人間パワースポット
僕はシナリオ・センターにはドップリ浸かっていました。基礎講座から本科に行って、研修科へ行って、作家集団。大学4年の時から作家デビューするまで、ずっと学んできました。
ものすごく恩のある場なんですね。シナリオ・センターにいたことによって、僕はどうにか作家デビューすることができたんじゃないかと思っています。
今日来ている皆さんは、小説家として、あるいはシナリオライターとして、生活を成り立たせたいと思っている人が多いと思うので、作家になるということ、つまり文章表現をやってどのように生活を成り立たせていくか、今日はその心構えを中心に喋ろうと思います。
小説家としての能力があるとしたら、それを使ってあと2つの職業ができると考えています。
ひとつは新興宗教の教祖。もうひとつは詐欺師。
僕の場合、どうにか小説家として成り立っているので、この2つに手を出さないでよかったと思いますが、小説というのは、要するに「世界」を作るんです。
新興宗教も詐欺師も、自分の世界を作ってそれを信じ込ませるというところが似ているかもしれない。
僕の場合は、すごくプラスのオーラを出していますので、今日、みんなに持って帰ってもらうものがあるとすれば、この「人間パワースポット」に触れて、モチベーションを高めてもらえればと思います。
角川書店から出した『人間パワースポット』は、僕の自伝のようなエッセイです。シナリオ・センターのこともいっぱい出てきます。僕がシナリオ・センターでいかに学んだかということが、具体的に書かれていますので、興味のある方は読んでみてください。
ではなぜ僕が「人間パワースポット」と呼ばれているかと言うと、僕と触れたり同じ空気を吸ったりすると、必ずいいことがある。自分で言ったんじゃないですよ、人から言われるんです。僕と一緒に仕事をすると、みんな実績が上がっていく。
例えば映画『リング』(1998年)に起用した中田秀夫監督、その頃は日活の助監督をしていて、『女優霊』という自主映画を1本作っただけでした。
でもその『女優霊』のビデオが、僕の知り合いのプロダクションの社長に渡り、たまたま僕が観た。それで『リング』の監督は彼にしようと提案しました。『リング』は東宝の正月映画として公開され、いきなりメジャーデビューして大ヒットしたわけです。
撮影中、中田監督が僕に「今住んでいる6畳の下宿は、雨漏りがして困る」と言っていたので、中田監督がその後作った『仄暗い水の底から』では、雨漏りのシーンがいっぱい出てくる(笑)。
でも『リング』が大ヒットして、その後『ザ・リング2』をハリウッドで中田監督が撮ることになった。製作費は70億から80億。そのギャラで、中田監督はビバリーヒルズに家を買いました。雨漏りする6畳一間からビバリーヒルズ! これも人間パワースポットのおかげです(笑)。
もうひとつ、人間パワースポットの本領発揮というというのを、皆さんにこっそり教えます。
16年前のことですが、NHKの番組取材でモンゴルに行きました。モンゴル相撲のチャンピオンのお父さんが、レスリングでオリンピックに出て、メダルを持って帰ってきた。モンゴル人でメダルを取ったのは初めてで、その人は国の英雄でした。
「息子が隣の体育館でモンゴル相撲をやっているから、見学に行ったらどうだ」ということになりました。すると、中学生たちがモンゴル相撲の練習をしていた。NHKのディレクターが「鈴木さん、中学生と試合やりましょうよ」と言うんです。
それで選手が出てきたけど、向こうはナメてるんです。日本から来た小説家なんてイチコロだろうと。相撲を取って、僕は勝ちました(笑)。2人目が出てきて、また僕が勝ちました。
すると次に、痩せて背の高い中学生が出てきて、大勝負になりました。なかなか勝負が決まらず、結局僕は負けたんです。
さて、その人は誰でしょう?
白鵬です。
その時、彼は中学1年か2年だったと思うんだけど、その後日本に渡り四国の高校に入って相撲をやるようになった……だから白鵬が優勝記録をどんどん伸ばしているのも、人間パワースポットのおかげということになるんですね(笑)。