今回のシナリオ錬金術は、1時間のシナリオを書くときのコツのひとつについて、お話します。

というのは、テレビドラマのコンクールのほとんどが１時間のシナリオを書くことになっています。創作テレビドラマ大賞も、フジテレビヤングシナリオ大賞も、テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞も。

TBS連ドラシナリオ大賞は１時間連続ものを想定して第1話のシナリオと連ドラ全体のあらすじを求めていますが、審査で最も重視されるのが第1話のシナリオであり、第1話のシナリオを読んだだけで「面白い」と思わせることがポイントになります。

例外はシナリオS1グランプリ。1時間ものとともに2時間ものも募集しています。また、WOWOWシナリオ大賞もテレビ局のコンクールですが、2時間のシナリオを募集しています。

しかし、地上波のテレビドラマではやらない（できない）ようなシナリオを求めていて、テレビドラマというより、やや映画的なシナリオのコンクールととらえる方がいいと思います。

一方、現在テレビで1時間完結のドラマは、ほとんど観ることができません。期末期首に放送される単発ものや地方局の制作するドラマ、あるいはコンクール入選作のドラマ化などを、ごくたまに見かけることはあるかもしれませんが……。

なので、1時間のシナリオってどういうものなのかが具体的にイメージしにくくなっています。もちろん、1時間だからといって2時間や連ドラとシナリオの書き方が変わるわけではありません。キャラクターやドラマ（葛藤）の作り方、描き方は同じです。それは20枚シナリオも変わりません。

違うのは長さです。つまり1時間という長さで、どれぐらいのことを描けるのか、どれぐらいのストーリーを入れられるか、ということです。

たとえば、女の一生を生まれてから死ぬまで1時間で描くことは、不可能ではないかもしれませんが、かなり難しいでしょう。無理して詰め込もうとすれば、あらすじのようになってドラマがなくなり、どんどん年月が過ぎていく慌ただしくもせわしないだけのシナリオになるでしょう。

特に、つめこみ過ぎに注意してください。餃子を作っていて皮で具を包むとき、慣れないうちは、ついつい具をたくさん皮にのせ過ぎてしまい、いざ包むと皮から具がはみ出してしまうことが、よくあります。シナリオも、ついつい話をつめこみすぎてしまいがち。

というわけで今回は、はみ出し注意！餃子の具の術。

現在はなかなか観る機会がなくなった1時間完結のテレビドラマですが、かつては各局が放映し佳作や秀作の宝庫でした。その代表選手は何といっても東芝日曜劇場でしょう。橋本忍さん、水木洋子さん、松山善三さん、倉本聡さん、山田太一さん、早坂暁さん、市川森一さん…といった超一流の脚本家が1時間完結のドラマを書いていたのです。

そこで、個人的に最も敬愛する脚本家・向田邦子さんが書かれた東芝日曜劇場のシナリオを『向田邦子TV作品集』（大和書房刊）からピックアップしてみました。

『母上様・赤澤良雄』は、71歳の女性が主人公。息子が新築一戸建てのマイホームを購入、引っ越しの日、家族に大切にされていないと感じた主人公は特攻隊の生き残りである息子の遺書を家族に渡します。その遺書は息子をはじめ家族たちに波紋を投げかけますが、一方で主人公自身、息子が生きていてくれるだけで十分幸せなことを実感するという話ですが、引っ越しの日の午後から夜までの数時間で描かれています。

『眠り人形』は、夫が一千万を超す横領をしていて心中するつもりの主人公が、最期にと兄の住む実家を訪ねます。そこには主人公の妹も訪ねてきていますが、実は夫の浮気で離婚しようとしています。そこで姉妹の意地の張り合いがあり…という話が、やはり主人公が実家を訪れてから兄の妻が帰ってくるまでの数時間で描かれています。

『びっくり箱』は、主人公が恋人を連れて一人暮らしの母親のところへ帰って来ます。と、母親には無職の恋人がいます。一方、主人公の恋人も現在職を失っていて、実は恋人の子を妊娠しています。そんな母と娘のドラマがあり……という話が、主人公が訪ねてきた日から翌日までの、ほぼ一日で描かれています。

