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小説のショートショート を書く際に目指すべきもの

「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
柏田講師は小説の修業として、ショートショートを書くことをオススメしています。今回は、ショートショートを書くときの良い見本となるオー・ヘンリーの名作『賢者の贈り物』の一部を引用しながら、読者を立ち止まらせずに読ませる文章について解説。ショートショートというと「オチが大事」ということが真っ先に思い浮かびますよね。でも、それだけじゃない、大切なポイントを知ることができます。小説家志望者はこのやり方を是非取り入れてみてください。

人物を特定しないオチが命の作品は小説的な作品

小説の修業として、ショートショートを書くことをオススメしています。前回は日本で一番のショートショート作家の星新一の『おーいでてこーい』を教材としてご紹介しました。お読みになりましたか?
※未読のかたはこちら「小説を書く第一歩 ショートショートを書く」を。

この400字詰め約10枚ほどの小説は、テーマ性は深いものを秘めつつも、オチが見事に決まった作品になっています。手法として客観的に底なしの穴を巡って起きること、変化を綴っていますので、特定の主人公がいません。ある意味、この星に住む人間たち(つまり読者ひとりひとり)が、当事者として身につまされるという結末になっています。

小説ではこうした手法もアリですが、シナリオとしてこの物語を作ろうとすると難しいのがお分かりでしょう。実際にネットで検索すると、数分の短いアニメになっているのを見ることができます。

シナリオである程度の作品にする場合は、やはり主人公を設定して、その人物の行動を追って、ドラマを展開させることがポイントになります。本作のような人物を特定しないオチが命の作品は、小説的な作品といえるわけです。

オー・ヘンリーの名作『賢者の贈り物』の描写

さて、海外の作家でショートショートを得意とする作家もたくさんいますが、真っ先に思い浮かぶのは、『最後の一葉』のオー・ヘンリーでしょうか。

『賢者の贈り物』という代表作もあります。まさか作家志望者で「読んだことがない」という方はいないでしょう。青空文庫で読めます。そこで読める結城浩訳バージョンは、400字詰めで15~16枚ほどです(ちなみに『最後の一葉』は約18枚)。

この掌編小説の主人公はデラという若い妻。デラにはジムという夫と二人で、週8ドルの家具付きアパートに住んでいます。不況下でジムは週20ドルの仕事しかなく極貧生活。

書き出しは、

1ドル87セント。それで全部。しかもそのうち60セントは小銭でした。小銭は1回の買い物につき1枚か2枚づつ浮かせたものです。乾物屋や八百屋や肉屋に無理矢理まけさせたので、しまいに、こんなに値切るなんてという無言の非難で頬が赤くなるほどでした。デラは3回数えてみました。でもやっぱり1ドル87セント。明日はクリスマスだというのに。

これでは、まったくのところ、粗末な小椅子に突っ伏して泣くしかありません。ですからデラはそうしました。そうしているうちに、人生というものは、わあわあ泣くのと、しくしく泣くのと、微笑みとでできており、しかも、わあわあ泣くのが大部分を占めていると思うようになりました。

デラは愛する夫のために、クリスマスのプレゼントをあげたいのに、手持ちのお金が2ドルもないことに嘆いている。

この書き出しでデラの人物紹介と状況を描写しています。“人生というものは~”以下はデラの心理描写ですが、なんとせつないか。

この後、デラとジムの苦しい日常や状況を綴りつつ、貧乏暮らしながらこの2人にはそれぞれの宝物があることが述べられます。デラは褐色の美しい髪、ジムは祖父、父から受け継いだ金時計です。

そしてデラはジムに最高の贈り物をするために、ある決心をします。

さて、デラの美しい髪は褐色の小さな滝のようにさざなみをうち、輝きながら彼女のまわりを流れ落ちていきました。髪はデラの膝のあたりまで届き、長い衣のようでした。やがてデラは神経質そうにまた手早く髪をまとめあげました。ためらいながら1分間じっと立っていました。が、そのうちに涙が1粒、2粒、すりきれた赤いカーペットに落ちました。

