「シナリオの才能がないから上手く書けない」と考えているかた、そうではなく、「何か上手くいくような方法(コツや技術、やり方や考え方)があるのでは?」と考えてみましょう。そうです、あります!それが、今回ご紹介する“天橋立股のぞきの術”。
このコーナーでは、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
才能って何?
「私に才能があるでしょうか?」と聞かれることがあります。あるいは「自分には才能がないので諦めます」などという人もいます。
ちょっと待って下さい。才能って本当に必要なんでしょうか?
そもそも才能って何? 具体的に、どういうものでしょう?
シナリオ・センターの創立者である新井一先生は『超「シナリオ執筆術」』(映人社刊『シナリオ作法論集』所収)の中で「才能が必要と思われるのは、教え方が間違っていたのではないでしょうか」と書かれています。
つまり、才能って何なのか、よく分かりませんが、何か生まれつき備わっているようなものなんかなくたって、教え方(あるいは学び方?)さえちゃんとしていれば面白いシナリオは書ける、ということです。
そんなことないよ、と思われる方もいるでしょう。たとえば、あの人は20枚シナリオでも、いつも今までにない斬新な設定や着眼点で書いてくるけど、私は平凡でありきたりな発想しか浮かばない、とか。
なるほど、なるほど。確かに、別にウンウン唸っているわけでもないのに次々と斬新な発想やアイデアが浮かんでくる人がいます。その人は少なくとも発想やアイデアについて何やら生まれつきに備えられた才能なるものがありそうです。いや、実際に才能があるのかもしれません。(面白いシナリオを書くには発想やアイデアだけではありませんが)
でも、そうでない人でも、こうすれば斬新な発想やアイデアが浮かんでくるよ、というコツがあります。上手くいかない時「自分には才能がないから上手くいかないのだ」と考えるのではなく「何か上手くいくような方法(コツや技術、やり方や考え方)があるのではないか?」と考えてみて下さい。必ず方法があるはずです。
というわけで今回は斬新な発想やアイデアを浮かべるコツをお話します。
名付けて、天橋立股のぞきの術!
転地逆転で見てみる
天橋立は日本三景の1つで、そのまま眺めても素晴らしい景色なのですが、その風景に背を向けて足を開いて立ち、前かがみになって自分の股の間から見ると天地が逆さまに見えます。そうすると松並木が空中に浮かんだように見え、天に架かる浮き橋のような、この世のものとは思えない景色になるのです。
天橋立ほどでなくても、今まで見慣れていた平凡でありきたりな景色だって、股のぞきして天地逆転で見てみると、今まで見たことがない、まったく違う新しい景色に変わります。
つまり、平凡でありきたりな発想も、股のぞきして天地逆転すれば、まったく新しい斬新なアイデアに早変わりというわけです。
たとえば『サトラレ』という映画(もともとはマンガが原作で、連続ドラマ化もされました)があります。
主人公は、自分が考えていることや思っていることが周りにいる人たちに全部バレてしまっているという設定になっています。つまり道を歩いていて「あの子かわいいな」と思ったら、近くで歩いている人たちが「あいつ、あの子がかわいいって思ったな」と伝わってしまうのです。
自分の考えていること思っていることが何でもかんでも、みんな周りに悟られてしまうので『サトラレ』です。今までにない斬新な設定です。
こんなアイデア、よく浮かぶよなと思いますが、実はこれ、人の心を読める超能力者というのを、人に心を読まれてしまう超能力者と、股のぞきして天地逆転しているだけなのです。人の心を読める超能力者なら平凡でありきたりな発想ですが、ただ股のぞきして天地逆転するだけで斬新な発想に大変身するのです。
股のぞきが使われている映画
『ターミネーター2』の敵キャラT-1000にも股のぞき天地逆転アイデアが使われていました。
T-1000の体は液体金属でできていて銃で撃たれると穴が開いて貫通してしまいます。そして、しばらくすると穴は、ゆっくり元に戻って塞がれてしまいます。
それまでの強い敵キャラのイメージは、どんな弾丸をも跳ね返してしまう頑強な体であるというものでした。それを逆さまにして、これまでにない新しい敵キャラを生み出しているのです。
黒澤明監督の『七人の侍』は、黒澤監督自身が「ひとことでいえば百姓が自分たちの村を守るために侍をやとう話だな」と話されていたそうです。百姓が侍をやとう、これも股のぞき天地逆転アイデアでしょう。
『用心棒』だって、ある宿場町へやってきた浪人が、対立するヤクザを仲直りさせるのではなく、わざと戦わせて互いに全滅させ平和を取り戻す話です。
ね? 股のぞきしてるでしょ?
