第35回フジテレビヤングシナリオ大賞。応募総数1679篇(前回1535篇)。最年少応募者13歳(前回16歳)。最年長応募者74歳(前回70歳)。大賞1篇 佳作3篇を選出。2023年11月にはフジテレビ本社にて受賞会見が開催されました。
第35回の審査委員長を務めた村瀬健さん(プロデューサー)によると、今回、選考方法を大きく変えた点があるとのことでした。毎回、選考方法はそのときの審査委員長の意向によって決定するため、今回のやり方は今回のみかもしれないと仰っていましたが、とは言え、審査員であるプロデューサーやディレクターの方々に「この作品を書いた人と仕事をしてみたい!」と思ってもらえるかどうか、は今後も変わらない点なのでは。そこで、こちらのブログでは村瀬さんのコメントを主に広報の齋藤がリポート致します。
来年応募する方、脚本コンクール受賞をきっかけに脚本家デビューしたい!という方、参考にしてください。まずは、どんな作品が、どういった理由で選ばれたのか、からご紹介。
受賞4作品のあらすじと選考理由
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大賞は阿部凌大さん(写真右から2番目)の『高額当選しちゃいました』(2024年、FOD・地上波放送予定)。佳作は、(右から)片岡陸さんの『イージーライフ』、島崎杜香さんの『クロスロード』、内山哲生さんの『わたしたちの失恋』。
★大賞:阿部凌大さん『高額当選しちゃいました』
<あらすじ>
バイトに明け暮れる日々を送りながら、それぞれ夢を追う、児童養護施設育ちの幼なじみで同い年の彰(23)、俊、司、潤の4人。シェアハウスに住む彼らは毎年年末、宝くじの共同購入をしていた。ふと結果を確認した1月2日の晩、バラで買ったその中の1枚がなんと1等に当選していた。1等の7億を手にしたと狂喜乱舞する4人。だが翌朝、当たりくじは姿を消していた――
<選考理由>
まず、企画というか、発想が非常に面白いと思った。また、二転三転しながら、いい意味でこちらの予想をどんどん裏切っていく展開も楽しめた。雰囲気に逃げることなく、ギミックをしっかり作り込んで面白いストーリーを作ろうとする気概というか姿勢を高く買い、大賞に選出した。
★佳作:片岡陸さんの『イージーライフ』
<あらすじ>
コールセンターに勤める藤井拓也(25)は目をつぶり、深呼吸をしながら、今日も業務をこなしていく。仕事でストレスが溜まれば、人のいない公園へ行き、ギター片手にひとり、気の済むまで歌を歌う。そんな生活に拓也は何の不満も感じていないが、拓也の恋人である加藤裕美(22)は、若くして人生を悟りきったような拓也の姿に歯がゆさを感じていた――
<選考理由>
クレーム電話を通しての出会い、そして、それを「歌声」に繋げていく設定が面白かった。また、登場人物にもこの設定がうまく生かされており、それを見つめる目線も含め、センスの良さを感じた。独学で、しかもこれが人生初めて書いた脚本というのは驚きである。大きな可能性を秘めていると感じ、佳作に選出した。
★佳作:島崎杜香さんの『クロスロード』
<あらすじ>
いつの日からか、生きていなくてもいいという無力感を抱きながら生きてきた会社員の小林寿葉(25)は、ある朝、駅で蛍光イエローのダウンジャケットを来た青年に切符を渡されたことをきっかけに、縁もゆかりもない田舎の町に行くことに。そこで、農家を営んで暮らしている豊田祥子・修平夫婦と出会う――
<選考理由>
何種類かの「人生に躓いた人たち」を、計算された設定のもとで描く意欲作。彼らが交わったり、交わらなかったりする様を、絶妙にずらした時間軸で描くところに、昨今の世界的な風潮を取り入れるセンスを感じると同時に、それを形にする力も感じた。人の心の深さをもう少し描き出せていたらより良かったと思いつつ、将来性にも期待し、佳作に選出した。
★佳作:内山哲生さんの『わたしたちの失恋』
<あらすじ>
大学3年生、同い年の恋人同士の達規(21)と百合奈(21)。お互いの笑いのツボが同じで、ちょっとひねくれたところもある僕たちは上手くいってる、そう思ってた。ある日、百合奈に別れ話を持ちかけられた達規は、なんとか『距離を置く』ことで、落ち着かせることが出来た。そこから達規は、百合奈を引き留めるため、自分を変えようと努力しはじめる――。
<選考理由>
恋人同士の別れを、ただただ丁寧に繊細に描いた作品。リアリティのある台詞や感情表現が、多くの女性審査員の共感を得た。設定や展開に『花束みたいな恋をした』からの影響を感じるところもあるが、人の心を丁寧に描こうとする姿勢と好感の持てる視点に期待して、佳作に選出した。
第35回審査委員長 村瀬健さん(プロデューサー)
「今回は、いいと思った方と会って、お話をして、選ぶ、というスタイルに」
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〇村瀬さん:初めて審査委員長をやらせていただきました。すごく楽しかったです。
