地域活性化のためのPR動画を作るとき
現在、授業の一環で「地域活性化のためのPR動画を作る」という話をよく耳にします。せっかく作るなら、テレビCMのような、カッコイイ感じに作りたいですよね?
でも、「カッコイイ感じ」だけを追い求めると、結果、「コレ 何を伝えたかったんだっけ?」となってしまう場合もあります。
では、どうすればいいのでしょうか?
そのヒントが、今回ご紹介する横浜市立 矢向小学校 5年生の皆さんに向けて実施したキッズシナリオの模様にありますのでご覧ください。広報の齋藤がレポートいたします。
=今回の概要==============
・サービス名:「PR動画を作ろう!」
・目的:地域活性化のVTR作り
・対象:横浜市立 矢向小学校 さま
・時間:約90分×2回
キッズシナリオの詳細 https://sites.google.com/view/kids-scenariocenter/home
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カッコイイPR動画を作りたい!
このクラスの皆さんは前回、「総合的な学習の時間(総合)」の授業で、「クラスの魅力」を伝える動画を作成。タイトルやナレーションも入れるなど編集作業も自分たちで行ったそうです。
そして次に作りたいと思っているのが「地域活性化のためのPR動画」。内容は、商店街にあるいろいろなお店をPRするもの。先生にお聞きしたところ、「現時点での想定では、まずはチームに分かれてそれぞれのお店を取材・iPadで撮影し、最終的にはクラスで1つの動画にまとめたいと思っています」とのこと。
そこで、こういったPR動画を作るために「映像制作のコツや技術を教えてほしいです!」ということで、シナリオ・センターの田中がキッズシナリオを実施させていただきました。
クラスの皆さんとお話ししてみると、テレビドラマや映画、CMやYouTubeなど「映像」に関する話題がたくさん出てきて、「観るのも作るのも大好き!」というのがとってもよく分かります。
そこで田中が質問。
〇田中:みんなにとって「良い動画」とはどんなものですか?
――すると、たくさん手が挙がり、ポンポンと意見が出てきます。
・人の心を動かすもの
・「いいなぁ」と思ってもらえるもの
・分かりやすいもの
・迫力やインパクトがあるもの
――田中はもう少し“深堀り”してみます。
〇田中:さきほど答えてくれた「迫力やインパクトがある」というのは具体的にどんな感じですか?
〇皆さん:映像に音がハマっている感じ。だから、細かい編集の仕方も知りたいです。テロップも入れたいし、効果音も入れたいです!
〇田中:そっか、皆さんはそういった「ギミック」の部分をグンとレベルアップして、オシャレでカッコイイPR動画を作りたいんですね。
〇皆さん:そうです!
〇田中:そこをレベルアップしていくのも、もちろん大切。でも、その前に忘れてはいけない、もっと大切なことがあります。音や映像の編集でむやみに迫力を出してかっこよく見せても、それだけでは観る人の心に響かないのです。
なぜかというと、そもそも動画というのは、伝えたいことを伝えるためのひとつの方法。このPR動画を通して、みんなが“何を伝えたいか”が重要です。「何を伝えたいか」が観る人に伝わらないと、どんなにカッコイイ映像でも「で、この動画、何が言いたいの?」ってなっちゃう。
みんなが憧れる動画って、伝えたいことがよく分かるし、なおかつ、見た目的にもステキだからカッコイイと思うんじゃない?
〇皆さん:そうだ……
〇田中:では、これから皆さんに、「何を伝えたいか」を意識して、それが観る人に「伝わるように」表現するための方法をふたつ、お伝えしていきます。
ひとつは「絵コンテ」。もうひとつは、「シナリオ」です。
①「絵コンテ」:伝えたいことを伝わるようにするための方法
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〇田中:皆さんはPR動画を作るとき、何人かでチームを組んで、そのメンバーと一緒に作るんですよね?
