脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画を中心に、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにもちょっと興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その65-
『犯罪都市 THE ROUNDUP』主人公を際立たせる脇キャラの描き方
ここのところ変わったマイナー系映画のご紹介が続いていたのですが、今回も観客を限るかもしれない韓国のアクション映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』。でも韓国本国では『トップガン マーヴェリック』をしのぎ、5人に1人が見たという大ヒットで、世界での公開も決まったとのこと。
2017年製作の『犯罪都市』の続編で、同じ警察チームによる凶悪犯との戦いがスケールアップして描かれています。
なんといっても一番の売りは、マブリーという愛称で知られるようになった主演のマ・ドンソク。愛嬌のある顔と樽みたいな胴、二の腕の太さは普通の人の腿くらいあって、この身体で武器を持った犯罪者を容赦なくぶっ飛ばします。ゾンビ映画の傑作『新感染 ファイナル・エクスプレス』で注目され、以後この体格で『悪人伝』などで人気が上がり、ハリウッドにも招かれ『エターナルズ』に出演、マーベル映画デビューも果たしました。
予告編を見ていただくと分かりますが、マブリー兄貴の規格外アクションは、もう笑ってしまうほどの大迫力。これぞアクション!こんなにストレス発散させてくれる映画ともめったに出会いません。
研修科の20枚シナリオの課題、後半に「アクション」がありますが、ぜひ参考に。どのアクションシーンも、場所や設定に工夫が凝らされています。
そうそう、基礎講座の人物の描き方で、「主役はノレンを分けてサッと出る」という長谷川伸先生のお言葉を紹介しますが、【起】のところで主人公のマ・ソトク刑事(マ・ドンソク)の登場シーンは、まさにこれ。
ちなみに、この立てこもり犯人をマ刑事が、というシーンを見ていて思い出したのは、『七人の侍』の志村喬扮する参謀役侍の勘兵衛が、その才覚を見せる場面でした。監督デビューというイ・サンヨン監督も見ていたに違いない。
といった見どころも満載なのですが、今回の「ここを観ろ!」は、主人公と対比させるための脇キャラの配置、描き方です。
これも基礎講座で習いますが、中心となる主人公はラウンドキャラクター(円型人物)として造型して描く。さらに副主人公や脇役(セミ・ラウンドキャラクター)と配置していく。このキャラクターの配分、対比、バランスで主人公の魅力も発揮されますし、ストーリーもメリハリをつけて展開されていきます。
主演のマ刑事はご覧のとおりで、警官として犯罪を許さずに猪突猛進する。それが度外れているせいで、たびたび問題を起こしてしまったりする。まさに主人公らしいキャラクターとして造型されています。
で、アクションものの場合は特に大切なのですが、この主人公と対する敵役が重要。今回のカン・ヘサン(ソン・ソック)は、狂暴凶悪だけでなく、凄まじく強い。殺し屋チームに襲われても、返り討ちしてしまう。この強敵にマ刑事はいかに戦うか? 当然クライマックスは一対一の対決となります。
さらに前作も登場した2人の脇キャラに注目。1人はマ刑事の上司で強力班のチョン・イルマン班長。犯罪者の引き取りのために、ベトナムにマ刑事と赴くのですが、事件を起こしたカンを追うことになる。
暴走するマ刑事に、班長としていつも文句(愚痴)を吐きながら、結局よき相棒として、捜査のためにバックアップします。
もう1人、前作はヤクザのボスでしたが、今ではすっかり小悪党になったイス(パク・チファン)。マ刑事に脅されるまま情報を提供し、重要な任務をやらされるはめになるのですが、金に対しての執着も失わずに大活躍することに。
脇役にはアクセントとして、笑いをとらせるコメディリリーフの役割を与えたりするのですが、チョン班長とこのイスこそその見本です。
そしてもう1人、印象的な脇キャラを挙げると、紅一点の誘拐された社長夫人。ほんのちょっとしか登場しないのですが、その少ない場面で個性をきちんと発揮しています。
暴力的映画だからなあ……と避けるのではなく、圧倒的な主人公のマ刑事の魅力と、絶妙に配置された敵役、脇キャラの描き分けをぜひ参考にしてほしい。
ところで、すでにパート3の製作が始まったとかで、しかも今回の敵は日本の犯罪組織。青木崇高が重要なヤクザ役、國村隼がボス役で特別出演するとか。これももう今から楽しみでワクワクします。
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シネマトゥデイ
マ・ドンソク主演映画『犯罪都市 THE ROUNDUP』予告
