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代表 小林幸恵が毎日更新!
表参道シナリオ日記

シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。

生き方

マイホーム山谷

のんきに

シナリオ・センター代表の小林です。梅雨のような5月半ばの表参道には、人が溢れていました。
平日にもかかわらず、雨模様の表参道を歩いている人々は妙に楽しそうに見えました。こういう緊張感のない雰囲気がいいなぁ。
今はあちらこちらで緊張状態、カチカチの首を回している人が世界中に溢れていますものね。
自分自身がバタバタしているせいか、世代的にも競争しなくては生きていけない世代だったせいか、私はゆったり構えている人が好きです。憧れです。(笑)
みんな、ちょっと余裕が持てれば、他人の国に攻め込もうともしないだろうなと思ったりして。
今はやけにお上があちこちで煽って、どこかに攻め込まれたらどうするのと国民を焦らせている気がします。
よく「憲法9条があれば日本を守られるのか」という方がいますが、逆に「憲法9条を変えたら日本を守れるのか」とお訊ねしたい。
武器には武器で、核には核で対抗していたら、終わりはありません。
ずーっと誰かよりどこかより多く持たなくちゃ、優位に立たなくちゃと思い続けるわけですから。

のんきに暮らせる世の中でありたいと、ウクライナ情勢を見るにつけしみじみ思います。

マイホーム山谷

出身ライターの末並俊司さんが、「第28回小学館ノンフィクション大賞」を受賞され、受賞作の「マイホーム山谷」(小学館刊)が出版されました。
この本は、山谷というドヤ街で、「理想のケア」を追い求めた男の栄光と挫折を描いたものです。
NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」でご存じの方も多いかと思いますが、山谷に路上生活のまま歳を取った人や心身に深刻な病気を抱えている人、生活に困窮している人などを積極的に受け入れるホスピス「きぼうのいえ」を作りあげたのが山本雅基さんと美恵夫妻。その山本雅基さんのお話です。

この「きぼうのいえ」は、山本雅基さんと美恵夫妻が作り上げ、NPO法人として山谷で中心的な役割を果たしてきました。
この活動を認められ「社会貢献者表彰」を受け、マザー・テレサ生誕100年を記念したドキュメンタリー映画「マザー・テレサと生きる」でも大きく紹介され、山田洋次監督の映画「おとうと」(2010年)では、「きぼうのいえ」をモデルにして、小日向文世さんと石田ゆり子さんがご夫婦を演じました。

山本さんは「困っている人のためになんでもいいから役に立ちたい人」なのですが、それゆえにむちゃくちゃな行動をとり、精神をむしばまれていくのです。
山谷に「ホスピス」を作り、20年間で200人以上の人を看取った人にもかかわらず、鬱と統合失調症で酒づけの日々を過ごし、理事長であった「きぼうのいえ」を追い出され、妻の美恵子さんに逃げられ、病に倒れて一人で暮らせなくなってしまうという彼の現実を末並さんが追っています。
末並さんは、ご両親を介護され、介護の世界に興味をもち、ライターとしても介護と福祉に軸足を置くようになり、山本さんに興味をもたれたそうです。そこから、壮絶なお付き合いがはじまります。
他人に尽くすということは並大抵のことではできないことです。
山本さんの志とは別に、自分自身を壊してしまったその経緯を末並さんは冷静な目で見つめ、描いています。

末並さんの「マイホーム山谷」は、ノンフィクションにありがちな難しさとか読みにくさのない書き方で、私たちに多くの問題を問いかけてきます。
私は、ここに登場する方々の生き方に頭が下がる思いとともに、公助というものがまったく作動していない日本という国、通り一遍のことしかやらずに福祉といいはる行政を腹立たしく思いながら読み終わりました。
でも、末並さんはそこを怒れとはまったく言ってはいないのですが。(笑)

山本さんに末並さんは言われます。
「10年後、20年後、例えば自分が80歳になって、介護や医療が必要になり、一人で生きていけなくなった時、末並さんは絶対的に頼れる人とか場所がある?」
この言葉の重みをあなたはどう受け止めますか。

7月に末並さんをミソ帳倶楽部にお招きして、直接、お話をお聴きしたいと思っています。

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