〇皆さん:はい。
〇田中:伝えたいことは同じでも、それをどんな映像で伝えるかというイメージは皆さん少し違ってくると思います。
そこで役に立つのが「絵コンテ」。こんな映像を撮る、というイメージを簡単な絵で描いておいて、これをチームのみんなで共有しておくと、チーム全員が同じイメージをもって協力することができます。
ちょっと練習してみましょう!
――田中は、短いシナリオが書かれたプリントを皆さんに配布。そのシナリオを、どんな映像にするか。4コマ漫画のような感覚で絵コンテを書いてもらいました。
〇田中:隣の人と見せ合ってみてください。ちょっと自分のとは違うでしょ?
〇皆さん:ほんとだ微妙に絵が違う!
〇田中:ね!同じシナリオでも頭に思い浮かんだ映像はひとそれぞれ。だから、絵コンテを書いてみる。そうすると、「こういう絵を撮ろう」とみんなで確認できるし、それから、「もっとこういうふうに撮ると伝わるんじゃない?」と意見を出して考え直すこともできます。
――皆さん、頷いております。
この後、この絵コンテをもとにiPadで撮影してもらいました。またその際、重要になるカメラワークのコツ「3つの枠―フレーム―:ロング・バスト・アップ」(※)についてもお話ししました。
②「シナリオ」:伝わるように、だけでなく、より面白くするための方法
〇田中:絵コンテが描けたら、映像にすることができます。でもその前に、絵コンテを描くための“おおもと”になるのはなんでしょう?
〇皆さん:シナリオ!
〇田中:そうです!「伝えたいことを伝わるように作る」ためだけじゃなくて、「伝えたいことが“面白く”伝わるように作る」ために必要になるのがシナリオです。シナリオを書くことで、どんなふうに伝えれば面白く伝わるのか、その「流れ」を整理することができます。
今日は練習として、チームに分かれて、<創業60年「肉のあおやま」のコロッケのおいしさを伝えるためのPR動画を作る>という設定で、そのためのシナリオと絵コンテを書いてもらいます。
〇田中:シナリオのパターンとしては大きく2つ。上記の設定で例えるとこうなります↓
①CMパターン
お肉屋さんの歴史、こだわりの具材、揚げ方、店主のキャラクターなど、CM的においしさを伝える。
②ドラマパターン
ドラマを通して、コロッケのおいしさを伝える。
――すると「CMパターンがいいな」「ドラマパターンがいい」と周囲の友達と相談する声が。早くもアイデアが沸き上がっているようです。
〇田中:CMパターンとドラマパターン、両方のプリントをお配りします。3人くらいでチームを組んで、どちらのパターンにするか決めたら、そのパターンのほうのプリントにシナリオと絵コンテを書きこんでください。
〇田中:注意点をひとつ。今日は練習ですので、「何を伝えるか」を忘れないようにするために、どちらのパターンもラストシーンが既に決まっています。そのシーンに向けてどう構成していくか、を意識しながらチームのみんなで相談してください。
――では早速スタート!
チームで話し合って、着々と作業を進めていきます。
CMパターンとドラマパターン、シナリオを発表!
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皆さん一生懸命、シナリオと絵コンテを作成。先生と相談して少しだけ時間を延長しました。
そして完成!
