分断
シナリオ・センター代表の小林です。ここ数日肌寒い日が続きます。
あちらこちらで地震があり、日本列島は大丈夫なのかと心配になりますが、そんな中、久々に東京では神田明神の神田祭が行われ、神輿が繰り出され、コロナ前の賑わいが戻ってきた感じでした。
日本各地でもお祭りが再開され、ニュースを彩っていましたが、人混みは好きではないけれど、やはり人の声が、笑い声が聞こえる、笑顔をみえるって、素敵なことだとしみじみ思います。
笑顔や笑い声が続く世の中でありたいし、もっと気軽に生活できる安心安全な世の中だったらいいのに、どんどん悪くなっていますからね。
表参道の駅中にもあるスープストックというスープ専門店が、赤ちゃん向けの離乳食の無料提供をはじめると発表したところ、「お一人様を大事にしない」などの批判があり、子どものいる、いない女性の確執を作ったと話題になっているそうです。
私は、おひとりさまでいることも、子どもを産み育てることも、それぞれ個人の判断ですから、どちらを選んだとしてもどちらもよいことだと思います。
一人一人の感じ方はあるでしょうが、私は、どちらも自分と違う側の損得を考えては欲しくないと思います。
もっと想像力を働かせて、違う生き方をしている人の生活にも想いを馳せて欲しいのです。
もし、恩恵と受けたとしたら、受けられることへのありがたさをきちんと受け、受けられない人への想いも想像して欲しいと思いますし、恩恵を受けない側は、受けた人が少しでも幸せであることを感じて喜べることができる、寛容な世界でありたいです。
ないより争うのはそこではなく、男性社会の中で悠々自適のおっさんたちの戯言に惑わされずに、女性たちよ、いや、心ある人たちがちゃんと生きられるように、何が大切で、どういう世の中がいいのか、自分の考えを伝えていきましょう。
オール・ノット
出身作家の柚木麻子さんの新刊が出ました。
「オール・ノット」(講談社刊)
苦学生の真央がスーパーのアルバイトで出会った試食販売員の四葉。
四葉は、横浜で没落した金持ちの娘。その四葉の不思議な魅力に惹かれた真央は、食事を通して親しくなり、唯一四葉に残った財産の宝石箱をもらい受ける。
宝石箱には、大きなダイヤや翡翠、琥珀とおもにオール・ノットの真珠のネックレスがあった。
この宝石箱を四葉に残した祖母のみつば、母一葉、四葉の親友だったミャーコ、家政婦の竹本さん、四葉の実家山戸家が創ったクッキー「りぼんのぼうし」箱のモデル舞、様々な人と、過去と繋がっていくことで真央に変化が。
シスターフッド(女性の連帯)を、時代の移り変わりの中で描いているようでありながら、その連帯の分断と、未来が、十数年にもわたって返し続けなければならない奨学金、子どもに向けた性犯罪、金持と貧乏人との分断、ジェンダー問題などを巧みに取り込んで、主人公の変化、今だからこそ感じる社会問題へと繋がっていくみごとな手法で描かれています。
伏線も素晴らしく、タイトルの「オール・ノット」はカタカナですが、「All not」だと「全部ダメ・全部だけとは限らない」という意味で、「All knot」だと「真珠のネックレスの珠と珠の間に一つずつ糸で結び目(knot)を作り、繋げていく製法」この二つの意味を女性たちのそれぞれの生きざまとそれぞれのつながりに「オール・ノット」しているのです。
「宝石箱」の価値が女性たちを変化させていくのではなく、その宝石への心の持ちようが女性たちに意味があるお話しは、昨日拝見した岡田惠和さん脚本の「日曜日の夜くらいは」の主役の女性たちが、当たった宝くじではなくそれぞれの生き方を見つめるものと重なり、感慨深くどちらも拝見しました。
シスターフッドは「女性の連帯」を意味しますが、それだけではなく個々の生き方を認め合うことの大切さが含まれているのだと思いました。