「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・作家であるシナリオ・センター講師柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回ご紹介するのは、小説として通用する文章が書けるようになるために、音読や書き写しが効果的な場合もあるということ。平野啓一郎さんの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP新書)には、音読や書き写しはあまりオススメされていないんだとか。それはなぜか、そして、そのうえで柏田講師はなぜ効果的な場合もあると言っているのか。こちらご覧ください。
量をこなしつつ、できるだけ質も高めた読書を
小説家志望者は「書く」(放電をする)ために、「読書」(充電をする)が欠かせません。それも書き手になるためには、優れたプロ作家のテクニック、書き方、文章表現を盗むつもりで読書を習慣化しなくてはいけません。
できるだけたくさんの小説を読む。量をこなしつつ、できるだけ質も高めた読書をしたい。そのためには熟読・精読をして、気になったところにチェックを入れておく。読み終わった後で、もう一度チェックしたところを確認します。
さて、これまで、そうした読書法の優れた指南書としてご紹介していた平野啓一郎さんの『本の読み方 スロー・リーディングの実践』(PHP新書)には、「音読」や「書き写し」はあまり意味がないと書かれています。
それらを平野さんが勧めない理由ですが、「音読」は、書き手が黙って文章を綴っている、いわば「黙筆」で書かれていて、“作者の内面から読者の内面へ、声帯の肉声ではなく、魂の肉声で届けられるもの”だから。
つまり、「うまく読む」「書き写す」といった作業に意識が集中しまい、内容への注意力が散漫になる。理解の差は黙読の方が高いから。さらに文章のリズムは実は黙読の方が正確に感じられる、といった理由で説得力はあります。
「音読」「書き写し」が効果を発揮する場合
確かに文章は、音になったものを聞くよりも、読む方がはるかに理解度は高くなります。また過去の名作でも朗読に向く小説と、まったく向かない小説もあります。おおざっぱにくくってしまうと、いわゆる文豪作品であったり、純文学という冠をつけられた小説は後者であることが多いでしょう。さらには朗読は長編よりも短編が向いています。
例えば文豪でも、芥川龍之介の短編は向いていますが、森鴎外や夏目漱石、志賀直哉は若干難しいでしょうか。谷崎潤一郎は、全部は難しくとも部分は朗読で聞いても素晴らしいと思います。
この場合の朗読とは、読み手がいて、聴衆に向かって読み聞かせるというスタイルです。それはそれとして、分かりやすくかつ優れた文章は、音読したとしてもよさが伝わると思います。
もうひとつ、脚本家と小説家のセリフに対する意識の違いもある気がします。脚本家はセリフを書く際に音読をしたりします。あるいは志望者に音読の勧めをします。それは役者が喋ることを前提として、耳で聞いて分かる言葉(セリフ)になっているか? 人間の言葉になっているかを確認するためです。
すなわち読書の方法として、ここは決めと思われるセリフ、さらには文章としてのリズムが本当にいいかどうか、気持ちよく読めるセリフや文章となっているかを確認するには、音読をすれば一発で分かります。
また、平野さんと私との違いをあげると、私は立場的に作家志望者(アマチュア)の文章を読む機会が多いことでしょう。初心者の作品は当然ですが、表現力不足であることが多い。繰り返し述べていますが、文章力はその書き手が、書くことと読むことで磨いていくしかありません。
で、平野さんが指摘するように、作家が書いた小説の魂であったり、伝えようとする本質を理解するといった意図ならば、じっくりと書かれた文章を黙読する方がいいでしょう。
ですが、私が想定し推奨しているのは、作家志望者に対してであって、小説として通用する文章力を身につける術です。どう書けば、読者が気持ちよく読み進められる文章にできるか? そうした基本を着実に掴むためには、音読や書き写しが効果を発揮します。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2016年9月号)より
★次回は2月1日に更新予定です★
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小説家・脚本家 柏田道夫の「シナリオ技法で小説を書こう」ブログ記事一覧はこちらからご覧ください。比喩表現のほか、小説の人称や視点や描写などについても学んでいきましょう。
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