自分から遠い題材だから書けた
丹羽さん:清水さんとのお付き合いは、ずいぶん前ですが1995年に遡ります。終戦50周年記念の2時間ドラマ『こちら捕虜放送局』を、私が初プロデュースした時の脚本家が清水さんです。すでにベテランだった清水さんに、面識がなかったのにある日突然電話して、『あなたのホンが気にいってるので、ぜひ書いてください』って、お願いしました。
清水さん:そうそう、「TBSの丹羽ですけど、ちょっと会えませんか」って電話がかかってきて。うちは都心からちょっと離れたところに住んでいるので、そうしたらわざわざホテルに前泊して来てくださいました。
丹羽さん:今回清水さんに書いてもらった映画『コスメティックウォーズ』は全国26館規模の短館系の映画です。
まず日本映画の状況を話しておきます。年間1000本以上映画が作られています。皆さんにもチャンスがあるわけなんですが、逆に言うと公開されない映画も増えている。大手の4大映画以外の映画、いわゆる単館系は、作っても公開されないことが多くなっている。以前は公開されると1日5回くらい上映していたんですが、今は1日2回とか3回しかかからない。単館系にとって興行で稼ぐのは非常に辛い立場です。
さらに追い打ちをかけるようにDVDが売れない時代で、映画のあり方が変わってきている。清水さんは今回、急に映画をやりましょうと言われて、どうでしたか?
清水さん:いきなりそこですか(笑)。僕はほとんどテレビしか書いていなくて……。映画って、いろんな事情で企画がなくなっちゃうことがある。ハリウッドのプロデューサーから英語のメールが来て、ぜひやりたいとか言われて、1年間企画を預けたりしたこともあります。でも塩漬けになり全然実現しなくて……。だから映画ってなかなか大変で、達成感はあるんでしょうけど、あまり意欲が湧かなかった。
今回は実現性が非常に高いということで引き受けました。でも化粧品メーカーの話ですよって言われた瞬間に、ちょっと無理だなと。もともと女の人を書くのは得意でないし、化粧品も遠い世界。最初正直、丹羽さんの顔を潰さなきゃいいけどなあという気持ちでした。
丹羽さん:チラシやポスターもそうですけど、スタッフは監督も脚本家も音楽も全部男性です。実際、化粧品会社を取材してみて、女性目線を描くというのはどうでしたか?
清水さん:主人公が女性であれば女性目線で描くわけですが、それよりも何よりも化粧品っていう題材が、そもそも自分には遠くて、だからこそ書けちゃったという気もしています。
皆さんにも似たようなことがあると思います。自分がよく知っていることや得意なことって、書いてみると変に饒舌で独りよがりなホンが多い。指摘すると「だって私、これ本当によく知ってるから」って言う。わかっている分だけ思い入れもあるんで、余計なことまで書いちゃう。僕の場合、正直興味のない世界だったので、逆にほどよい距離感で書けた。
化粧品の研究所って本当にスゴい。口紅の試作品や美溶液が並んでいて、研究員が作業している。女の人が見たらトキメいちゃうと思います。でもオイルと何かを混ぜ合わせたりしていても、僕にはサラダオイルか何かにしか見えない(笑)。これでどのくらい儲かるんだろうとか思っちゃう(笑)。そういう距離感があったから、たぶん本筋のほうをきちんと描けたかなという気がしています。