マンガ 『健康で文化的な最低限度の生活』(小学館)/柏木ハルコ
注目ポイントは企画
新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。えみるは仲間たちと共にケースワーカーとして生活保護に向き合っていく。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座やSFファンタジー講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回取り上げるのは『健康で文化的な最低限度の生活』。注目していただきたいのは、格差社会が叫ばれる今の時代を映したかのような「企画」。「こういう話って本当にあるんだろうな…」と思いながらグイグイ引き込まれていく。「読者を感情移入させるにはどんな企画がいいのかな?」とお悩みのかたは“突破口”が見つかるかもしれませんよ!
注目ポイントは企画
新卒公務員の義経えみるが配属されたのは福祉事務所。えみるは仲間たちと共にケースワーカーとして生活保護に向き合っていく。
知り合いに週の半分は伊豆か軽井沢の別荘で過ごす奥様がいる。あとの半分は広尾の高層マンションで陶芸と料理とバレエをして過ごし、年に2回は1ヶ月ほど海外旅行に行く。
「(夫が)フツーに働いてたら、このくらいフツーの暮らし」ですと。んなわけあるかい。「ウチなんかデパートの外商が来ないからまだまだ」なんだそうだ。
その一方で、働きたくても様々な要因で働けない人、日々の暮らしにさえ困窮している人は大勢いる。消費税アップ、年金問題、少子高齢化……と暗いニュースばかりで、将来に不安を抱えている人はもっと多いだろう。
まさに格差社会。じっと手を見る今日この頃である。そんな中、満を持して発表された作品をご紹介したい。生活保護を題材にした意欲的な作品である。
義経えみるは新人公務員。福祉事務所に配属され、ケースワーカーとして110件の生活保護を担当することになる。
初日から受給者たちの現実を目にして疲弊困憊した夕刻、1人の受給者から「これから死にます」と電話がくる。
驚いて親戚に電話すると「いつものことだから放っておいて」と気にも留めない様子。ホントに放って帰ってしまって良いんだろうか。迷ったあげくえみるは留守番電話に「どうか早まりませんように」とメッセージを残して帰宅する。
だが翌日、えみるを待っていたのはその受給者の自殺の知らせだった。
やはり家まで行った方が良かったのではないか?
自分が悪かったのか?
いつものことだって言ってたのに話が違うじゃん…。
混乱するえみるを先輩職員が小声で慰める。
「たまにそういうことあるし。ここだけの話、1ケース(案件)減って良かったじゃん」
その後、自殺した受給者の部屋でえみるが見たものは何だったのか、そしてえみるが何を決意したのか、ぜひ読んで確かめて欲しい。
巻末の謝辞を見ると作者は綿密に取材を重ねたようだ。きれい事では済まないたくさんの現実を受給者とケースワーカー両方の立場から公平に描きつつも、フィクションとして、作家の思いとして、主人公のえみるを明るく前向きに描く姿勢に好感が持てる。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2015年9月号)より
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