モノマネが下手でも、モノマネしたい その人の口癖を言ってみれば、誰のモノマネをしているかは伝わりますよね。それだけ、口癖はインパクトが強い。これはシナリオを作るときも同じだよ、というのが今回のお話です。
このコーナーでは、「自分にはシナリオを書く才能がないかも……」と悩んでいるかたへ、面白いシナリオが書けるようになるちょっとした“術”を、シナリオ・センター講師・浅田直亮著『いきなりドラマを面白くする シナリオ錬金術』(言視舎)&『月刊シナリオ教室(連載「シナリオ錬金術」)』よりご紹介いたします。
口癖はキャラクターを伝える強力な武器
「ちょちゅね~」といえば?
そう、ボクサーの元世界ジュニアフライ級チャンピオン具志堅用高さんの口癖です。
この、たった一言で具志堅さんの容姿や顔が、くっきりと浮かび上がってきます。ボクシングの世界のハードでストイックなイメージとは裏腹な、いつも明るく屈託のない、な~んにも考えていないように見える天然ボケなキャラクターも伝わってきます。どんなにモノマネが下手な人でも「ちょっちゅね~」とさえ言えば、具志堅さんのモノマネであることが分かります。
具志堅さんに限らずモノマネをする時、その人の口癖を入れることって多いと思いませんか?
たとえば田村正和さんの『古畑任三郎』のモノマネだと必ず「ん~、あのですね、ん~」みたいに「ん~」をつけるとか、ちょっと古いけど田中角栄さんのモノマネだと「まっ、その~」だとか、アントニオ猪木さんだと「なんだコノヤロー!」とか。
それほど口癖というのは、キャラクターを伝えるのに、とても強力な武器なのです。
もちろん、シナリオでも口癖は効果抜群!
特にコンクールの1時間もののシナリオなど、できるだけ早く短い時間で主人公のキャラクターを伝える必要がある時には超オススメ。
さらに、コンクールの1次審査や2次審査は、ほとんどの場合、一人の審査員が20本や40本のシナリオを読んで、その中から数本を選び出すことになっています。その時、主人公のキャラクターが印象に残っていればいるほど「ああ、これ面白かったなあ」と思い出されやすく選ばれる確率が高くなります。
人の記憶に残るのはストーリーよりもキャラクターなのです。
どんなに短いシナリオでもキャラクターならではの口癖を二度、三度と繰り返し言わせることで(あんまり多すぎると煩わしくなりますが)口癖とキャラクターが脳にこびりつきます。一度こびりついたら最後、もう決して忘れられなくなります。
というわけで今回は、「もう忘れられない!耳タコの術」です。
「~ですが、何か」といえば?
まず連続ドラマ『ハケンの品格』(※)の主人公、篠原涼子さんが演じた大前春子の口癖は「~ですが、何か」でした。
このドラマは、数十種類の資格を持ち、超破格の時給で契約、それも期間は3ヶ月限定で延長はなし、残業や休日出勤も一切しないというスーパー派遣社員が、派遣社員に反感を持つ正社員と戦いながら、同じ派遣社員や所属する部署の危機を救っていくという、お仕事ドラマ。
初出勤すると、いきなり資料の棚を整理し始める主人公を、課の主任が「今日はとりあえず職場に馴染んで下さい。本当にまだ何もしなくていいですから」というと、主人公はデスクで石のように座っています。なんか怒ってますか?と聞かれて「何もするなという主任の指示に従っておりますが、何か」。
主任が「じゃ、大前さんには…そうだ、お茶でも淹れてもらおうかな」というと、ちょうど時計の秒針が12時を指し、主人公は「12時ですので失礼します」と立ち去り昼休みに入ってしまいます。
午後の仕事が始まりマーケティング課の初仕事について主任が説明しますが、主人公がいません。「あれ?大前さんは?」と探すと、お茶の盆を持って立っています。みんなに、お茶を配ると、飲んでビックリ!ものすごく旨いのです。
「お茶っ葉、替えました?」と聞く主任に「いえ、給湯室にあったいつものですが、何か?」
休日に後輩の派遣社員が電話をかけてきて、面談でパソコンができるとウソをついてしまったことを相談してくると「そんな事とっくにみんなにバレてると思うけど、何か」と突き放し「個人情報だから番号消去して。二度とかけてこないで」と電話を切ります。
第2話では、正社員が半年がかりの接待で売り場を確保したデパートの支店長から主人公あてに電話がかかってきます。実は以前に主人公は派遣で働いたことがあり店長の絶大な信頼を得ているのです。自分あてにかかってきたと思っていた正社員は電話の内容が気になって仕方がありません。
電話を切るなり、「支店長なんだって?」と尋ねると「正社員さんの提出した売り場面積の計算間違っていました」と言われてしまいます。さらに正社員が「そ、それだけか?なんかもっと喋ってただろ。全部報告したまえ」と言うと「東海林君は大丈夫なのかと訊かれたので、さあ、と答えましたが、それが何か」と答えます。
