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シナリオや小説についてなど、創作に役立つヒントを随時アップ!ゲストを招いた公開講座などのダイジェストも紹介していきます。

小説『 フレッシュプリキュア! 』を書いて/脚本家・前川淳さん

2016.04.13 開催 THEミソ帳倶楽部「アニメシナリオと小説 ~小説『フレッシュプリキュア!』を書いて」
ゲスト 前川 淳さん(シナリオライター)

シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』(今回2016年8月号)よりご紹介。
今回のゲストは、講座実施当時アニメシナリオライターとして21周年を迎えたシナリオ・センター出身の前川淳さん。
前川さんがシリーズ構成を手掛けたアニメ『フレッシュプリキュア!』の1年後を書いた、完全書き下ろし『小説 フレッシュプリキュア!』(講談社キャラクター文庫)の出版を記念して実施した講座の模様をご紹介します。小説とアニメシナリオの相違点、媒体が変わっても変わらない点、ライターになるまでのこと、アニメシナリオを書く場合の心構え等々、お話しいただきました。

初めての小説執筆

©『小説 フレッシュプリキュア!』講談社キャラクター文庫 税別620円

仮面ライダーシリーズなどを小説化している講談社のキャラクター文庫というところから、小説版プリキュアシリーズを出したいという話は以前から聞いていました。ただ出る順番は作品順ではないということでした。でも去年『小説ふたりはプリキュア!』と『小説ハートキャッチプリキュア!』が出まして、今回僕が執筆した『小説フレッシュプリキュア!』が出たというわけです。

『フレッシュプリキュア!』は放送終了から6年経っているんですが、主人公の桃園ラブの声優をやっている沖佳苗さんが幹事を務めて、年に2回くらいスタッフ・キャストで集まる「フレプリ会」というのをやっています。去年の5月くらいの飲み会で、小説版の話が少し出て「いつ頃かな?」なんて言っていたら、そのすぐ後に正式な依頼が来て、書くことになりました。

今回の内容は、アニメの放送最終話の1年後の後日談です。いわゆる新作書き下ろしですね。実は書き下ろしの小説を書いたのは初めてです。以前、別の作品で映画のシナリオを書いて、そのノベライズを手掛けたことがあるんですが、今回のように新しく書き下ろすというのは初めてなんですね。

なので、そんな僕が小説と脚本の違いを、こんな壇上から話していいものかと悩んだんですが、今日はあくまで僕が『フレッシュプリキュア!』の小説を書いた時に気づいたことや思ったことをお話しできればと思います。

小説と違って脚本は、それ自体が作品ではなく、その脚本を元に作られるドラマや映画、アニメが作品になります。一番の違いはそこで、脚本は設計図みたいなものですから、本来は表に出るべきじゃないと思っています。皆さんのように脚本を勉強される方は、プロのシナリオが読める状況にあった方がいいですが、本来シナリオはそういうものではないんですね。

今回小説を書くにあたって、半分は意図的に、半分は意図せずに、ちょっと脚本っぽく書きました。初めて小説を書くので、書き方にはかなり試行錯誤したというか……これで「僕は小説家です」って言ったら、本当に小説でメシ食ってる人に怒られるかもしれません(笑)。自然と脚本っぽくなった面もありますし、意図的にそうした部分もあります。

さらに言うと、この小説はアニメがオンエアされたときに観ていた子供たち、今は中学生とか高校生になっている層がメインターゲットで、要は〝アニメを観た人〟という前提で書いています。なので、登場人物だとか場所の風景とか、本来であれば細かく描写するんでしょうが、そこはテンポをよくするためにも、あえて飛ばしている部分があります。

たぶん、アニメを見ていないで小説を読んだ方は、タルトとシフォンが何かすらわかんないと思います(笑)。一応表紙とか帯にちょこっと出ていたりするんですけど。だから本当は、絵付きの登場人物表みたいなものを入れたらよかったんですけどね。

意図的に脚本っぽく書いたのはアクションシーンです。他のプリキュアシリーズではどう描かれているか知らないんですが、戦闘シーンは自然と脚本っぽくなりました。講談社の担当者にも言われたし、皆さんがよくおっしゃるのは「映像的である」ということ。故に脚本的であるということでしょう。「ぜひOVA(映像)で観たい」という感想も多くいただきました。