時間の関係で今回は、CMパターンとドラマパターン、それぞれ1チームずつ発表してもらいました。その内容がこちらです。
■CMパータンチームの内容
レポーターが「60年変わらない味。決め手は秘伝のソースです!」と紹介。レポーターが店主のもとへ。すると、秘伝のソースが入ったツボがアップ。店主がその壺に、揚げたてのコロッケをチョンチョンとつける。ソースの色がしみ込んで、湯気が上がっているコロッケのアップ。
ラストシーン:お店の外観とともに「いらっしゃいませ!」という店主の姿。テロップ「創業60年 肉のあおやま」
〇田中:このPR動画で一番伝えたかった「コロッケのおいしさ」がちゃんと伝わってきましたよね。お腹が減ってきました(笑)。ロングやアップもうまく使いこなしていますね。
ひとつ、アドバイス。一番伝えたい「コロッケのおいしさ」にプラスして、例えばお店の歴史がわかることをもう少しだけ描くと、「歴史があるお店だから、ここのコロッケはおいしいんだな」と観る人はもっとこの動画に引き込まれますよ。
■ドラマパターンチームの内容
コロッケを食べながら喧嘩をしている小学生の太郎と正雄。その様子を店主が見ている。3年後、少し成長した太郎と正雄が仲良く歩いている。「肉のあおやま」の前を通る二人。店主が二人に「昔は喧嘩してたよな」とコロッケを渡す。
ラストシーン:「おいしいね!」と商店街を歩く二人。テロップ「一緒に食べてあったかい。肉のあおやま」
〇田中:すごい、ちゃんと「アンチ」から入っていますね!「アンチ」というのは「アンチテーゼ」のこと。「テーマで伝えたいことの逆」のことから物語を始める、という物語の構成「起承転結」(※)の「起」にあたります。物語を作る上での基本を既に押さえていて素晴らしいですね。
ひとつ、アドバイス。今回一番伝えたかった「コロッケのおいしさ」というコロッケの魅力よりも、「肉のあおやま」というお店自体の魅力のほうがちょっと強めに出ているかなとも感じました。実際にPR動画を作るときは、シナリオと絵コンテを描く際に、「一番伝えたいことは何なのか」を常に忘れないように気をつけてくださいね。
――他のチームの皆さんも、田中の話を一生懸命メモするなど、最初から最後までヤル気に満ち溢れたキッズシナリオとなりました!
* * *
終了後、先生とお話ししたところ、「このクラスのみんなは本当に映像が大好きです。でも、いろいろと詳しく知っている分、“あの動画みたいに効果音を入れたい” “テロップを入れたい”といった【見せ方】に意識が向いてしまうところもあります。見せ方にこだわる前に、まずは “そもそも何を伝えたいのか”という【テーマ】を考えることが大切なんだ!と、今日の授業で実感できたんじゃないかと思います」と仰っていただきました!
地域活性化につながり、地域の皆さんに「面白い!」と言ってもらえるPR動画が完成できることを楽しみにしております。
今回のブログをご覧いただいたかたも、「何を伝えたいか」を忘れないでください!
※「3つの枠―フレーム―」についてはこちらのキッズシナリオの模様を。
▼「デジタルクリエーションクラブ/③ ロング バスト アップ を意識」
▼「谷中小学校 放課後子供教室/ 絵が苦手でも映像は撮れる」
※「構成(起承転結)」についてはこちらの記事をご覧ください。
▼総合的な学習の時間 事例の参考に/シナリオを書いて映像を撮る
▼「脚本の打ち合わせ(本打ち)など「直しの作業」で必要なスキルとは」の「起承転結のそれぞれの機能を知る」に注目してください。
その他、いろいろな学校で実施しているキッズシナリオの模様はこちらから!
・小・中学校への出前授業 キッズシナリオ 2021年9月以降の予定(2021.9.4時点)
■新渡戸文化小学校 デジタルクリエーションクラブ
■谷中小学校 放課後子供教室
・谷中小学校 放課後子供教室 /小学5・6年生も夢中になる物語作り
・「谷中小学校 放課後子供教室/ 絵が苦手でも映像は撮れる」
・「短時間でも映像は作れる!/子どもがのびのびと自己表現できる場」
※「谷中小学校放課後子供教室ブログ」でもご紹介いただいております。こちらからご覧ください。
・高学年ビッグプロジェクト始動開始!!『シナリオプロジェクト』プログラム
■シナリオ・センターで実施しているキッズシナリオクラス「考える部屋」
・観客・視聴者・読者が 「おもしろい!」と思うシーンを考える『考える部屋Ep6』