十一面観音
シナリオ・センター代表の小林です。今週から寒くなるとかで、ちょっと冬支度気分です。でも、まだ暑かった日々が脳のどこかに残っているのか、厚着をすると不安になったりします。体と気持ちと気候がなぜかマッチングしない毎日です。
土曜日に日帰りで長浜まで行ってきました。正確に言うと長浜のちょっと先高月というところへ行きたくて出かけたのです。
そこには、日本で一番美しいといわれる十一面観音がいらっしゃいます。
渡岸寺観音堂(向源寺)の国宝十一面観世音菩薩。
昨年でしたか。上野の国宝展にもお出ましになった時に拝顔したのですが、見れば見るほど美しく、心が洗わられるようなたたずまいに、やはり「野におけレンゲソウ」じゃないけれど、その地でお会いしたいと思ったのです。
ようやく念願かなって、お会いすることができました。
紅葉まっさかりの寺門を通ると、そこはまさに恋焦がれたあの十一面観音が。
何の信仰心も持たない私ですが、心が震えました。すぐそばで四方からゆっくり拝見することができるようになっており、それはそれは素晴らしい見事なお姿でした。
浅井・織田の戦から逃れるために、住職と住民で土中に埋蔵して守ったそうですが、聖武天皇の時に造られた木彫りの仏像がそれから1250年経ても、美しいまま現存していることに驚かされます。
遠く目をやると伊吹山が見えます。お市の方の三姫たちもここで生まれ、この景色を見たのかと思いながら、秋の日を楽しみました。
長浜城の(といっても博物館)天守閣からの琵琶湖も、琵琶湖湖畔も、紅葉とマッチして、本当に心洗われるような景観を満喫させてくれました。
鈴の音が聞こえる~伝えるということ~
作家集団の辻みゆきさんが、私の大好きな動物病院のゆずちゃん主人公の「ゆずのどうぶつカルテ」(講談社)、すご~い、11巻目を上梓しました。そして、もう一冊、児童書を新しく書き下ろしました。
「鈴の音が聞こえる~伝えるということ~」(講談社)
主人公の美空は、ピカピカの中学1年生。今の社会では大多数の人と同じ生活は送れない視覚障碍者、すべてがぼうっと見える弱視。
1歳上の健常者の兄大地とともに聖白鳩学園の盲学校の中学部に通うことに。この学校には中央に学園、右に盲学校、左の聾学校の三校があり、三校の生徒が自由に交流できるように作られている。
小学校で同じクラスだった健常者の陽菜、盲学校で初めて出会った悠希と仲良しになる。
登校1日目、学校内を歩いていると「シャラン」という鈴の音が。
それは、小学4年生の時に父親を亡くし、再婚同士だったために身内がいないことがわかった美空が絶望して葬儀場を飛び出し、暴風雨の中どこかもわからなくたて泣いていると誰かが手を引っ張ってくれ、助けてくれた時になった鈴の音。
助けてくれたと同時に家族の絆をわからせてくれた水琴鈴、鈴の持ち主はあの時の人なのだろうか。
誰よりも美空を心配している兄大地、心優しい3年生の宮坂先輩、仲の良い学校の友人らに囲まれながら、伝えたい想いがあふれる日々を描いた学園ラブストーリーなのですが、障碍者の目線で描かれていて、優しい気持ちになるお話です。
美空が、友達や先輩のなかで、どんどん積極的に変化していくさまが気持ちよく描かれています。
最近、川口春奈さん主役の「Silent」が評判ですが、出身ライター松田裕子さん脚本の「恋です!ヤンキー君と白杖少女」も視覚障害、各賞を受賞した出身ライター蛭田直美さんの「しずかちゃんとパパ」や岡田恵和さんの「ファイトソング」は聴覚障害など、障碍を描いたドラマも増え、どのドラマも評判が高いです。
少しずつですが、「同じだよ、みんな一緒なんだよ」というメッセージが増えてきているような気がします。
この「鈴の音が聞こえる」の中で「今の社会では大多数の人と同じ生活は送れない」というフレーズが胸に刺さります。
多くの子どもたちがこの本を読んで、何かを自分の心でみつけてくれたらいいなぁと心から思います。
障碍もその人だけが持つ個性で、誰しもがどこかに多かれ少なかれ障害を持っていることを自覚すれば優しい社会になれると思うんですが・・・。
行動しにくい街の構造の問題はもちろんのこと、一番は、生産性のない人を排除したいという人たちが日本のトップにいることだと思います。あなたの精神が病んでいるのだよ、あなたが差別している人こそが健常だよと言ってやりたい。
お互いを認め合うことができる社会を創るためには、私達が、少しずつでも声をあげていくことではないかと、この本を読んで改めて思いました。
聖白鳩学園は、盲学校、聾唖学校、普通校が混在することで、お互いを認め合い、助け合っていくことが日常となっているのです。