マンガ 『IS~男でも女でもない性~』(講談社)/六花チヨ
注目ポイントは企画
「IS」とはintersexualの略。身体的な性別が男でも女でもない人のこと。世間の無理解や自らの劣等感に苦しみながらも、自分らしく生きようとする彼らの姿を描く。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座やSFファンタジー講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回取り上げるのは『IS~男でも女でもない性~』。注目していただきたいのは、事実を基にしたシリアスな題材なのに感情移入できる「企画」だということ。事実を基にした作品を書こうと思っているかたは、参考になりますよ!
「IS」とはintersexualの略。身体的な性別が男でも女でもない人のこと。世間の無理解や自らの劣等感に苦しみながらも、自分らしく生きようとする彼らの姿を描く。
あまりに暑いのでビール片手にぼーっとしていたら唐突に、シナリオの勉強をしていた頃のクラスメイト・Aさんのことを思い出した。
社会派ドラマばかり書いてた人で、「これは事実です」が口癖だった。うっかり「この展開(orキャラorセリフ)はピンと来ない」などと雑な感想を言おうものなら「面白おかしくするために、事実を歪曲する気はないです」とへそを曲げるし、面倒くさいったらありゃしなかった。
だ・か・ら。事実をまんまシナリオ化しても意味ないんじゃねーの。ドラマなんだしさあ。とはいえ、じゃあどうすりゃ「ピンと来る」のかさっぱり分からなかった私もまた未熟者であった。今なら黙ってこの本を差し出したであろうに。
主人公・星野春は二千人に一人の確率で生まれるIS。戸籍上は「女」だが、意識としては「男」である自分を受け入れ、隠すことなく前向きに生きている。
しかし思春期を迎えた頃から、身体だけがどんどん女性化する。夢は男女の差別なく働けるパティシエになること。そのために調理科のある高校に進学を希望するが女子としてしか入学が認められない。
春は夢のため、ISであることを隠し入学する。春はここで初めて恋を経験するが、相手は男子で、春がISだとは知らない。気持ちは男のはずなのに何故?
一方、身体の女性化を止めるホルモン治療を受けるか、その決断も迫られて…。というのが4巻くらいまでの展開だ。
後書きによると、作者は実際にISの人にも会ったらしい。取材や勉強は当然必要だ。
だが、もし作者が事実に縛られすぎていたら、つい説教口調になってしまったり、ドラマ性が薄くなってしまったかもしれず、結果、これほど多くの人に読まれる作品にはならなかったと思う
シリアスで難しい題材は敬遠されがちだし、書く方もつい悲観的に描きがちだが、このように「恋する女の子の気持ち全開な展開」や「とっつきやすい日常的な設定」「応援したくなるキャラ設定」で、感情移入させることが必要なのだ。
友情を育むこと、恋をすること、将来の夢のために頑張ること…。「フツー」の人間にはごく当たり前の高校生活すらISの春には難しい事ばかり。「人間は男と女しかいない」という「常識」の壁の外にはみ出した存在、それがISなのだから。
だが、春とその周囲の人間たちはその境界線を勇気を持って乗り越えようとする。その強さ、明るさ、ひたむきさに読者は心打たれ、作者が伝えたいテーマを感じる。人はみんな違っていて、それでいいのだ、と。
春が登場するのは第2巻からだが、読み切り2作掲載の第1巻も感動的なのでぜひ。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2011年10月号)より
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