胸キュン作品を書くなら『かぐや様は告らせたい』を参考に

アニメや漫画にはシナリオ創作に役立つヒントが満載。魅力的なキャラクターとはどんなものなのか。設定だけで面白いと思わせるにはどうしたらいいのか。その答えは話題のアニメや漫画にある！シナリオ・センターでマンガ原作講座やSFファンタジー講座を担当する仲村みなみ講師の『マンガから盗めっ！』『サブカル総合研究所～マンガとアニメと、ときどきラノベ～』（「月刊シナリオ教室」）からご紹介。
今回は、実写映画化やアニメ化もされているマンガ『かぐや様は告らせたい～天才たちの恋愛頭脳戦～』。特に「胸キュン作品を書きたい！」というかたは、こちらのマンガと仲村講師の解説を参考にしてみてください。

マンガ『かぐや様は告らせたい～天才たちの恋愛頭脳戦～』（集英社）/赤坂アカ

注目ポイントはキャラクター
名門校・秀知院学園の生徒会副会長・四宮かぐやと会長・白銀御行は両思いだが、高すぎるプライドのせいで素直になれない。2人は「相手に告白させる」べく知略謀略を尽くす。

バランスの悪さこそ魅力

海外ドラマの「メンタリスト」が好きである。CBI（カルフォルニア州捜査局）を舞台にしているが、主人公は捜査官ではなく超絶無邪気セクシーなサイモン・ベイカー演じる犯罪コンサルタント、パトリック・ジェーン。
（「サイモン？誰それ？」って人は映画『プラダを着た悪魔』をご覧あれ。主人公アンドレアを誘惑するイケメン作家役で出ておられる）。

類い稀なる洞察力・観察力・心理学を駆使して、まるでサイキックのように人の心を読み、操り、事件を解決に導くのだが、この人の性格はずばり「素直になるのが怖い」男。

同僚の女性捜査官・テレサに惹かれており、あの手この手で彼女の心を操ろうとする。言動は飄々としているが内心めっちゃ焦って必死なのが伝わってきて、「んもう、さっさと告っちゃえよ！」と焦れながらつい見入ってしまう。ホント好き。…って冒頭から大脱線の様相を呈しているが心配ご無用。

今月ご紹介するのはパトリック・ジェーン並みに「学業や実務は有能なのにプライベートは破壊的に不器用」な高校生のラブコメディである。

恋がからむとアホになるかぐやと、チョロくなる御行。
恋愛偏差値が低すぎる2人

四宮かぐや。巨大財閥の令嬢で「万能型の天才」。実は御行の優しい性格に劣等感を持ち、優秀で役に立たないと御行に好かれないと思っているが、決してその感情を表に出さない。箱入り娘で世情には全く疎い。口癖は他人を罵倒するときに使う「お可愛いこと」。

白銀御行。学園内では少数派の一般階層の出で、高校からの外部入学。いわゆる「努力型の天才」で1日10時間の勉強とアルバイトをこなしている。家柄も良く万能型のかぐやに対して、自分の武器が学力しかないことに劣等感を抱いており、自分から告白することはできずにいる。かぐやから「お可愛いこと」と貶められるのを誰よりも恐れている。

物語はそんな2人の「欲望」をめぐる心理戦がコミカルに描かれているが、とにかくエピソードが秀逸。相手の弁当に入っているたこさんウインナーが食べたいとか、相合い傘をしたいとか、同じカップに口をつけ間接キスをしたいとか、もう他愛ないったらない。

そんなことに必死になるのがもう可愛くてアホだなあと笑いつつ目が離せない。互いのちょっとした言動を深読みし、いちいち「恥ずかしい」とか「みっともない」とか「憐れまれたくない」とか「見透かされたくない」とか、激しく感情を揺さぶられる2人。この不必要な自意識の高さこそが青春の証である。

そしてその根底には無自覚ながら「相手を思う純粋な気持ち」があって、そこは全く揺らがない。こんな2人の恋、応援したくならないわけがない。ナレーションが超絶技巧のアニメ版も秀逸なのでぜひご覧あれ。

出典：仲村みなみ著『サブカル総合研究所～マンガとアニメと、ときどきラノベ～』（月刊シナリオ教室2019年9月号）より

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