「シナリオで“ドラマ(葛藤や変化)”を描けと言われても、何も思いつかない」「日常生活でドラマ が生まれるような出来事なんか起きないし…」とお悩みでしたら、“儀式”に目を向けてみてください。例えば結婚式やお葬式。これらは研修科の課題でもありますので、この課題でお悩みの方も、今回ご紹介する “馬子にも衣装の術”を使ってください。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
ドラマを生み出しやすい儀式
あなたの身近に人を殺したり殺されたり、殺人事件に巻き込まれたり解決したりした知人や友人がいますか?E.Tやトトロやターミネーターに会ったことがある人はいますか?愛する人が難病で死に直面したり、行方不明になったりしたことがありますか?
「あります!」と答える方も何人かは、いらっしゃるかもしれません。でも、ほとんどの方は、そんなこととは無縁に生活しているのではないでしょうか。
そうなのです。ドラマティックな出来事なんて日常生活では、めったに起こるわけではありません。とはいえ、日常で起こる出来事を、そのまま描いて面白いシナリオにするのは、まったく可能性がないわけではありませんが至難の業です。
時々「ドラマのない淡々としたシナリオを書きたいんです」と言う方がいらっしゃいます。でも、それって面白くないシナリオを書きたいと言っていることになります。ドラマ(葛藤や変化)とは観客や視聴者に面白いと思ってもらうための要素ですから。
ストーリーは淡々としていてもいいのです。でも、どんなに淡々としたストーリーでもドラマがないと面白いシナリオにはなりません。
そして、日常でありそうなことをありそうに描いてドラマを生み出すのは、きわめて難しいのです。
じゃあ、どうするかというと、基本的にはフィクション=作り話を考えます。こんなことが起こったら、どうなるだろうと妄想してみたり、身の回りで起こったことを10倍100倍に膨らませてみたり、想像力を駆使して嘘をつくわけです。
ただ、日常生活の中でもドラマを生み出しやすい出来事があります。儀式です。
研修科の課題には結婚式と葬式がありますが、卒業式や入学式、入社式、表彰式、イベントやスポーツや演劇などの開幕式(初日)や閉幕式(千秋楽)、歓迎会や送別会、就任式、子どものお宮参りや七五三、還暦や古稀や喜寿米寿、成人式などなど、私たちの身の回りには、さまざまな儀式があります。
このような儀式は日常の中でも非日常に近い出来事なのでドラマを生み出しやすくなります。儀式そのもののドラマを描く必要はありません。あなたが書こうとしている20枚シナリオなどの状況設定に儀式を加えるだけで、ずいぶん変わってきます。
たとえば、ケンカしていた恋人同士が仲直りしようとするドラマを、公園やレストラン、職場、どちらかの部屋といった日常的な設定で描こうとすると、まったくドラマを作れないわけではありませんが、どうしてもドラマが弱くなり、平凡でありきたりになったりしがちです。
でも、共通の友人の結婚式に2人とも出席している設定で描いてみると、どうでしょう。ね?ドラマが生み出しやすく大きく動き出す感じがするでしょう?
普段着ではイマイチさえないドラマでも、結婚式や葬式といった儀式に放り込んで、礼服を着てネクタイを締めれば、バリッと見違えるようになるイメージでしょうか。
というわけで、今回は“馬子にも衣装の術”!
