桜の気分
午前0時の身代金
新潮ミステリー大賞を受賞された京橋史織さんの「午前0時の身代金」が単行本になりました。
おめでとうございます。
受賞作の原題は「プリマヴェーラの企み」、こちらを加筆修正されて、素晴らしい小説になりました。
選考委員満場一致の受賞作で、その発想の見事さ、展開のうまさ、キャラクターに度肝を抜かれました。
まず一番の肝は、誘拐事件の身代金をクラウドファンディングで集めろという今までにない発想なのですが、クラウドファンディングが流行っているからという思いつきの発想ではないことが本書を読むとよーくわかります。
小説すばるでの吉田大助さんの書評では、「エンタメど真ん中を行く作品が現れた」と絶賛されているほど、単にクラウドファンディングで集めさせるのではなく、これがすごいんですね。
もう、寝ずに読んじゃいましたから。
新米弁護士の小柳大樹のところへ詐欺事件で相談に訪れた学生・菜子がその夜突然失踪。
翌朝「誘拐」されたことがわかる。
犯人の要求は、なんと身代金をIT企業のもとで10億円のクラウドファンディングで募れという。
しかも、募集は24時間、一人2口まで100万円を上限に、50万、1万、5千円の4種類に設定。
10万人が申し込み手続きをしないと集まらない。
犯人の思惑は?前代未聞の誘拐プロジェクトに、事務所のボス美里先生と人質を助けるために必死に動くのだが、次から次へと意外なことが起きてきて・・・。
主人公の新米弁護士の過去とキャラクター、登場人物たちの一筋縄ではないキャラクターが、この物語を重厚にしています。
ちょっとだけバラすと、誘拐された女性は振り込め詐欺の受け子、犯人から指名されてクラウドファンディングを行うIT企業の内情、集め方の詳細さ、犯人の思惑、事務所のボスとの関係など等を使い、誘拐事件のドキドキとクラウドファンディングが成功するか否かのドキドキと、これでもかと持っていく力、意外な展開、そして、ラストの終わり方は並外れています。
これは、京橋さんが多くの参考文献、取材など徹底的したことで、しっかりと裏付けをもっているからこそ、そして人間を描いているからの面白さだと思います。
面白い設定は、案外浮かびやすいのですが、それだけで面白いものが書けるのではなく、その設定を何十倍にも生かすのはシナリオハンティング同様、知識を持ち、情報の取集、人間観察などなどがきちんとできるかどうかです。
その力が小説家だけでなく創作者として成功するか否かだと思うのです。
京橋さんの次の作品がとっても楽しみです。