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飽きないシナリオを書く/どこを描いて、どこを省略するか

飽きないシナリオを書く/どのシーンを省略するか

今回ご紹介するお話は「これは飽きないシナリオを書くポイントだ!」「シーンを省略するときはこう考えればいいのか!」等々、シナリオにちょっと興味があるかたも、既に書いているかたも“へえ!”がたくさんあると思います。

このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。

肝心なところを省略する

「このシーンはカットした方がいいでしょうか?」

そう質問されることがあります。確かに、どこを描いて、どこを描かないか、悩むところかもしれません。決められた枚数の中に収めようとすると尚更です。

基礎講座では映像の特性の一つとして、時間と空間を飛躍させることができるという話をしています。

みなさんの中にワープできる人はいますか?普通、私たちはワープできません。たとえば私が「いってきます」と家を出てからシナリオ・センターまで、駅まで歩いて電車に乗り、途中で乗り換えて、表参道駅で降りて歩いてシナリオ・センターに着いて「おはようございます」というのを省略することはできません。

でも、当たり前ですが映画やドラマでは、たとえば「いってきます」と家を出るシーンの次に「おはようございます」とシナリオ・センターに入ってくるシーンになっても構いません。

つまり、省略できるわけです。「映画は省略の芸術である」という言葉もあるぐらいです。

どこを描いて、どこを描かないで省略するか、というのは、とても重要なポイントかもしれません。ただし、どこを描いて、どこを省略するかを考えるときに勘違いしがちなのは、このシーンは必要か必要ないかと考えてしまうことです。

求められるのは、このシーンが面白いか面白くないか、です。

必要でも面白くなければ、カットした方がいいでしょう。だって、面白くないんですから。逆に必要なくても面白く描けていれば削らないこと。面白いシーンを削っていけば、どんどん面白くなくなるのは当たり前です。「いやいや、このシーンは削りたくないんです」と言うなら、そのシーンを面白くすることです。

また、面白くないシーンを削っていったら、全部なくなっちゃった、なんてことになったら、どうしようもありません。

なので、ぜひオススメしたいのは、「このシーンはカットした方がいいかどうか?」と考えるのではなく、「このシーンをもっと面白くするにはどうしたらいいか?」と考えてみてください。

どうすれば面白くなるかは、これまで、この錬金術でいろいろお話してきましたが、一番手っ取り早いのは、登場人物のキャラクターの個性をより出すこと。ぜひ、やってみてください。というのが基本的な考え方なのですが、今回のシナリオ錬金術は、その上で、「へえ! そんなところを省略するのか!」という話をしてみたいと思います。

普通は描いて当たり前な(必要か必要でないかでいえば、むしろ必要と思われる)シーンを、あえて省略することで、あれこれ想像させて引き込んだり、意外性や新鮮さを感じさせたりするのです。人は隠されていればいるほど、あれこれ想像せずにはいられません。それが肝心なものであれば尚更です。顔が隠されている仮面舞踏会のように。「一体どんな顔だろう?絶世の美女美男かもしれない…」などと想像せざるをえなくなります。

というわけで今回は、魅惑の仮面舞踏会の術!

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』/ヤマ場になるシーンをあえて描かない

ルキノ・ヴィスコンティ監督の『郵便配達は二度ベルを鳴らす』を観てみましょう。

主人公のジーノ(マッシモ・ジロッティ)は、ジョヴァンナ(クララ・カラマイ)と出会い、不倫の関係に二人はジョヴァンナの夫ブラガーナ(ファン・デ・ランダ)を自動車事故を装い殺害します。しかし、ジーノは後悔の念にさいなまれ、ジョヴァンナと離れようとしますが、離れられず……というサスペンス・ラブストーリー。

どのシーンが描かれていないかというと、主人公とジョヴァンナが、プブラガーナを殺害するシーン。

オペラ歌唱コンクールに出演したブラガーナはベロベロに酔っ払いながら、ジーノとジョヴァンナを乗せて車を運転しています。ちょっと気分が悪くなったと言って車を止め、道端にしゃがんで休みます。

