三羽のカモメ
シナリオ・センター代表の小林です。台風は、またまた西日本、九州四国へ。どこまで痛めつければ気が済むのか、やくざみたいな問答無用なやり口、どこかの国のトップみたいな天候です。(笑)
東京も暑いですが、風がある分、あの猛暑から考えたらちょっと涼しいのかも知れません。
燦々と輝く太陽、船が一艘浮かんでいる。カモメが三羽飛んでいる風景・・・。
プロデューサー、ディレクターの研修で、この光景を2分ほどで描いていただきます。
絵心があるなしは別として、ひとつとして同じ構図がありません。3つを描くだけなのに、全員全く違う絵を描きます。
人が持つイメージは、それぞれみんな違うのです。
もちろん、そんなことはどなたもわかっていらっしゃることでしょう。でも、実際に描いてみると、心にズンと響きます。なので、研修のときはズンと響いてもらいます。(笑)
だとしたら、私たちがドラマを創る時、視聴者、観客の人たちはどうみるのでしょう。
小説は自分の世界を読みながら創れますが、映像は他人が創った世界に入っていかなければなりません。
とすれば、描き手は常に見る人のことを考えて描かなければいけないわけですね。
二面性、やや強く
小説は、特に読者が勝手にイメージを広げます。
先日ラジオドラマでご紹介した吉野万里子さんの新刊のご紹介です。
「南西の風やや強く」(あすなろ書房刊)
私は吉野万里子さんが描かれる子供の世界が大好きです。
子どもと言っても侮ってはいけません。子どもはとても色々なことを感じ、色々と考えているのです。
そんな子どもたちの心を見事に描かれているのが吉野万里子さんの小説です。
この本の主人公は、12歳の時、ちょっとビビっていた強面の同級生とおみくじが縁で、南西に向かって家出をします。
そこから始まった二人の少年と一人の少女の交流を15歳の時の秘密、18歳のこれからを描いている青春グラフィティです。
吉野さんの小説の素晴らしさは、子供の複雑な気持ちをとてもよくわかっていらして、一筋縄ではない子どもたちを描いていることのです。
大人が読んでも子供が読んでも共感できる小説、なかなかこんな風に書ける作家は少ないかと思います。
人はみな、自分の中に色々なものを持っているものです。
別に多重人格というのではなく、弱みも強みも、長所も短所もあわせ持っているのですから。
常に2面性を意識することは、登場人物の深みを作り、魅力的に見せてくれます。
吉野さんの小説をお読みにいただくと、とてもわかりやすいかと思います。楽しみながら学んでいただければと思います。