先に刊行されたプリキュアシリーズの小説2作はサイドストーリーとかだったので、ぜひ後日談をやりたいと僕から言いました。

というのも、もともと僕はずっと暖めていた『フレッシュプリキュア!』の後日談がありました。10年後、大人になったラブちゃんたちの話。プリキュアのコアなファンの方は知っているかもしれないんですが、何年か前にプリキュアのムック本が出て、そこに寄稿した時にちょっと書いていたんです。

タイトルは『リ・フレッシュプリキュア!』にしようって。僕は映像作品で考えていましたが、そこに今回の小説の話が来た。だからまず最初にその話を書きたいと言いました。

ですが、今でも毎年『プリキュアオールスターズ』という映画が作られていて、それにもフレッシュプリキュアが出てくる。ということは、登場人物が一応現役でやっているので、大人の話はNGだと言われました。なのでそれなら10年後の話につながる、1年後の話を書こうということになりました。

小説と脚本の違い

『フレッシュ~』の脚本は、基本設定は大体プロデューサーが考え、それに沿ってストーリーをシリーズ構成が考えて、さらに各話ライターがお話を考えるっていう風にやっています。今回の小説でも、「こういうお話がやりたい」「ではこういうのはどうでしょう」って、基本的に同じようなやり取りをしました。

小説を書いてみて僕が思ったことは、書いた後に出版社の添削が入ったりはするものの、基本的に書いたままが完成品になるということ。ですが脚本の場合は、そこから絵が描かれてセリフが入って……って、映像になっていくわけですね。

スタッフも大勢の人が関わります。打ち合わせで監督から内容について「ああしてほしい」「こうしてほしい」って言われることもあるし、脚本がOKになっても出来上がった作品が全然違うものになっているケースもあります。

ライターの中には「絶対に脚本を変えるな」という人もいれば、「変えてもいい」という人もいる。僕は、良く変えてくれる分にはOK、悪く変えたら文句を言うというスタンスですね。『フレッシュ~』は割と脚本通りにやらせてもらった方です。僕は結構アニメを書いてますけど、その中でも1位か2位を争うくらいの代表作だと思っています。

ちなみに、もうひとつの代表作は『ボンバーマンジェッターズ』。こちらはまったく逆で、監督が絶対に脚本通りに撮らない人だったので(笑)。脚本に出てこないキャラクターが出ていたり、伏線とかもバンバン変えちゃうんですよ(笑)。変える前提だから、どんなホンでも必ず3稿でOK出すんですよね。こっちも直される前提で書いてるんだけど。

でも僕はこの監督の才能はすごいと思っていたので、直されたコンテを見て、「あ、そう来たか」と。じゃあ削られた設定を次のホンに入れてやれとか。逆に監督がすごいネタを振ってきたら、おもしろいから次のホンに入れようとか。そうやってキャッチボールをやって作っていました。

30分アニメ1話の脚本を書く場合、まずプロットを書いて打ち合わせ、次に初稿を書いてまた打ち合わせして直す……というように、週に一度打ち合わせをしながら進めます。

この小説の場合、企画が通ってから完成までに8カ月くらいかかりましたが、その間は一切打ち合わせもせずにひたすら書くだけ。途中で編集者に見せることすらしませんでした。だからだんだん不安になってくるんです。発注している側も、僕がちゃんと書いてるか不安じゃないのかなって思って(笑)。

一応締め切り日は決まっていたんですが、他の仕事も同時に進めていたので。脚本だと大体のスケジュールの目途はつくんですけれども、小説は初めてなので何もわからないままスタートしました。

しかも、フォーマットを間違えていて、正しいフォーマットに変換したらページ数が足りなくなってしまった(笑)。そこから大変で、ネタを足して足して、まぁそれで話は広がったかなとも思います。結局規定枚数ギリギリでした。

そんな紆余曲折があって完成し、実際に本屋で売られているのを見たときは感慨深かったですね。ちょっとハマっちゃってまた小説を書きたいなと思います。今度はもっと書き方を勉強してちゃんとしたオリジナルの小説を書きたい。そしてそれを映像化して自分で脚本を書けたらいいですね。

