脚本家になると、脚本をお願いされることもあれば、脚色をお願いされることもあります。
「え?脚本と脚色の違いって?」という方。その説明として一番分かりやすいのではないかなと思うのが、米・アカデミー賞の「脚本賞」と「脚色賞」。
脚本賞=Academy Award for Writing Original Screenplay
脚色賞=Academy Award for Writing Adapted Screenplay
この英語からも分かるように、簡単にざっくり言うと「脚本」は「イチから考えたオリジナルのもの」で、「脚色」は「小説やマンガなど原作をもとにアレンジしたもの」になります。
今回ご紹介する出身ライターの蛭田直美さん。2022年3月に放送された『しずかちゃんとパパ』(NHK BSプレミアム)では脚本を、2022年8月5日から放送・配信スタートする『ワンナイト・モーニング』(WOWOW)では脚色を手掛けられています。
なお、『しずかちゃんとパパ』は「第48回放送文化基金賞」の【番組部門】で優秀賞と演技賞(笑福亭鶴瓶さん)を、「第38回 ATP賞テレビグランプリ」のドラマ部門で優秀賞を受賞されるなど、放送終了後も大変話題となりました。
『しずかちゃんとパパ』の脚本はどんな思いで書かれたのか。『ワンナイト・モーニング』はどんなふうに脚色されたのか。
こちらのコメントをご覧いただくと、より具体的に「脚本」「脚色」についてお分かりいただけると思います。なお、『月刊シナリオ教室2022年8月号』には蛭田さんのインタビューを掲載。併せてご覧ください。
ドラマ『しずかちゃんとパパ』
「“父子家庭の娘の旅立ち”を主軸に」
■『しずかちゃんとパパ』:父一人娘一人の父子家庭。父は生まれながらに耳が聞こえないろう者。父の耳代わり口代わりを務めてきた娘が、ひょんなことから出会った男と恋に落ち、結婚するまでの顛末を描くホームコメディ。
※YouTube
NHKエンタープライズ ファミリー倶楽部
しずかちゃんとパパ PR動画
――この作品を書こうと思ったキッカケ
〇蛭田さん:何度かご一緒したプロデューサーから、「ろうの父とその娘の、子離れ、親離れのドラマを作りたい」とお話をいただきました。私自身、生まれつき左耳が聞こえなかったり、母を早くに亡くしているので、きっと活かせることがあるのでは、私でなければ書けないことがあるのでは、と思い、喜んでお受けしました。
――主人公・野々村静香のキャラクター設定について
〇蛭田さん:企画の段階で、聞こえない親御さんをもつお子さんについて調べて行く中で、“CODA”という言葉を見つけました。そして、CODAのみなさんの多くに共通するといわれている特徴(もちろん、全ての方に当てはまるわけではないですが)にとても魅力を感じて、すぐプロデューサーに伝えました。
その後、実際にCODAの方々に取材をさせていただいたのですが、皆さん本当に魅力的なんです。あっという間に大好きになってしまいました。
私は、キャストが決まっている時は、おこがましいながらどうすればその俳優さんが最大限魅力を発揮していただけるか(本当におこがましいですけれど……)を最優先にキャラクターを作るのですが、静役の吉岡里帆さんの魅力とCODAの皆さんの魅力が、奇跡みたいに重なった気がしたんです。その瞬間、静に会えた気がしました。
――特に心掛けたこと
〇蛭田さん:もちろん“ろう者の父とCODA”の物語ではあるのですが、そこを主軸にはしないで、“父子家庭の娘の旅立ち”を主軸にすることを心掛けました。その父と娘がたまたま、ろう者とCODAだった、みたいな。その“たまたま”を描く為には、ろう者とCODAの生活描写に“さりげなさ”が必要で、さりげなく描く為には知識が必要だと思い、出来る限りの勉強をしました。
ドラマ『ワンナイト・モーニング』
「世界観や空気感、キャラクターを壊さないように」
■『ワンナイト・モーニング』:ある男女が一夜を過ごす中で心と体を交わし、ささやかな“朝ごはん”をともにする時間を描いたオムニバスドラマ。
※YouTube
WOWOWofficial
ワンナイト・モーニング/特報【WOWOW】
――今回の脚色で特にこだわったところや、特に注目してほしいところ
〇蛭田さん:奥山ケニチ先生の原作が本当に面白くて、登場人物たちが魅力的なので、世界観や空気感、キャラクターを壊さないように気を付けながら、ドラマの尺に合うようにエピソードを加えさせていただきました。
本打ちで監督の柿本ケンサクさんが仰った「“0から1になる朝”を描きたい」という言葉に感動して、そんな物語になるように、“1が2”でも“0が10”でもなくて、あくまで“0から1”になるように心がけました。そこを感じていただけたらとても嬉しいです。
あ!あと、全話にすごく斬新な演出が入っていて、私も完パケを観てびっくりしたので(笑)、ぜひ皆さんにもびっくりしていただきたいです!
「今でも執筆に迷った時、当時のノートを見直したりしています」
――どんな時に「脚本を書いていて良かったな」と思いますか?
〇蛭田さん:「脚本を書いていて良かったなと思う時」。これはもう、ありすぎます。良かったことばかりです。
考えている時、書いてる時、本打ち、直し、現場にお邪魔した時、完パケを観た時、放送を観た時、放送後に感想をいただいた時……全部幸せでたまらない気持ちになります。脚本家って世界一楽しくて幸せな仕事だと思っています。
東日本大震災の時、死ぬことがとてもとても怖くなって、何かしたいと強く思ったんです。その“何か”に脚本を選んだのは偶然みたいなものだったのですが、その偶然に心から感謝しています。
シナリオ・センターには、「シナリオS1グランプリ」で受賞させていただいたことがきっかけでお世話になったのですが、教わったことが仕事をする上でも本当に役立っていて、今でも執筆に迷った時、当時のノートを見直したりしています。
いつもあたたかく見守ってくださり、嬉しい事があると一緒に喜んで、祝ってくださり、時々遊びに行かせていただくと実家のように迎えてくださって、とても大切な場所です。
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・前回ご登場いただいたブログも是非。
▼「映画『 五億円のじんせい 』を書いて/脚本家 蛭田直美さん」
・「脚色」についてはこちらの記事もご覧ください。
▼「原作を脚色するとき/脚本家とプロデューサーの視点」
・シナリオ・センター出身の脚本家・監督・小説家のコメント記事一覧はこちらで。
▼「脚本や小説を書く とは/シナリオの技術を活かして」
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