いかにも頼れるのは自分だけ、無愛想で人に媚びず、決して群れない一匹狼なキャラクターならではの口癖です。
しかし、実は人一倍傷つきやすい弱さを持っていて、過去のリストラ経験から、強くなろうとスーパー派遣への道をたどり始めたのですが、その弱さを守るための鎧のような口癖でもあるのです。
※『ハケンの品格』についてはこちらの記事もご覧ください。
▼『ハケンの品格』に学ぶ脚本勉強法:説明を感じさせないセリフの書き方
「ウチのカミさんがね」といえばアノ人
ちょっと古い海外ドラマですが『刑事コロンボ』の主人公の口癖の一つは「ウチのカミさんがね~」でしたね。
この『刑事コロンボ』(※)は、まず最初に完全犯罪をたくらむ犯人の犯行が視聴者に見せられます。そして、コロンボが現れ、周到に計画されたはずのほんの僅かな手がかりに目をつけて、犯行を突き止めていくというミステリー・ドラマです。
その犯人役の登場人物とコロンボとの会話の中で必ず出てくるのが「ウチのカミさん」の話です。
たとえば『殺人処方箋』では、最初はカミさんの妹の話が出てきます。コロンボが初めて犯人のオフィスを訪ねて来た時です。「ウチのカミさんの妹の居間ってやつがモダンなんです。そこに座ると、おっかなくて喋れないんです。腎臓の形をしたコーヒーテーブルがデンとあって…」と、まったく関係のない話をします。
でも、犯人にとっては、わざわざ刑事が訪ねてきたわけです。何かあるに違いないとジリジリしながら聞いています。
焦らされて、「何か、ご用ですか?」と聞くと、特に何もないと帰ろうとしながら「ああ、一つだけありました」と空港を出かける時の所持品の重さとアカプルコから帰って来た時の所持品の重さが、かなり軽くなっていたことを尋ねてくるのです。
実は犯人は、強盗殺人犯が持ち出したかのように見せかけ貴金属や銀食器類を持ち出しアカプルコの海に捨てているのです。もちろん、医学雑誌を持って行って旅先で処分したと答えますが、どこまでコロンボに見抜かれているのか気が気でなくなってくるのです。
再度、犯人を訪ねたコロンボは「釣りに凝ってまして、この夏どこに行くかカミさんと検討中なんです」と犯人が訪ねたアカプルコのことを聞いてきます。そして、海にゴミを捨てる人がいるそうですねえ、とプレッシャーをかけてきます。
犯人は、たまらず動いてきます。知り合いの検事に頼みコロンボを捜査から外そうとするのです。
しかし、これは墓穴です。自分が怪しいと言っているようなものです。
コロンボは精神科医の犯人に言います。「カミさんが診てもらうべきだといいましてね。私の問題というのは疑り深いということです。人を信じない。たとえば担当から外されたりすると誰かの圧力じゃないかと勘繰るんです。裏に何かあるってね」。
精神的に追いつめられた犯人は、この後、コロンボのしかけた罠に、まんまとはまってしまうのです。
※『刑事コロンボ』についてはこちらの記事もご覧ください。
▼刑事コロンボの“結”が秀逸すぎ。観客を虜にする、いさぎよさ
長い楊枝とセットで流行した口癖
もう一つ、かなり古い時代劇のドラマですが『木枯らし紋次郎』の主人公の口癖は「あっしには関わりのねえこって」というものです。この口癖は主人公・紋次郎が咥えていた長~い楊枝とともに大流行しました。
ドラマは、たとえば第2シーズン第13話「怨念坂を蛍が越えた」では、怨念坂に化け物が出るという噂が流れているのを憂慮した村の大総代の奥方が、「このままにしておくわけには参りません」と言いますが、紋次郎は「化けもんが出ようが出まいが、あっしには関わりござんせん」と相手にしません。
が、同じ渡世人の蛍の源吉が、幼い頃に別れた姉の面影を大総代の奥方に見ているのを知ります。
この回では語られないのですが、実は紋次郎もまた農家に生まれ、すぐに間引きされそうになったのを姉に助けられたという境遇なのです。
蛍の源吉の姉を思う気持ちに心動かされ、紋次郎は化け物騒動に関わっていくのです。
いかがですか?
みなさんも一世を風靡するような主人公の口癖を考えてみませんか?
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年9月号)掲載の「シナリオ錬金術/浅田直亮」より
☆テレビドラマやアニメ・映画などで印象に残っている「決めゼリフ」を100個言ってみる、という“お題”があるこちらのブログ。大変ですが発想の勉強になりますよ↓
▼年末年始に 書くペース を整えるカレンダープログラム
※浅田講師の著書も是非!
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