気持ちと発想は一緒

ちょうどこの公開講座の話をいただいた頃に、日本脚本家連盟のシンポジウムがあって「原作とシナリオ」というテーマで、シナリオライターの立場が弱いんじゃないか、もっと権威を復活させようと、編集者やプロデューサー、小説家、脚本家が話し合ったんです。

小説家を代表して浅田次郎先生がいらっしゃって、こんなお話をされていました。元々小説は、地の文8割、セリフ2割だと教わったと。ところが昨今の小説家はドラマの影響かわからないけれども、セリフで話を紡ぐ。故に映像的であると。だから小説をアニメなりドラマにするときに、パワーバランスとして原作者側が強くなっている。

本来は映像を前提にして書くのは脚本なんだけれど、原作者が映像を前提として書いているからバッティングするんじゃないか……というようなことをおっしゃっていました。確かに昔の太宰治のような純文学って、セリフが少ないなぁと思います。

ましてや今回のはライトノベルのジャンルだから、余計セリフのやり取りが多いし、脚本的になんだろうと感じました。読んだ方の感想で「挿絵があればいいのに」という意見もありました。

小説ということを意識して書き方は変えていますが、特に今回は自分が書いていたアニメの小説化だったので、気持ち的には脚本と一緒でした。発想から何から変えるということはなかったですね。書く前にどういう話にするかって考えますけど、それは脚本の時も同じです。

書いていて一番悩んだ点は、プリキュアが4人いますよね。みんなで話しているシーンで、脚本ならセリフの前に名前が来るからいいけど、小説の場合は4人がクロスオーバーでしゃべる時に、いちいち誰の言葉かを書くのか? それも変だよなって。他の小説も色々見たけれど、皆さんそれぞれの書き方があるわけで、その辺も試行錯誤して書きました。

だから今回、小説が好きでよく読まれている方から「小説として稚拙だ」と感想を書かれたりしているのは、まったくその通りだと本人が一番痛感しています。

たぶんそれと同じ意味で、「読みやすかった」と言ってくれる人もいて(笑)、そう言ってもらえると助かります。内容に関しては面白いと思ってもらえればいいかなと思います。

今回の小説の売れ行き次第ですが、大人になったラブちゃんたちの話を小説で出せたらいいなと思います。それに今回の小説を僕の脚本で映像化できたらいいなとも思っています。

東映は、僕が過去にやっていた『おジャ魔女どれみ』や『ハリケンジャー』でもOVAやシリーズ続編を展開していますので、そういうことができる会社だと思うし、『フレッシュプリキュア!』はそれができる作品だと思っています。今回、小説でひとつ実現できたことは嬉しいですね。

面白いと思った場面は絶対に使う

アニメの脚本でも、オリジナルと原作もののがあって、原作ものの場合は出版社サイドの人が打ち合わせに出るケースもあります。去年やった『電波教師』というアニメでは、原作者の先生自らがホン打ちやアフレコに参加するという珍しいケースでした。

夜中にやるような内容の原作を夕方5時半の『名探偵コナン』の前にやるので、どうしたって原作を変えなくてはならず、やりにくいなあと思っていましたが、実際お会いしたらとても話の分かる方で、普通なら原作者として怒りだしそうなときも笑って聞いてくれてたんで、懐の大きい先生だなと思って、その後一気に仲良くなりました(笑)。

そういう先生もいますが、揉める時はすごい揉めたりもする。小説を書く場合は、この「原作者側」になるわけですから、そういう立場になった時には真逆でしょうね。

ちなみに『小説フレッシュプリキュア!』には、原作・東堂いづみと書いてあります。アニメのオープニングでも同じクレジットが出ます。ご存知の方もいるかもしれませんが、実は東堂いづみという人はいません。

東映アニメーションの版権管理のために作られた架空の名前です。以前は東映動画という社名で、大泉にスタジオがある。略すと「とうどういずみ」、そこから付けられた名前なんですね。

