シナリオは葛藤が第一
『引っ越し大名!』の映画化についてですが、松竹さんとは以前に『超高速!参勤交代』や『超高速!参勤交代リターンズ』を作っていて、その流れで松竹さんから快くOKをいただいて、映画にすることが出来ました。
今の映画やテレビドラマ業界では、シナリオライターがオリジナル企画やシナリオを持ち込んでも、原作がないとなかなか実現しない。だからシナリオ・センターにいる時から原作をまず書いてしまおうと、小説にも力を入れていました。それが上手くいっているのかなと思います。
『引っ越し大名!』のシナリオの初稿は1週間くらいで書きました。僕は小説を書く時に、シナリオを意識しながら書いているので、シナリオにするのはわりとスムーズなんです。『のぼうの城』の和田竜さんは、先にシナリオを書いて、それから小説にするそうですが、僕もそれに近いものがあります。
ただ2時間というのは、原作の長さに比べてかなり尺が短いので、何を強調していくかが大切です。小説は主人公の心理描写や読者の想像力をかき立てる手法を使いますが、ドラマは人間の葛藤を書いていくことがメインになります。葛藤をどう見せるかを考え、尺を意識してキャラクターをいじりました。
なので、登場人物(キャスト)の片桐春之介(星野源)、鷹村源右衛門(高橋一生)、於蘭(高畑充希)が、原作と映画ではかなり印象が異なるのではないでしょうか。映画的なキャラにするため、演技の仕どころをたくさん作り、よりエンタメ性を高めています。それと尺に収めるため、なるべく物事を前に進めて行かれるようなキャラを入れています。
例えばヒロインの於蘭でいうと、小説では優しく受け入れて協力してくれるというタイプで書いています。でも、映画では出戻りで子持ちという強めのキャラにしました。葛藤を作るため、最初は協力を断わったりします。
シナリオは葛藤が第一なので、すぐにOKとなって物事が進んだらダメ。何か頼む時は1回は断られるのが定石。『三国志』では劉備が諸葛亮を迎えるのに、断られて3回訪ねますよね。その後は積極的になって話が進む。
あと、於蘭さんをツンデレにしたのですが、ツンデレキャラを1人入れるとシナリオコンクールなどでも通りやすいと僕は思っていて(笑)、内心と違うことを言わせる。そういう定石を1つ1つやっていく。
僕はシナリオ・センターで覚えた技しか使っていないので、皆さんも基礎がしっかり身についていれば戦っていけます。
原作には殺陣はないのですが、見せ場を作るために、後半、鷹村源右衛門役の高橋一生さんの殺陣シーンがあります。ここで「御手杵(おてぎぬ)の槍」という日本3大槍の1つが出てきますが、これも映画で追加しました。『刀剣乱舞』にも出てくる槍です。
今、映画の宣伝ってSNSが強くてバズってもらうことが大事。エゴサーチしてみたら「御手杵が出てきた!」と刀剣女子の書き込みがスゴくて、いい宣伝にもなりました。これからは「刀剣女子」もそうですが「歴女」や「御朱印女子」などの好みも取り入れていくとヒットするかもしれません。
あと当時男色は当たり前で、松平直矩(なおのり)は特に男の人が好きだったので、史実通りに書いただけなのですが、ちょうど『おっさんずラブ』流行りということでウケて、世の中の潮流に乗れてラッキーでした(笑)。