正直言うと、いま『いちばんすきな花』(脚本:生方美久さん=第33回フジテレビヤングシナリオ大賞 大賞受賞者)というドラマをやっておりまして、ものすごく忙しいタイミングだったんです。
でも第33回のとき、僕は審査員として参加しておりまして、生方さんの作品を読んだ瞬間にとんでもない才能だなと思って、大賞に決まった日にすぐ連絡をとって、一緒にドラマを作りましょうと言ったのが『silent』に繋がったんですね。
彼女は坂元裕二さんがずっと好きで、坂元さんはフジテレビヤングシナリオ大賞の第1回目の受賞者で、僕自身も坂元さんが師匠であり兄貴であり親友であり みたいな、ずっと慕ってきた方で。そういう意味でいうと、やっぱりフジテレビヤングシナリオ大賞というのは、自分の人生に大きな影響を与えていると思うので、今回、審査委員長をすごく嬉しくやらせてもらいました。
1つ伝えたいことがありまして。フジテレビヤングシナリオ大賞はこれまで35回、毎回いろいろな方法で選考してきたんですけど、今回、僕が審査委員長をやることになって、選考方法を大きく変えた点があります。それは、審査員に「最終審査に残った中でいいと思った人、これから一緒にドラマを作りたい!と思った人の名前を全部挙げてください」と。何人でもいいし、1人もいなければゼロでもいい。で、名前があがった人みんなと会いましょう、と。遠方の方とはオンラインで。会ってみて、お話をして、選ぶ、というスタイルで審査をしました。僕は審査委員長なので、審査員が名前をあげた人全員とお会いました。
ですから今回の4人は、お人柄も、どんな作品を目指しているのかも、分かったうえで選びました。勿論、「作品ありき」ではありますけどね。
なんでこういうカタチにしたのかというと、ドラマって脚本家とプロデューサー・ディレクターが本打ちをして、共同作業で作り上げていくものなので、「この人とならそういうことを一緒にやっていける!」という感覚になれる人を選びたいんです、賞をあげて終わり、ではなくてね。
それに、審査員のプロデューサーやディレクターが「この人とドラマを作りたい!」と思う人がいれば、すぐ作品作りに直結するじゃないですか。僕と生方美久さんとの出会いが『silent』に繋がったように、ほかの審査員もそういう風に出来たらいいんじゃないかなという気持ちで、今回はこのシステムに変えました。いうなればオーディションスタイルですね、僕は「スター誕生スタイル」とよんでいるんですけど。
でもあくまでも、この方法は今回だけかもしれないです。今年の審査委員長が僕だったのでこうしましたが、来年以降はまたその審査委員長が決めるので、どうやるかは分からないです。
で、審査員のみんなと一緒に、ほんとにみんなで考えに考えて、心をこめて選ばせていただいたのがこちらの4人になります。皆さん20代。まだそこまで経験があるというわけではないので、「即戦力」というよりも、「これからの可能性」を非常に感じる方々。公式サイトで4人全員の受賞作品が公開されますので読んでおいて覚えておくと、いつか「この脚本家、デビューしたときからいいと思っていたんだよね」と自慢できる日がくると思います。
今回の審査はすごく接戦だったんです。僕の中では「4人の脚本家を見つけた!」みたいな感覚です。僕としては今後、この4人全員とご一緒したいと思っています。「この人とはこういうドラマをやってみたい!」という4種類全然違う企画が僕の中では既にあります。楽しみにしていただければ。
「振り返り」や「分析」の“材料”としてご活用ください
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『クロスロード』で佳作を受賞された島崎杜香さんは、会見でこうお話しされていました。
「去年の第34回では、最終まで選んでいただいたんですけど受賞はできなくて。受賞作品を読んだとき、私って本当に伝えたいメッセージがまったくないなと思いました。最後にどんでん返し、みたいな構成だけ考えて、あんまり自分が伝えたいことがないまま書いていたなと思ったので、今年はちょっとそれを意識して書きました。でも、やっぱりセリフというか、登場人物ひとりひとりの描き方で足りないところがかなりあるなという風に感じています」
今回応募された皆さんも、島崎さんのようにご自身で“振り返り”や分析をしてみてください。そしてその際に、今回ご紹介した模様も参考にしていただけたら幸いです。
フジテレビヤングシナリオ大賞に関しては、こちらの記事も併せてご覧ください。
■第34回フジテレビヤングシナリオ大賞/記者・編集者時代を経て脚本を書く
■第33回フジテレビヤングシナリオ大賞/趣味から始めるシナリオ
■第30回フジテレビヤングシナリオ大賞/どんな脚本が賞をとるのか
■第29回フジテレビヤングシナリオ大賞/審査のポイントと受賞者のシナリオ勉強法
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