その時、ブラガーナの姿は車のヘッドライトで白く浮かび上がります。ブラガーナが車に戻ると運転席にはジーノがいて運転をかわると言います。ブラガーナが乗り込むと走り去っていきます。

次のシーンは、現場検証が行われています。土手の下に車が横転していて、ブラガーナの遺体が横たわっています。そこでジーノが警察の質問に答えています。

このブラガーナ殺害は、この後もジーノが度々思い出し苦悩することになるのですが、もちろん回想シーンなどというダサい真似はしません。ブラガーノの遺品である懐中時計という小道具を使っています。ジーノが懐中時計を取り出して眺める度に、ああ、ブラガーノを殺した時のことを思い出しているんだなあと分かります。

でも、ブラガーノ殺害のシーンは描かれていないのです。描かれていないからこそ、あれこれ想像せざるをえません。そのシーンは必要ないから描かれていないのかというと、もちろん、そういうわけではありません。

むしろ、ここをインパクトのある描き方をすることで前半のヤマ場にしたいような重要なシーンといえるでしょう。そこを、あえて描いていないのです。そのシーンが必要か必要でないかは、まったく関係ないことが、よく分かります。

『ハッシュ!』/意外性のある省略

映画『ハッシュ!』は、今までにない新鮮な省略が独特のリズムと不思議な個性を生み出しています。

田辺誠一さん演じる主人公・勝裕と高橋和也さん演じる直也はゲイのカップル。2人は、片岡礼子さん演じる朝子と出会い、勝裕が朝子に「子供を生みたいから父親になってほしい」と頼まれたことから、さまざまなトラブルを巻き起こしながらも3人の奇妙な絆が深まっていくというストーリー。

たとえば、朝子が勝裕の兄夫婦や直也の母親に、過去の病歴や中絶したこと指摘され、傷ついてアパートの部屋に引きこもります。心配した勝裕と直也が訪ねてきます。呼び鈴を鳴らしたりノックしたりしながら話す2人の声を、朝子はカラーボックスとベッドの間にはさまって聞いています。やがて、涙があふれてきて……。

次のシーンは、夜道を勝裕と直也が歩いています。「女の部屋とは思えなかった」「体、痒くない?」「痒い」「色んなもん死んでんだよ、きっと」というセリフが交わされます。朝子の部屋の中に勝裕と直也が入って行くシーンが省略されているのです。

ほかにも、父親になってほしいと頼まれた勝裕が、断るつもりで入院中の朝子を訪ねると、朝子は新生児室の前にいて赤ちゃんを見ています。勝裕が来て2人は目を合わせますが何も言わず、赤ちゃんを見ます。と、次のシーンは春から夏へ季節が変わっていて、勝裕が朝子と時々会っていたことが直也にバレて…などなど、この映画には意外性のある省略がたくさんあります。

テレビドラマでは、このような普通は描くだろうと思われるところを意図的に省略することは少ないかもしれませんが、たとえば『ロング・バケーション』の第1話では、木村拓哉さん演じる瀬名が出場するピアノ・コンクールのシーンが省略されています。

コンクール会場に入って行くところは描かれていますが、次に瀬名が描かれるのは数日後、いきなり南が部屋に住まわせてくれと引っ越し屋のトラックで訪ねてくるところです。これも、コンクールのシーンを描くことで瀬名のキャラクターを出したり、ピアノの演奏を見せることで出だしのヤマ場を作って視聴者を掴むこともできるでしょう。

つまり、必要でないから描かれていないわけではないのです。おそらく、第1話のクライマックスで瀬名が南にピアノを弾くところを際立たせるため、それまで瀬名の演奏シーンを出さないようにしたのではないかと思います。

20枚シナリオで枚数をオーバーしたときは、むしろ、こういう省略を試してみるチャンスです。ここで1行、あそこで2行とチマチマ短くしていくのではなく、大胆にシーンごと省略することを是非試してみてください。

出典:『月刊シナリオ教室』(2010年2月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
次回は2月26日に更新予定です

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