なので事実上の原作者は筆者である僕ということになります。

漫画原作を映像にする時には、もちろん漫画のいいところを残そうと思ってやっています。最終的には面白くすることを第一に考えます。原作で面白いと思った場面は絶対に使う。ただ媒体も尺も違うんで、漫画通りにはできません。

どうしても変えなきゃいけない。意識としては漫画が素材で、こちらがどう料理するかってところがあるかもしれない。話の都合上シーンを入れ替えたりもします。

センター生から脚本家に

僕は初めは脚本家志望でなく、監督志望でした。ドキュメンタリー映像を撮影するような会社に就職したんですけれども、ドラマの現場がやりたいと思って助監督をやりました。

そういう映像の仕事をしていた20代、ちょうど結婚したり会社が倒産したりして、生活のために仕事が選べなくなりました。気づいたら映像とはまったく違う仕事をしていた。

でも映像の仕事に対する夢が捨てきれず、通信教育なら、仕事をやりながらでもできるなと思って、シナリオ・センターの通信講座に申し込みました。当時の添削は新井一先生だったので、自分では新井一先生の門下生だと思っています。

ただ、達筆でほとんど読めなかったという……(笑)。新井先生はとにかく褒めちぎる。それで「俺ってすげーな」ってテングになったんです。

ところが夏合宿(現・サマーセミナー)に参加したら、課題を出されて短時間で書くお題が出て、みんなは書けるのに俺は書けなかった。ケチョンケチョンに言われて、あぁこれは教室に通わなければいけないと思ったんですね。

その時は、シナリオライターを目指していたというよりも、夢を諦めるため、といったらカッコいいかもしれないけど、「これだけやったんだからもう十分だ」と思いたかった……その後まさかデビューできるとは思っていなかったですから。

きっかけは、当時『ドラゴンボール』のプロデューサーだった森下孝三さんの特別講義でした。森下さんの講義は非常に実践的で、課題を出して企画書を書いて来いというお題を出してくれた。良かったら採用する、ということでした。結局合格したものはなかったけれど、一つだけ揉めば何とかなりそうな企画書があるとおっしゃって、それが僕の書いた企画書だったというわけです。

それから僕と森下さんの2人で、その企画をああでもないこうでもないと話し合って、最終的にはその企画は通らなかったけれども、それが縁で「『ドラゴンボールZ』を1本書いてみるか」ということになりました。

当時、アニメの進み具合のほうが原作漫画に追いついちゃって、どうしようって時期で、引き伸ばし作戦に入っていたんですよね(笑)。漫画と漫画の間とか、コマとコマの間とか、この1コマで30分作れとか、そういう世界でした。

でもそんな状況のなかで僕は原作1話分まるまるもらいました。さすがにプロデューサーも初めての奴に任せるのは不安だったんだと思います。

鳥山明先生のセリフは一切変えるなと、足してもいいけど削っちゃダメと言われていました。なので「原作通りに書け」って言われたけど、漫画に描いてある内容をシナリオにするだけで埋まっちゃうわけです。

そうしたら、「確かに原作通りだけど、原作通り過ぎて実力がわかんない」って言われて(笑)。次の話は丸々オリジナルの話で。そんなことをやっているうちに、なんとかここまで続いたという感じです。だから、僕が『ドラゴンボールZ』でデビューできたのは、シナリオ・センターのおかげなんですね(笑)。

二足の草鞋の4年間

僕の場合は、就職も結婚もしていて子供もいるときのデビューだったんで、それまでの仕事をすぐには辞められませんでした。いつ仕事が切れるかもわからない状況だったので、結局4年間二足の草鞋を履いてました。

つまり、サラリーマンやりながら脚本を書いてました。打ち合わせは全部夜にしてもらって、皆さんの協力体制があったから何とかやれたって感じですね。

最初は、「3年やって脚本の仕事が途切れなかったら会社を辞めて脚本を本業にしよう」と思ってたんですよね。ところがちょうどその3年目に、勤めていた会社の社長さんが亡くなって辞めづらい状況になり、1年延長したんです。4年目になると、関さんという東映のプロデューサーが「仕事を振りたいから会社辞めて独立しちゃえば?」って言ってくださって、それで会社を辞めました。

