「シナリオのタイトルをつけるのに時間がかかってしまう…」とお悩みでしたら、今回ご紹介する“日本生まれのナポリタンの術”で解決できます。この“術”を使って「シナリオの内容に合わせたタイトルにしなきゃ…」という縛りから自分を解放!
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
題名は第一印象
「シナリオの題名を考えるのが苦手です」という方、意外に多いんじゃないでしょうか。いや、むしろ、そういう方は題名の大切さを分かっているわけです。別にいい加減な題名でいいんだったら苦手も何もありません。いい題名をつけたいから、苦手だなあと思うわけです。
たとえばゼミでは教室の黒板やホワイトボードに題名や人物表を書いてもらうわけですが、いいなあと思う題名が書かれていると、どんなシナリオだろうと聞いてみたくなっているはずです。
一般の観客や視聴者も同じです。いいなあと思う題名だと観たくなります。最近は映画にしろドラマにしろ公開や放送が始まる前に一体どんな映画やドラマなのか多くの情報が得られます。でも題名が最初に目に触れることは変わりありません。
つまり人間でいうと第一印象です。より多くに人に観てもらいたいなら、より多くの人を引きつける題名をつけることが、まず第一条件です。
また、コンクールでも題名は重要です。特に1次審査や2次審査といった早い段階の審査では、もちろん題名がいいから通った、題名がよくないから落ちたということはありませんが、1人の審査員が何十本というシナリオを読まなければなりません。人間ですから、たくさんのシナリオを読むと自然にテンションは落ちていきます。でも、いいなあと思う題名がついていると、どんなシナリオだろうと興味を持って読むことができます。
自分のシナリオがテンションを落として読まれるのと、興味を持って読まれるのと、あなたはどちらがいいですか?
というわけで今回は題名のつけ方について。
一番のコツは、あまりシナリオの具体的な内容に合わせようとしないことです。たとえば、ご存知の方も多いと思いますがスパゲッティ・ナポリタンって最初に作ったのは横浜のホテルのシェフなんだそうです。イタリアのナポリにはナポリタンはないんだとか。
そこで今回は、題して“日本生まれのナポリタンの術”!
題名は書き始める前に考える
ええ? 題名って内容に合ってなきゃいけないんじゃないの?
そんなことはありません。
まずは、とっておきの例を。『太陽にほえろ!』。刑事ドラマの超ヒット作です。当たり前なんですが、誰も太陽に向かって吠えたりはしません。ドラマの具体的な内容と題名が合っているわけではないのです。
逆に、刑事という言葉も捜査という言葉も題名には含まれていません。このドラマは刑事ドラマというよりは青春ドラマの要素が強かったように思います。青春ドラマの主人公の職業が刑事というイメージでしょうか。そんな新しい刑事ドラマのイメージに、この題名はピッタリだったのです。
そうなのです。具体的な内容に合っているかどうかよりも、どんなイメージを伝えるか、がポイントなのです。
同じ刑事ドラマでは『踊る大捜査線』も捜査という言葉を使っていますが、特に具体的な内容と合っているわけではありません。ほかにもドラマでは『ハケンの品格』やマンガが原作ですが『ブラックジャックによろしく』など、映画では『さくらん』や小説が原作ですが『陽気なギャングが地球を回す』『暗いところで待ち合わせ』、古くは小津安二郎監督の『秋刀魚の味』などなど、題名が特に具体的な内容に合わせてつけられているわけではなく、むしろイメージを伝えているものは数多くあります。
もちろん具体的な内容と合っている題名も、たくさんあります。ドラマでは『結婚できない男』とか『今週、妻が浮気します』なんて、もう、そのものズバリです。ほかにも『29歳のクリスマス』とか『大奥』とか、映画でも『かもめ食堂』とか『フラガール』とか。
主人公の名前やあだ名のようなものが、そのまま題名になっている『寺内貫太郎一家』『警部補・古畑任三郎』『特命係長・只野仁』『ごくせん』『ガリレオ』といったパターンもあります。
なので具体的な内容にあった題名をつけてはいけないと言っているわけではありません。
ただ、題名をつけるのが苦手という方は自分が書いたシナリオの具体的な内容に合わせようとして縛られてしまっていることが多いのではないでしょうか。
というのは、題名をつけるのが苦手な方に「いつ題名をつけてますか?」と尋ねると、だいたい、シナリオを書き終えてから題名を考えるという答えが返ってきます。
まず、そこが罠なのです。
