を生み出した開発者に会います。もうすぐ自分の全機能が完全に停止すると告げると「俺は梨衣子を愛せて幸せでした」とマフラーのNのイニシャルに手を当てます。
すると、あっけなく「1%」が「0%」になるのです。
ところが、これで終わったわけではありません。最後の最後に、もう1つ引っくり返しているのです。
翌朝、ナイトの開発者が梨衣子を訪ねてきて、ナイトはもう帰ってきませんと告げ「これはゼロワン(ナイトのこと)が、あなたのために必死に生きた証です」とナイトの焼け焦げたICチップを渡します。
そのICチップにはナイトからのメッセージが残されていたのです。
梨衣子はメッセージ映像をパソコンで観ます。つまり、パソコンの中にナイトを生き返らせ、ナイトと梨衣子の別れのクライマックスを作っているのです。
それは最後のデートの待ち合わせで、ナイトは遅刻している梨衣子を待ちながら鏡に向かって語っているのです。
そのメッセージを聞きながら梨衣子は涙を流し、ナイトを70年ローンで購入したときの貼紙や、いつもナイトが充電していたトイレ、ナイトからプレゼントされたコックコートや「リイコなら夢をつかめるよ」と書かれたプラネタリウムのチケットなどが映されます。
引っくり返して、引っくり返して、引っくり返しているので、ラストで格納ボックスに収められたナイトが映るのですが、何だか、今にもまた動き出すような気がしてしまいます。本当に最後の最後まで目が離せない最終回になっています。
話をまとめようとしないクライマックスのコツ、分かっていただけましたでしょうか?
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P109より
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★次回は7月21日に更新予定★
ドラマ『絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~』データ
2008年4月~6月(全11回)
フジテレビ系列火曜9時枠
制作:フジテレビ 共同テレビ
企画:金井卓也
脚本:根津理香
演出:土方政人 佐藤源太・北川学
原作:渡瀬悠宇
プロデューサー:橋本芙美
出演:速水もこみち 水嶋ヒロ 相武沙季他
平均視聴率:13.2%(最高視聴率:15.1% 第3話)
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