するとすぐに関さんが「待ってたよ」って言ってくれて、約束通り『おジャ魔女どれみ』と『デジモンアドベンチャー』という一度に2つの仕事をくださいました。ありがたかったですね。

二足の草鞋を履いている4年間に『ドラゴンボールZ』『~GT』『美少女戦士セーラームーンセーラースターズ』と、リメイクの『ドクタースランプ』、特撮ものの『仮面天使ロゼッタ』の脚本を書きました。

ということで、脚本だけで食えるようになるには、4年かかりました。

今になって、僕自身、その4年間よくやったなと思いますね。何度も言いますが、周りの協力なしではできなかったと思います。僕は必死だったからあまり大変だという意識はなかったけど、周りは大変だったと思います。

具体的にどういうことかというと、打ち合わせは夜で、書けるのは土日しかないわけです。普通だったら子供が小さいうちは、土日はお父さんが遊んでやったりするんだろうけど、かみさんが子供を公園に連れてって僕は部屋で執筆、みたいなことをやってました。

今は打ち合わせは大所帯でやることが多くて10人を超えることもあるので、みんなのスケジュールを合わせるのが大変。でも『ドラゴンボール』は東映のプロデューサーとその助手の方、それとフジテレビのプロデューサーと僕の計4人だけでやっていたんですね。なので打ち合わせの予定が組みやすかった。

その後『セーラームーン』をやることになったら、さすがに土日で2本は書けないので、有休を使って書きました(笑)。

どうせバレると思ったので、会社には正直に言っていたんです。家族経営の会社だったので理解があって、「会社の仕事に差し支えないならいいよ」と言ってくれた。最後の方は有休も使い果たして、仮病を使ったこともありましたね(笑)。会社で寝ていたり。仕事に思いっきり差し障りが出てたし、バレてたみたいですけどね。皆さんの協力の賜物だったと、今でも思っています。

「子供向け」は意識しない

シナリオライターが一番好きな職業ですね。恵まれてるなって思います。サラリーマンも経験しましたが、あまり向いていないと思います。一時期は映画監督も目指したけど、1回だけ自主映画を撮ったことがありますが、やってみたら「やっぱり俺は脚本家だな」と思いました。

僕は現場の判断ができない。とっさに右か左か決められない。そういう人は現場向きじゃない。脚本でも1行のセリフですごい悩んだり、違うなと思ったら最初から全部書き直したりする。そういう孤独な作業が向いているので、やっぱり今の仕事が一番好きです。

僕は子供向けのアニメを書いているけれど、意外とそのことを意識していない。自分が書きたいもの、自分が観たいもの、自分が面白いと思うものを書いているだけ。「子供はこういうのが観たいだろ」って思いながら書いたことは一度もない。

時々、それでぶつかることもあります。「これはダメなのか」ってこっちが折れることもあれば、「どうしてもやりたい」と我を通すこともある。ケースバイケースです。

以前『~ジェッターズ』をやっている時に、「子供が観たいアニメではなく、子供に観せたいアニメを作ってます」と言いました。僕は基本、そのスタンスですね。たとえ子供番組であっても、受け手がどう思うかはあまり考えません。

プロデューサーが「今の子供は~」とか「今の女の子は~」とか言ってくると、僕は「じゃあ今の子供を連れてこい」とよく言い返していました。今の子供だって10人いたら10人違うはずだし、大人が変にわかったフリをするのはどうなんだろうという思いがあって。

僕が子供の時、子供向けの番組よりも親が観ていたドラマを一緒になって観ていた記憶があります。「これ、子供にはわかんないじゃん」って言われるんですよ。あくまで僕個人の考えなんですけど、わかんなくてもいいと思ってて。子供番組だからって、観た子供が100%わかんなくてもいいと思ってる。エモーションが通じてさえいればいい。

つまり、主人公が泣いてる、かわいそうだねって子供が思えればいいんです。お話のテーマ、核の部分が伝われば、途中の「このネタわかんないだろう」っていうのはわかんなくてもいいよなって思う。突っ放すときは突っ放しちゃってます。

『~ジェッターズ』にしても『デジモン』にしても、コアの部分は伝わってると思う。脇の遊びの部分は多少暴走したときもあるけど、そういうところがないと絶対に面白くないと思う。なんて言いつつも、一応モラルに反することは書かかないように気をつけてはいます。