『花嫁』は、夫の七回忌を迎えた62歳の主人公がプロポーズされます。相手は人柄も良くお金持ち。主人公は断りますが、これから息子や娘たちの負担にならないよう、この縁談を受けますが、やはり亡夫が忘れられず断ります。しかし、相手が倒産したことを知り結婚することを決めるというドラマです。まず七回忌の夜が描かれます。そして、その数日後から、主人公がプロポーズを受けようとするが断るが～というドラマが3日間で描かれます。そして起承転結の結として結婚式の直前が描かれています。

『愛という字』は、主人公が、盗まれた夫の腕時計をしている画家の男と出会います。数日後、男の知り合いの展覧会で再会した二人は親密さを増し、翌日の夜、主人公は男が仕事場にしているマンションの一室に強引に誘われますが～という互いに家族のある男女のドラマが、出会った日と数日後の2日間で描かれます。

このように見てくると、1時間で描かれるのは数時間から三日間、一週間以上にわたる話の場合でも、その中の二日から五日ぐらいを描いているようです。１時間のシナリオでは、これぐらいの分量が適量と言えるでしょう。

そういう意味で好例なのが、テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞の第9回大賞受賞作『臨月の娘』のシナリオです。

このシナリオは選評座談会で審査員から「1時間というサイズでやるには過不足なくて、ちょうどいい」「他の作品は（中略）話が拡散していっちゃうところを、このサイズの中できっちり過不足なく展開している」「テレビ朝日のコンクールの1時間ものの完成型という感じがします」という評価を受けていました。

まず出張で東京へ来た主人公は10年ぶりに娘に会います。と、娘は、まだ高校生なのに臨月の大きなお腹を抱えて現れるのです。とにかく明日、相手の男に会いたいから連れてきてくれと言うのが1日目。

翌日の夜、待ち合わせ場所に娘はいますが、相手の男は来ないと言います。主人公は男のアパートを訪ねます。相手の男は新しい彼女と帰って来ます。話をするうち主人公は、ぼろぼろに泣きながら男を殴ってしまいます。

3日目、新幹線で帰ろうとする主人公を娘が見送りに来ます。そして、全部ウソだったことをバラします。季節が変わって数ヶ月後、主人公は改めて娘と会うことになり、そこへ相手の男役や新しい彼女役を演じた2人や、娘が本当に付き合い始めた彼氏も現れるワンシーンがあって、シナリオは終わります。

主人公が出張で東京へ来て帰って行くまでの3日間プラス、起承転結の結として数ヶ月後のワンシーンが描かれているわけです。

連ドラの第1話でも同じような例が上げられます。

たとえば『スキャンダル』は、まず鈴木京香さん演じる主人公や、長谷川京子さん、吹石一恵さん、桃井かおりさんが演じる女性たちのところへ結婚式の招待状が送られていくる1日が描かれます。そして2週間後、結婚式と4人の女性が出会うその夜と、翌日、花嫁が失踪し、4人の女性が警察署へ集められて再会する2日間が描かれます。

『ハケンの品格』の第1話は拡大版で1時間15分の放送枠でしたが、篠原涼子さん演じる主人公がドラマの舞台となる商社にやって来るまでの2日間がタイトル前に描かれます。そして、出勤初日と、休日からの3日間で加藤あいさん演じる新人派遣がトラブルを起こし主人公が解決するまでが描かれています。

もちろん、もっと長い期間の話を描いたり、どんどん日が替わっていく1時間のシナリオもないわけではないと思います。ただ、2日から5日ぐらいの話というのは、ついつい詰めこみ過ぎにならないためのひとつの目安になると思います。

コンクールなどで１時間もののシナリオを書くとき、ちょっと自分は何日間で描こうとしているのか、チェックしてみて下さい。そして、できれば数日間のドラマに凝縮できないか考えてみて下さい。

出典：『月刊シナリオ教室』(2009年11月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
★次回は8月28日に更新予定です★

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