マンガ『忘却のサチコ』(小学館)/阿部潤
注目ポイントは題材。
結婚式で新郎の俊吾に理由も告げられず逃げられた幸子。それ以来、頭の中は彼のことで一杯だったが、ある日、美味しいものを食す瞬間だけは俊吾を忘れられることに気づく。
シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。
マンガにはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えはマンガにある!シナリオ・センターにてマンガ原作講座やSFファンタジー講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回取り上げるのは『忘却のサチコ』。注目ポイントは題材。あっと驚くような奇抜な題材ではないけれど、読者を魅了する題材の好例です!仲村講師の解説をぜひ参考にしてください。
注目ポイントは題材。
結婚式で新郎の俊吾に理由も告げられず逃げられた幸子。それ以来、頭の中は彼のことで一杯だったが、ある日、美味しいものを食す瞬間だけは俊吾を忘れられることに気づく。
よく「嫌なことがあっても一晩寝ると忘れる」と言う人がいるけど本当だろうか?
私の場合はより問題点が明らかになり「よけい収まらん!」なんてこともあるが、最近はさすがに年齢を重ねたせいか「ま、いいや」と思えるようになってきた。忘れるのではなく、どうでもいいと結論するなんて、なんだか人生の達人になった気がする。(単純)
しかし世の中には「どうでもいい」と思えないこともある。
たとえば婚約者が突然去る。それも結婚披露宴も宴たけなわ、お色直しの間に理由も告げずいなくなってしまう。同僚や上司、友達、家族や親族の目の前でそんなことが起きたら、普通の女性ならきっと耐えられない。動揺し、泣き崩れ、わめきちらすだろう。失神するかもしれない。
だがこの物語の主人公・幸子は違った。
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ドラマスペシャル 忘却のサチコ
「ご祝儀もすべて返金させていただく所存でございます。本日はお忙しい中、どうもありがとうございました」。
幸子は表情ひとつ変えず白無垢姿のまま深々と高砂から一礼するのである。幸子は新郎を好きでなかったのか? 否。
そうではない。これまで理性的かつ合理的かつ真面目に生きてきたため、感情がついていかないだけなのだ。
翌日から幸子の頭の中は逃げた新郎・俊吾で一杯になる。誰を見ても俊吾に見え、何を聞いても「俊吾」と聞こえ、膝から力が抜け大泣きして初めて感情がおいつく。「こんなに好きだったなんて…」。
このままではいけない。でもどうしたらいいんだろう。
そんな時ふらっと入った食堂で鯖味噌定食を食べた幸子はあまりの美味さに恍惚とする。
「ごはんいってサバ!サバいってごはん!ごはんごはん、味噌汁!(中略)この口の中の状態が永久に続けばいいのに」
ああ美味かった!と店を出て気付く。「今…私…俊吾さんのこと忘れてた?」。
この瞬間から幸子の人生は変わる。美味しいものを食べればその瞬間だけは俊吾の事を忘れられる。こうして幸子は忘却の彼方をめざして美食の道に足を踏み入れるのである。
お店紹介もグルメなうんちくもない。だが無性に幸子と同じものが食べたくなる。
同じく「食で救われる」主人公といえば大島弓子作『ダイエット』という短編がある。主人公・福子は家族との軋轢を忘れるために食べ続け「ニルヴァーナ(心の平安や解放)」を得、重い節食障害に陥ってしまう。
だが福子は友情によって救われ自分の存在意義を見いだす。ではサチコを救うのは誰か。俊吾との復縁はあるのか? 興味はつきない。
出典:仲村みなみ著『マンガから盗めっ!』(月刊シナリオ教室2017年1月号)より
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