アニメに限らずドラマもそうかもしれませんが、表現の規制については年々厳しくなっています。宗教関係、差別問題、イジメにつながる、交通法規、たばこや酒など……昔のドラマを見ると必ずと言っていいほど煙草を吸うシーンが出てきますが、最近の子供向けアニメでは大人でも飲酒やタバコを吸うシーンがNGとなっています。

自分は「職業ライター」

今後どういう仕事をやりたいか……。僕はあんまりそういうのないんです。いただいた仕事をやるのみ。自分で「職業ライター」って公言しているくらいです。家族を養うために脚本を書いている。

そう言うとすぐ金のためなら何でも書くプロデューサーの言いなり脚本家と思われがちですが、お金をもらうからこそいい加減な物は書けない、だから頑張る、というスタンスです。でもあえて言うなら、ハリウッドの仕事を手掛けてみたいですね。

僕はあまりシナリオのために何か特別なことをするタイプじゃなくて、ただ好きってだけなんですけど、舞台や映画を観たり、小説や漫画を読んだりはよくします。

みんな同じことを言うと思うけど、シナリオの仕事をするなら映画は観たほうがいいと思います。打ち合わせの時なんかでも、「あの映画のあのシーンみたいな感じ」って言われたらわからないと。今でも、自分が観ていなかったらレンタルして観たりします。

おススメの作品といえば、劇場版の『銀河鉄道999』は絶対にシナリオの勉強になると思います。石森史郎先生の素晴らしい脚本。

出だし数分でわかる、主人公のキャラクターと境遇、ヒロインとの運命的出会い、そしてそれを『起』として始まる、起承転結のお手本のようなストーリー構成……今度機会があったら詳しくお話ししたいですが、あれはシナリオのテキストになると思いますね。

ライターとして一番苦労することは、やっぱり書けないってことですね。人間ですからどうしても合う合わないがあります。以前どうしても合わないプロデューサーと組んだ時にはノイローゼになるくらい、帰りの電車の中で泣いたりしたくらい追い詰められました。

最近僕が若いライターに、ちょっときついダメ出しをしたら、「じゃあ降ります」って言われてすごいびっくりしました。当時の僕は自分から降りるなんて言えなかった。向こうから降ろされたらしょうがないけどね。この年になってこれだけ経験を積むと、そこまで追い詰められることはないけどね。

現場によっては、気合いの入る現場はあります。この間やった『ルパン三世VS名探偵コナンTHE MOVIE』は、あれだけのビッグバジェットですから、半年掛けて脚本を書きましたが、さらに監督が8カ月かけてアイデアをたくさん盛り込んだコンテを描き、すごく面白くなっていたと思います。

20年以上前、僕も皆さんと同じように講義を聞いていました。その時の生徒の数から考えるとシナリオライターになれたのはすごい確率だったと思いますが、ゼロではないですから。皆さんも頑張って、こっちに来てください。もし現場で一緒になることがあったらお酒おごるんで(笑)、1人でも多くこっちに来てくれたら嬉しいです。

〈採録★ダイジェスト〉THEミソ帳倶楽部「アニメシナリオと小説~小説『フレッシュプリキュア!』を書いて~」
ゲスト:前川 淳さん(シナリオライター)
2016年4月13日採録
次回は6月24日に更新予定です

※前川淳さんにご担当いただいたアニメシナリオ講座の模様はこちらのブログ「登場人物の履歴書を書く、ほんとの意味」をご覧ください。

※今回ご紹介した記事を映像でも!You Tubeで公開中
You Tube
面白いドラマの作り方を紹介 シナリオ・センター公式チャンネル
脚本家 前川淳さんの根っこ【Theミソ帳倶楽部】より

プロフィール:前川 淳(まえかわ・あつし)

1995年『ドラゴンボールZ』で脚本家デビュー。代表作は『デジモンアドベンチャー02』『ボンバーマンジェッターズ』『フレッシュプリキュア!』『魔法戦隊マジレンジャー』など。近年では第37回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞を受賞した『ルパン三世vs名探偵コナン THE MOVIE』の脚本を担当。

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