設定だけではありません。たとえばセリフ。『男はつらいよ~花も嵐も寅次郎~』では、こんなセリフのやりとりがありました。
マドンナは田中裕子です。そのマドンナに思いを寄せる美男を沢田研二が演じています。トラさんは沢田研二の思いをマドンナに伝えますが、マドンナは沢田研二が二枚目過ぎて好きになれないと言います。そのことをトラさんから伝え聞いた沢田研二はトラさんに問います。「トラさん、男は顔ですか?」
トラさんは答えます。「そうなんじゃないの」
男は顔じゃない、ではなく、男は顔なんじゃないの、と言わせています。しかも、トラさんが沢田研二に。
常識や既成概念のフタを外す
最近のテレビドラマでも股のぞき天地逆転アイデアがあります。
まずは『時効警察』。これは分かりやすいですよね。
普通なら時効間近になった犯罪を時効が成立する前に解決しようとするわけです。時効まで、あと何日とか、あと何時間と時間のカセをかけてドラマを盛り上げていくわけです。それを、もう時効が成立してしまった後の犯罪を解決するというように股のぞき天地逆転しています。あえてカセを外すことで、あのユル~イ感じが出るわけですね。
それから『ハケンの品格』。
派遣社員というと、どちらかというと社員に虐げられているイメージで描かれていました。理不尽な仕事を命じられたり、契約期間で延長してくれるかどうかビクビクしたり、挙句に正当な理由もなく契約を打ち切られたり。
それを股のぞき天地逆転して、むしろ社員にダメを出したり、契約期間は3ヶ月のみ延長なしで、どんなに社員になってほしいと求められてもガンとして応じない、そんな、あらゆる資格を持つスーパー派遣が主人公でした。
とにかく一度、股のぞき天地逆転してみて下さい。男を女にしたり、年上を年下にしたり、何だって構わないのです。一度、股のぞきして発想が広がると、既成概念や常識のフタが外れて、じゃあ、これもアリ? あれもアリ? と次から次へと発想が広がっていくはずです。
たとえば、上司と部下というと何となく上司が年上で部下が年下という感じがします。まずは、それを股のぞきして、年下の上司と年上の部下とします。さらに、じゃあ年下の女性の上司と年上の男性の部下もアリ? とすると、さらにさらに、じゃあ年下って女子高校生の上司なんてのもアリ? と浮かんできたりします。
女子高校生が上司、というかヤクザの組長になってしまうのは『セーラー服と機関銃』です。
ちなみに高校生がヤクザの組長になる『セーラー服と機関銃』を股のぞき天地逆転すると、ヤクザの組長ではありませんが若頭が高校生になる『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』になります。まあ、『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』が『セーラー服と機関銃』を股のぞきして発想したかどうかは知りませんが。
この股のぞき天地逆転して発想するポイントは、そうすることで常識や既成概念のフタを外し、個性を引き出そうとしているのです。
人には、それぞれ個性があります。
時々「私、個性がないんです」という人がいますが、そんなはずはありません。一人一人、顔が違っているように、生まれも育ちも境遇も、感じ方や考え方も、みんな違うはずなのです。
でも、常識や既成概念が個性にフタをしているのです。これが今までにない新鮮な発想を妨げている1番の原因です。
そのフタを外してあげて個性を引き出せれば、今までにない新鮮な発想が生まれるはずなのです。もし、才能なるものが具体的にあるとしたら、その1つは、この個性なのではないかと私は思います。
だとしたら、みんな才能は持っているわけです。あとはそれを、どうやって引き出していくか、だけです。
出典: 浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P132/『月刊シナリオ教室』(2007年7月号)より
★次回は8月15日に更新予定です★
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