素晴らしい描写ですね。

読者を立ち止まらせずに読ませる文章力は不可欠

シナリオ・センターでは、シナリオの力をつけるために、課題に従って短い20枚シナリオをひたすら書きます。ここで目指すのは、20枚でオチがついてまとまるショートショート的なものではなく、人物を立体的、魅力的に描く、あるいは、おもしろい、映像として見えてきてドキドキするようなシーン(場面)を描く、さらには観客を感動させられるようなドラマを描く、といったこと。

むろん、そうしたドラマ性や人物、場面を配置するための設定の造りや、ストーリー展開も大切になりますし、(ペラで)20枚という短さの中でも、構成を考えなくてはいけません。つまりそれらを含めてのシナリオ表現力、描写力をつけるために、ひたすらたくさん書くわけです。

これを小説修業にも応用してしまおうというのが、ショートショートを書くというレッスン法です。

そのサンプルとしてこのコラムでは、ショートショートの傑作、星新一の『おーいでてこーい』(400字で約10枚)やオー・ヘンリーの『賢者の贈り物』(400字で15枚強)を取り上げました。

小説はシナリオと比べるとより自由に書けます。シナリオは基本三人称多視点ですし、設計図的な役目ゆえに書き方のルールがあります。小説は一人称か三人称か、という視点も作者次第ですし、『おーいでてこーい』のように、主人公を特定せずに神的な視点でストーリーを綴り、オチを見事につけて終わる、というのでも成立します。

ですので、20枚シナリオではあまりやってほしくない、典型的なショートショート的な作品(いわばオチ重視小説)も、小説ではOK(むろん作品として決まればですが)。もちろん、こうしたオチ重視小説であっても、読者を立ち止まらせずに読ませる文章力は不可欠ですし、展開のさせ方も書き手は心血を注いでいます。

人物の葛藤があるドラマを

それはそれとして、小説レッスンとしてショートショートを書くならば、心がけたいのは、描写、すなわちディテールをいかに過不足なく的確に描けるか? ということであり、その見事な教材こそが『賢者の贈り物』なのです。

貧乏で辛い境遇の若夫婦の物語で、視点者は妻のデラ。夫にせめてのクリスマスプレゼントをあげたいけれど手持ちの金がない。そのことに嘆くデラは思う。

“人生というものは、わあわあ泣くのと、しくしく泣くのと、微笑みとでできており、しかも、わあわあ泣くのが大部分を占めていると思うようになりました。”

この心理描写に、小説のラストに繋がる伏線がさりげなく含まれています。つまり、彼ら夫婦はわあわあ泣く大部分の人生であるがゆえに、互いの大切なものを失ってしまう。けれどもわずかに微笑みが残されているがゆえに、けっして不幸ではない。そのテーマ性を読者に余韻として与えていて、美しい物語となっている。アンハッピィエンドではないハッピィエンドです。

また、デラ唯一の宝である髪の描写、“デラの美しい髪は褐色の小さな滝のようにさざなみをうち、輝きながら彼女のまわりを流れ落ちていきました。”

あるいは髪を切る決心をしたデラの描写、“そのうちに涙が一粒、二粒、すりきれた赤いカーペットに落ちました。”

こうした巧みな(映像的な)ディテール表現があることで、読者はこの若夫婦に感情移入します。ショートショートであっても、きちんと人物の葛藤のあるドラマが描かれていて、最後のオチで感動を導くという造りになっているわけです。

小説のレッスンとしてショートショートを書く際に、目指すべきものがお分かりでしょうか?

出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2018年1月号と2月号)より
次回は11月2日に更新予定です

※シナリオ・センターの書籍についてはこちらからご覧ください。

※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらで↓
小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。

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