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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

1月、もう終わる

清水有生さんの講義風景

変化

シナリオ・センター代表の小林です。早すぎる、2022年が始まったと思ったら、なんと1月は今日で終わります。
うだうだしているとあっという間に時は経って、この2年、常に決断、決断をしなければならないことばかりでした。
ちょっと気を抜くとものごとは思わぬ方向へ進んでしまいそうになり、気を抜けない日々でした。「でした」という過去形ではなく、今もなお現在進行形ですが。
なのに、世の中は2年前とほぼ同じことを繰り返しているようで、その間に進んだものがあるとしたら、人々の「諦め」ではないかと思います。
そして、やり場のない気持ちを何も関係ない他人たちに、また自分自身にも向けて傷つけてしまう、なんとろくでもない社会になったのでしょうか。
もちろん、一番の功罪は上に立つ人々の無能なのですが、それを容認してきた私たちの無能でもあるのだと思うのです。

フランス文学者で思想家の内田樹さんがツイッターで小津監督の話を例にとっていました。
『ある時代の良否を判定する基準は小津安二郎によれば「バカな野郎が威張っている」かどうかであるようです。
「バカな野郎」の人口比率は時代を超えてほぼ一定ですが、その人たちが「政策決定に関与できるほどの地位にいる」かどうかは歴史的環境で一変します。』
小津監督の達見はさすがだなと思いましたが、内田樹さんの言葉が怖いです。
「バカな野郎」をこれ以上威張らせない、自分たちの上に置かない、諦めずに、声を上げていきましょう。

響くか

何を考えるにも想像力が大事ですが、シナリオを描いているとシーンで想像ができるので、より自分が考えていること、思っていることが鮮明に見え、明確になるのではないかと思います。
ということは、ものごとを想像する、表現するのと同じで、シナリオで大事なのは、物語の流れではなくて、シーンだということです。

年に一度、出身ライターの清水有生さんに「清水有生の流儀」としてゼミナールをお願いしていました。
コロナになってできずにいたので、今年こそはと楽しみにしていたのですが、またまた・・・。本当に悔しい。
清水さんのゼミは、もちろん20枚シナリオを見てくださるのですが、こだわりはシーンです。
キャラクターも厳しいですが、シーンの描き方を主体に教えてくださっていました。

清水さんが前にしてくださった講義のなかで、シーンについてこう話していらっしゃいます。
『野球の野村監督は「ピッチャーが投げる球には1球ごとに目的がある。漫然と投げてはいけない。
1球でもいい加減に投げた球は必ず打たれる」と言っています。
シナリオも一緒です。何の意味も持たないシーンはいらない。必ず明確な目的意識が必要です。』

この時は、NHKの朝ドラ「すずらん」を書いていらした時でした。
10歳の主人公の萌が、自分を捨てた母親が会いに来るというので、駅の待合室で待っているのですが、結局終列車まで待っても母親は来ない、この後駅長である父親が慰めに来るシーン。
父が慰めるところで、萌が泣くのですが、萌は非常の意志の強い子で人前では涙を見せない設定で、ここまできています。
それが初めて父親の前でボロボロ泣くのがこのシーンの目的、「私、また捨てられちゃったのかな」が書きたいセリフ。
清水さんにお断りもなく講義でお話してくださったことを再現させていただくと、

まず、シンプルに
〇駅・待合室(夜)
    座っている萌。
    次郎やってくる。
次郎「いつか来てくれるさ」
萌「私、また捨てられちゃったのかな」
    泣く萌。
    次郎が抱きしめる

これで果たして泣けるでしょうか。
プロデューサーは感情移入してくれるでしょうか。
俳優さんも乗って演じてくれるでしょうか。

決定稿は
〇駅・待合室(夜)
   ぽつんと座っている萌。
   次郎やってくる。
次郎「とうとう来なかったな」
萌「——(うなづく)」
次郎「札幌へ行ってみるか」
萌「——(かぶりを振る)」
次郎「何かあったんだろう。いつか来てくれるさ」
萌「お父さん・・・・・」
次郎「———」
萌「私・・・・・」
次郎「どうした?」
    と顔をのぞく
萌「私、また捨てられちゃったのかな」
    萌、ボロボロ泣きだす。
    次郎、抱きしめる。

今思い出しても泣けるシーンでした。
このシーンは、狭い寂しい駅舎でなくてはだめだし、セリフも「ため」がなくては心に沁みない・・・シナリオが書くではなく描くというのは、このことです。
今年は、想像力を駆使してシーンを描いてください。
それは、すべての社会に通じることです。
清水さん、コロナがピークアウトしたら「清水ゼミ」をまたよろしくお願いします。

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