シナリオを書き終えてから題名を考えようとすると、なかなか浮かびません。時々ゼミをやっていて、自分のシナリオを発表するため題名と人物表を書こうと教室の黒板の前に立っても、まだ題名が決まらずウンウン唸っている人もいます。
シナリオを書き終えた後だと、どうしてもシナリオの具体的な内容に合わせよう合わせようとしてしまいます。なので身動きがとれなくなって上手く浮かばなかったり、考えついても内容に合わせよう合わせようとしているので妙に理屈っぽかったり真面目すぎて面白味のない題名になったり、あるいは考えすぎて説明しないと分からないような題名をつけてしまいがちなのです。
シナリオの題名は、なるべく早く、できればシナリオを書き始める前に考えてみて下さい。どんな題材で、どんな人物で、どんなシナリオを書こうかなと、あれこれ考えているときに題名も考えることをおすすめします。
まずは気楽に。具体的な内容に合ってなくていいので(というか合わせようとしても、まだ具体的な内容は決まってないわけですから)、イメージで考えてみて下さい。
これぞ、というのが浮かばなくてもいいのです。とりあえず仮につけておいて、もしかしたらシナリオを書き進めるうちに、もっといい題名が浮かぶかもしれません。そうしたら、それに変えればいいのです。
そして、なるべく早く題名を考えるメリットは、もう1つあります。自分の気に入った題名が浮かんだらシナリオを書く気持ちも高まり自然と力が入ります。
題名の意味と形
さて、題名で気をつけて欲しいのは英語のアルファベット表記です。
基本的にテレビドラマでは、『TEAM』や『SP』、日本語をアルファベット表記した『anego』といった例外はありますが、多くは英語をカタカナ表記します。それも『エンジン』『ファイト』といった分かりやすくて、ほとんど日本語同然になっているものです。『ロング・バケーション』ぐらいの難しさがギリギリでしょうか。
映画も、たとえば単館レイトショーならば限定された観客層を対象にすることもできるので一概には言えませんが、全国ロードショー規模であれば『ALWAYS』や『CASSHERN』といった例外を除いて英語はカタカナ表記され、それも多くの人に分かりやすい言葉に限られていることはテレビドラマと同様です。
題名で大切なのは何といっても言葉の意味です。まず言葉の意味が伝わらなければ、どうしようもありません。より多くの人に意味が伝わりやすいのは英語のアルファベット表記よりも、圧倒的に日本語のカナ漢字まじり表記の方が上です。
そして、意味の次に考えてほしいのは形です。
題名は文字そのものが大きく画面やスクリーンに映し出されます。その映し出される文字そのものの形でイメージが違ってきます。
たとえば先ほども例に出した『ハケンの品格』ですが『派遣の品格』では硬すぎます。まるで教養番組の題名のようです。でも、あえてカタカナを使うことでコメディらしい題名の形になっています。同じ言葉でも漢字にするのか、カタカナにするのか、ひらがなにするのかによってイメージが違ってきます。これも日本語の特徴の1つでしょう。
なので、英語のアルファベット表記をしてはいけないとは言いませんが、まずは日本語のカナ漢字まじり表記をおすすめします。
あまり例としては多くはないのですが、題名には意味や形のほかに音という要素もあります。言葉の持つ響きやリズムの心地よさを狙った題名です。
『カバチタレ!』(これもマンガが原作ですが)なんていうのも、その1つでしょう。確かに「かばち」というのは広島弁で「屁理屈」という意味があるようですが、そんな意味よりも、言葉の響きやリズムが一度聞いたら忘れられません。
最後に音の題名の最高傑作として『ゴジラ』を上げたいと思います。映画に登場する怪獣の名前が、そのまま題名になっているわけですが、ものすごいネーミングだなあと思います。もしゴジラが別の名前だったら、たぶん、いまメジャーリーグで活躍している松井選手は違うニックネームで呼ばれていることでしょう。
以前、商品のネーミングの専門家に文字の音によるイメージを研究した表を見せてもらったことがあるのですが、「ゴ」は重大、「ジ」は鋭利、そして「ラ」は愛嬌でした。まさしくゴジラのイメージそのものの響きやリズムになっているわけです。
出典: 浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P136/『月刊シナリオ教室』(2008年1月号)より
★次回は9月19日に更新予定です★
※“タイトル”についてはこちらの記事「会話のネタ になるおすすめ映画 4選~語りたくなるタイトル~」も併せてご覧ください。
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