『新撰組!』の通夜
まず大河ドラマ『新選組!』の第19回を観てみましょう。
『新選組!』は、香取慎吾さん演じる近藤勇が仲間の若者たちと多摩から京都へ渡り新選組を結成、池田屋事件の活躍で歴史の表舞台に躍り出るが、薩長同盟締結、大政奉還、鳥羽伏見の戦いと時代が動いていく中で新選組は次第に崩壊、ついに官軍によって勇が斬首されるまでを描く青春歴史ドラマ。
第19回は、新選組の前身となる壬生浪士組が屯所(宿舎)としていた八木家の祖母・久の通夜を、勇たちが取り仕切る話になっています。
その通夜に弔問に訪れた会津藩士から佐藤浩市さん演じる壬生浪士組局長・芹沢鴨が商家から金を脅し取っていることを聞かされたり、対立する長州藩士と揉め事が起きそうになったところを芹沢が長州藩士を一括し追い払って事なきを得たりといったエピソードが盛り込まれています。
全体の流れから見ると勇たちが芹沢を粛清するに至るドラマが描かれているわけですが、勇たちと芹沢との対立がじわじわと深まっていく過程である一つ一つのエピソードは、それほど派手なものではありません。それを久の通夜という儀式に放り込むことでドラマを高めているわけです。
『ゴッドファーザー』の冒頭の結婚式
映画『ゴッドファーザー』の冒頭は結婚式です。
ストーリーは、マフィアのボスであるドン・コルレオーネ(マーロン・ブランド)が麻薬取引に関わる依頼を断ったことから銃撃され、これをきっかけに麻薬取引の後ろ盾となっていたタッタリア・ファミリーやニューヨークの五大ファミリーとの抗争が勃発、それまでファミリーの仕事とは無縁であった三男マイケル(アル・パシーノ)がドンの跡をつぐことになり…というマフィア映画でありホームドラマの要素もありますが、そういったジャンルを超えた圧倒的な人間ドラマです。
トップシーン、暗い書斎でドン・コルレオーネが、娘を暴行した男たちを殺してくれと頼まれているところが描かれます。その表では、明るい日差しが降り注ぐ下、ドンの娘の結婚式が行われています。老若男女、飲めや歌えや踊れやの賑やかなガーデンパーティーです。
この対比の中、カムバックを賭け映画の主役を得たい歌手が頑なに役を与えてくれないプロデューサーを何とかしてほしいと訴えに来たり、結婚式では長兄のソニー、二男のフレド、兄弟同様に育てられた弁護士のトム、三男のマイケルがファミリーの仕事からは距離を置いていることが紹介されます。
そして、映画プロデューサーが目覚めるとベッドの中に自分が所有する60万ドルのサラブレッドの首が斬りおとされて転がっているという衝撃のシーンにつながっていきます。ドン・コルレオーネの仕事ぶりが描かれているわけですが、結婚式という儀式をプラスすることでドラマを際立たせています。
圧巻は映画の後半、洗礼式のシーン。
マイケルは妹の子どもの名づけ親になり洗礼式に臨みます。一方でタッタリアや敵対するファミリーのボスを銃撃する準備が進められます。神父が「神を信じますか」と問うとマイケルは「信じます」と答えます。
「悪魔を退けますか」
「退けます」
その瞬間、マイケルの部下たちが銃撃を開始、敵対するボスたちを次々と殺していきます。
「悪魔の仕業は」
「退けます」
「悪魔のふるまいは」
「退けます」
というやりとりと並行して凄惨な殺戮シーンが描かれます。
ストーリーとしてはマイケルが敵対するボスたちを殺すことが描かれればいいわけで、それだけでも十分に衝撃的だろうと思われますが、さらに洗礼式をプラスしカットバックさせることで圧倒的なドラマを生み出しているわけです。
『悪い奴ほどよく眠る』の結婚式
『ゴッドファーザー』の冒頭の結婚式のシーンは、黒沢明監督の『悪い奴ほどよく眠る』を参考にしたといわれています。
映画は三船敏郎さん演じる主人公・西幸一と森雅之さん演じる公団副総裁・岩淵の娘との結婚披露宴から始まります。結婚披露宴の会場には、たくさんの新聞記者が詰めかけてきます。というのは、公団と建設会社との数十億円にのぼる汚職が明らかになりつつあったのです。
そこに新郎新婦が現れます。そこで新婦である副総裁の娘の足が不自由なことが描かれます。そして、披露宴が始まる直前、公団の課長補佐が会場の入口に呼び出され警察に連行されていきます。
式が始まると新聞記者たちの噂話で出席者たちの人物紹介がされ、5年前に新築庁舎の不正入札事件事件があり新庁舎の7階窓から課長補佐が飛び降り自殺したことで事件がうやむやになったことが語られます。
さらに、ウエディングケーキは公団の新庁舎がかたどられ、その7階に赤いバラが飾られていて、5年前の自殺に関わった人物たちが動揺するリアクションが描かれます。
その後、実は西幸一は、5年前に自殺した課長補佐の息子であり、父親の自殺の原因となった岩淵に復讐しようと娘と結婚したのですが……というストーリーが展開されます。
つまり冒頭で、主要登場人物の紹介や、5年前の事件の説明などを伝えているわけですが、結婚披露宴という状況設定で単なる説明で終わらせるのではなく、ドラマを生み出しているわけです。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年5月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回は11月21日に更新予定です★
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