風博士
シナリオ・センター代表の小林です。もはや今年も終わるせいでしょうか、なにがあるわけでもないのに、なんだか気持ちがバタバタしていて、あれもこれも忘れたり、ダブルブッキングしたりして、色々な方にご迷惑をおかけしています。申し訳ありません。
12月は、出身ライターの前川淳さんのアニメゼミが8日から始まり、16日「シナリオS1グランプリ授賞式&公開講座」、20日周防監督の「ミソ帳倶楽部」、21日今年最後のシナリオ8週間講座修了式、23日は2019年の授業すべて終了となっています。
その間に、やるべき仕事をちゃんと整理して、向き合わなければと自らを戒めつつ過ごす12月です。(笑)
「風博士」という芝居を観てきました。坂口安吾の著作をお芝居にしたもので、中井貴一さん、段田安則さん、吉田羊さん、渡辺えりさん、松沢一之さんなど芸達者がそろって、若手の趣里さん、林遣都さんなどが頑張っていました。
ある大陸、ある戦中が舞台。風船爆弾を研究する科学者だったらしいフーさんが軍専用の女郎屋をやっているところから始まるのですが、坂口安吾らしい「自由に生きる」ことを望んでいる人たちが描かれています。
戦争というもの、軍隊の理不尽さ、戦争故の異常な精神状態が面白おかしく、されど悲しく胸に迫ります。ミュージカルではないのですが、結構その時の時節や気持ちを歌にしているところもミソです。
私が特に気に入ったのは、たぶんこの詩を見るとどういう芝居かわかると思うのですが、「情操教育」という歌です。
「もしおまえが 正しさを知りたければ お前は悪を学ばなければなりません
もしおまえが 優しさを感じたければ お前は酷(きび)しさをおぼえねばなりません
もしおまえが 愛を手にしたければ おまえは憎しみも受け入れねばなりません
もしおまえが 勇気を身につけたければ おまえは憶病にならねばなりません
もしおまえが 生きたければ おまえは 死ぬ運命を避けてはいけません
ただ ひらひらと 白く美しく降る雪ですら 憎まれることはあるのですから」
人は常に裏表一体なのです。
人間(シナリオ)を描く時、ちょっと思い出してください。
はしはうたう
通信基礎科の佐藤実紀代さんが、こんな素敵な本を出されました。
「はしはうたう」若狭塗箸職人の的場政義さんの仕事ぶりを取材したものです。
小浜観光局が主催する「ローカルラーニングツアー小浜」という旅企画に、佐藤さんは、編集者として同行取材していました。
そこに佐藤さんの世界を変える出会いが。若狭塗箸の的場さん。
細い箸の上に絵筆を走らせ、研ぎ、削り、鮮やかに彩っていくその表現は、「色彩の詩人」と言われたシャガールの絵画のように、箸に秘められた豊かな人生が、あふれる美しさに、すべてに圧倒された佐藤さんは、的場さんを追い続けました。
そこから生まれたが「はしはうたう」です。
的場さんの仕事ぶりを文章にして、お箸たち、紫水、木巻、銀光、藤花、木漏れ日など、美しい箸たち、的場さんが作業している姿などが写真として収められています。
実は、私が皆さんに紹介したいと思ったのは、的場さんを通して一流創作者としてのスタンスは同じだということをお知らせしたかったということと、佐藤さんが本にまつわる活動をしながら、出版する書店を立ち上げての第一号の本だからです。
「どんな遊びからも、箸を作るための発想が見つかるんです。ブローチ一つ、言葉一つでも、美しいなぁと思う瞬間があったら、箸にも活かせちゃうかなぁって」
と的場さん。
的場さんが、箸に向かうときいつも言い聞かせている言葉「蝶は、羽を広げて羽ばたく前に、幾度も脱皮を繰り返し、さなぎになり、そして羽化します。
止まってはいけない。脱皮しなければ。」
新しい年を前に、モデルとなった的場さんだけでなく、この本を作った佐藤さんのエネルギーは、12月にご紹介するにふさわしい本だと思いました。
頑張らなくっちゃと思っていらっしゃる方へのエールのつもりです。