-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その66-
『すずめの戸締まり』エンタメを通しつつ311を描く手法
今回は、記録的大ヒット中の超メジャー映画『すずめの戸締まり』。改めて述べるまでもない新海誠監督の新作ですが、期待を裏切らない圧巻の出来で、日本が世界に誇るアニメーションのクオリティの高さが体験できます。
ところで本作では入場者に、『新海誠本』という小冊子が配られています。これにはなんと、本作と新海監督の前2作『天気の子』『君の名は。』の企画書の一部が掲載されています。
私は年に一度「企画書講座」を受け持っていますが、現場のナマな企画書というのは、めったに外に出ることがありません。企画開発は通常秘密裏に進行するから。ですので、この冊子に掲載されている3作の企画書は、脚本家志望者にとって保存版にしてほしい貴重な資料です。
本作だけでなく、大ヒットした『君の名は。』は、当初は『夢と知りせば(仮)―男女とりかえばや物語』という仮題で、そのタイトルの意味や発想のとっかかりが記されていて、大いに参考になります。
「企画書は紙のプレゼンです」と常々述べていますが、要は提案者の熱(思い)をいかに具体的にアピールできるか?この三作の企画書を読むと、新海監督の熱意がビンビンに伝わってきます。これを皆さんに見習ってほしい。数に限りがあるということですので、ぜひ早めにゲットして下さい。
この冊子に“『すずめの戸締まり』企画書前文より”でこう書かれています。
<この物語には三つの柱がある。
1つは、2011年の震災で母を亡くしたヒロイン・スズメの成長物語。
2つめは、椅子にされてしまった草太と、彼を元の姿に戻そうとするスズメとの、コミカルで切実なラブストーリー。
3つめは、日本各地で起きる災害(地震)を、『後ろ戸』というドアを閉めることで防いでいく「戸締まり」の物語。
これら3つの要素を、九州から東京、東北へと旅を続けるロードムービーとして描いていく。>
まさに内容やテーマ、狙い、ジャンルなどを端的に伝えていますね。
で、今回の「ここを見ろ!」は、1つ目の“2011年の震災”について。
あの 3 11 から来年で12年目。未曾有の大災害(とその後の福島原発事故も)は、日本人に深い傷を残しましたし、アンダーコントロールどころか、今もまだ癒えていないとも言えます。
さて、この震災を題材やテーマとしてフィクションにするとして、創り手はどのような手段、アプローチをすべきか?これはかなり難しい問題です。
それこそ震災から数年後の企画書講座だったと記憶していますが、宿題として提出されたアイデアで、「震災直後の混乱を利用して殺害した死体を処理する」みたいなミステリー案を出された方がいて、激怒した覚えがあります。
多数の犠牲者が出て、その遺族や関係者の方々の記憶が生々しい時に、いくらなんでも不謹慎過ぎる。こうした感覚は10年以上経って薄れてきたとはいえ、未だに残されているだけに、フィクションとする際には神経を配ることが求められるわけです。
映画に限らず、震災を扱った創作はそれなりに増えてきました。真正面から描く作品もあれば、エンタメ要素を巧みに加えつつ、受け手をその世界に引っ張りこんで、最終的に創り手の思いを預けるという手法もあります。
「シナリオ教室」の11月号に掲載された嶋田うれ葉さん脚本の『天間荘の三姉妹』(原作は髙橋ツトムさんのコミック)(※)も、あの世とこの世を繋ぐ旅館を舞台にしたファンタジーでありながら、実は311の震災も扱っていて感動的な物語になっていました。
『すずめの戸締まり』もファンタジー仕立てです。それも冒頭からラストまで、ジェットコースターのように主人公の鈴芽と、椅子になってしまった草太とが、(化猫?)のダイジンを追いかけて九州から四国、神戸、東京を経て東北に至るまでのバディロードムービーです。
でも鈴芽は、バックステージとして震災で母を失い、その回帰と鎮魂を経ての自身の成長が、物語を支えるテーマとなっています。
エンタメとして展開させながら、それなりに重たく、まだ記憶として生々しい震災をどのように扱うか?
これまでの新海作品、特に『君の名は。』も『天気の子』でも、天災が重要な事象として扱われていましたが、特に本作の 3 11 の描き方をしっかりと見てください。
※嶋田うれ葉さん脚本の『天間荘の三姉妹』についてはこちらの記事もご覧ください。
「生と死をテーマにした物語を書くとき/嶋田うれ葉さん脚本『天間荘の三姉妹』に学ぶ」
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東宝MOVIEチャンネル
『すずめの戸締まり』予告
- 「映画が何倍も面白く観れるようになります!」
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