「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
柏田講師は、「優れた作家の文章や表現を自分の身体の中に入れ込んで消化して、そこから自身の文章を磨いていくしかない」と言います。やはり、読みやすい文章を書くにはやはり読書が大切なのではないでしょうか。ですので今回は読書の必要性を柏田流にお伝えいたします。日頃、「小説家になるなら本を読まなきゃいけないよね…」と後ろめたさを感じているかたは、このコラムで自分に発破をかけてください!
読みやすい文章は最低条件です
芥川賞作家の平野啓一郎さんが書かれた『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP新書)では、小説の読み方として、(書き手の魂や作品の狙いを理解するために)「熟読」をすべきだが、「音読」や「書き写し」はあまり意味がないと書かれています。
私は立場的に、間違いなく平野さんに比べると、いわゆるアマチュア、作家志望者の習作を数多く読んでいます。その経験から痛感していることこそ、繰り返し述べている「作家志望者が小説を読んでいない」という事実です。
なぜそれが分かるのかというと、習作自体(書き手本人は小説だと思っている)が、小説になっていない、小説以前で、明らかに作家による本物の小説を(ちゃんと)読んでいないことが要因だと透けて見えるから。
もちろんレベルの差があって、それなりに通用する文章力であったり、内容としてもおもしろい作品もあります(印象として20~30作に1作くらいかな)。
そういう書き手は、さらに文章力に磨きをかけ、その人にしか書けない題材なりテーマを発見できれば、小説の新人賞をゲットするのは時間の問題でしょう。
また、小説はそれなりに読んでいると思わせる書き手もいます。
ただ、当たり前ですが、読書量が多いからといって、優れた書き手になれるかは分かりません。読書は作家になるための必須条件ですが、通用する小説を書くには、その人なりの世界、個性、文章(文体)、さらには物語を作り上げる発想力や構成力も(これら全部をひっくるめて“筆力”でしょうか)必要となります。
あなたの文章はどうですか?
ともあれ、小説で世に出るには、内容以前の問題として、読者を立ち止まらせることがなく、すんなりと小説世界に導く文章力が必要です。これを身につけるには、習作を山のように書きつつ、小説を読むことで、プロ作家から吸収(盗む)しかありません。
【夕陽が海の向こうの水平線に沈んでいこうとしているので、函館の街が古きヨーロッパの港町のような夕焼けの色の街並みに染まろうとしていて、チラチラと灯り始めた、町の明かりが地上の星座になって輝いている。】
【鈴木伸一郎は、引き出物ならこれを贈る相手に渡せば誰も文句をいわない高級品、お馴染みの大東京団子の老舗団子屋「大東京本舗」で、高級デパートでも売られている有名店の跡継ぎとして生まれた。】
若干アレンジしましたが、この2つの文章は、宿題として提出された受講生の作品の書き出しです。書きたい情景や人物情報は分からなくもないのですが、読んでいて頭の中が渦巻いてしまいそうです。
こうしたクセの強い文章から、ある程度の通用する文章を書けるようになるには、プロ作家の文章を書き写す、それも音読をしながら繰り返す。さらには次に自分の書いた文章を音にして読んでみて比較するしかありません。
私の文章はこんなではない、普通に読める文章を書ける、と思った方は多いかもしれませんね。でもシナリオのト書ならば通用したとしても、小説の文章はそれだけでは通用しません。
読みやすさは最低の条件で、その書き手だけの文章、表現法が小説の質を高めます。通用する文章力を身につけるには、優れた作家の文章や表現を、自分の身体の中に入れ込んで消化して、そこから自身の文章を磨いていくしかないのです。その一番の有効な手段が「書き写し」や「音読」です。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2016年10月号)より
★次回は6月1日に更新予定です★
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小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
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