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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』『八犬伝』
脚本を楽しむ 見どころ 感想

映画から学べること

脚本家でもあり小説家でもあるシナリオ・センターの柏田道夫講師が、公開されている最新映画や、DVDで観られる名作や話題作について、いわゆる感想レビューではなく、作劇法のポイントに焦点を当てて語ります。脚本家・演出家などクリエーター志望者だけでなく、「映画が好きで、シナリオにも興味がある」というかたも、大いに参考にしてください。映画から学べることがこんなにあるんだと実感していただけると思います。そして、普通にただ観るよりも、勉強になってかつ何倍も面白く観れますよ。

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その91-
『シビル・ウォー アメリカ最後の日』戦争映画を誰の物語として描くか?

世界が注目しているアメリカ合衆国の大統領選を控えた11月に、満を持して日本公開された『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を。

現実は民主党ハリスVS共和党トランプで争っていますが、もしかしたら、この映画のように、アメリカが真っ二つの内戦状態となるかもしれません。

このコラムでは、「もしかしたら」というifから発想する映画を、いくつも取り上げてきましたが、ある意味超リアルな近未来型if映画ともいえます。

脚本・監督はアレックス・ガーランド。小説家から脚本家に転身、かのゾンビものの快作『28日後…』で脚本デビュー、カズオ・イシグロ原作の傑作『わたしを離さないで』も。脚本・監督作は『エクス・マキナ』や『MEN 同じ顔の男たち』など(このSFスリラーとホラー映画の2作も超オススメ!)。

この内戦状態の国内で、ホワイトハウスに立て籠もる大統領を取材すべく、ジャーナリストチームが、命を賭けて戦場を進むロードムービーです。

伝説的な戦場カメラマンのリーをキルステン・ダンスト、彼女を尊敬するジャーナリスト志望者のジェシーをケイリー・スピーニー(ついこの前、大好きなシリーズ『エイリアン ロムルス』の主演で注目したばかり)。

私はこの映画を、ドルビーアトモス・システムの映画館で観たのですが、これほど音響効果の凄まじい映画もなかった気がします。銃撃戦、ヘリ、戦場のリアルな音に、椅子に座っていながら身のすくむ思いがしました。

その前後の沈黙、無音と、流れる歌の数々の対比も凄い。ぜひ音響の整った大スクリーンでの鑑賞をお勧めします。あと、それなりに血なまぐさいシーンもありますので、苦手な方は覚悟してご覧ください。

さて、この怒濤の戦争映画の「ここを観ろ!」は、「記者物」の作り、さらに人物の成長物語としての一貫したテーマ性についてです。

「職業物」のポイントは以前も述べました。たとえば、人気の衰えない「刑事物」なら、第36回の『21ブリッジ』()で。逆に近年描きにくくなっている「教師物」は、第87回の『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』()で。

この『ホールドオーバーズ』の時に、もうひとつ描きにくくなっている職業として「記者」、すなわちマスコミ業界があるとも述べました。

かつては人気シリーズだった『事件記者』だったり、近年でもテレビ報道のキャスターを主人公とした『エルピス ?希望、あるいは災い?』といったテレビドラマもあったのですが、マスコミ業界がパッとしないせいか、記者物の影が薄い印象です。

けれども、事件にぶつかっていく、人々に真実を伝える役目を担う記者の存在は重要ですし、ドラマチックな職業といえるはず。

さてこの『シビル・ウォー』ですが、スペクタクルな戦争映画とするならば、まさに戦う兵士を主人公に据えて描くのがオーソドックスでしょう。

けれども本作は、ベテランと新人の二人の女性報道カメラマンの物語としているところに注目してほしい。

リーは何度も紛争地帯に飛び込んで、生死まじわる現場のスクープ写真をものにしてきつつ、限界やトラウマを抱えている。
対するジェシーは、父の遺品のニコンのフィルムカメラを手に、まったく未経験のまま最前線に飛び込んで来たジャーナリスト志望者。

この二人を助け、共に旅を続ける二人の男性ジャーナリストの配置もいい。
この世代交代と、新人ジェシーがフォトジャーナリストとして成長する姿というのが、メインテーマに据えられています。

彼らはなぜここまでして、報道の仕事を貫こうとするのか? その伝える、スクープをとるという「動機」と「目的」の重要さ。今も戦争や紛争が世界で起きていて、それを伝える記者たちがいます。

そして彼らの武器は、まさにカメラによる写真、映像、そしてペンです。

この映画でも、ジャーナリストたちはどんな窮地に立たされても、けっして銃器を手にしません。そこにも創り手たちの思いがこめられています。

もうひとつ、この物語の前提、【起】の描き方についても。

アメリカ合衆国が分裂するに至る過程、経緯を冒頭のわずかなシーンで示すだけで、詳しい説明はまったくなされません。いきなり最前線へと、彼らが出発するところから始まる。そうした畳み掛けも見どころです。

『21ブリッジ』についてはこちらを

『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』についてはこちらを

▼YouTube
Happinet phantom

-柏田道夫の「映画のここを見ろ!」その92-
『八犬伝』“実”を基に“虚”を築く創作術こそがメインテーマ

実在した人物たちを描いた時代劇に、ごりごりのファンタジー活劇をミックスさせた『八犬伝』をご紹介します。

江戸時代に大ベストセラーとなった壮大なファンタジー物語『南総里見八犬伝』の原作者は滝沢(曲亭)馬琴。何度も映像化されていますが、1983年の深作欣二監督・鎌田敏夫脚本の『里見八犬伝』は、デビューしたばかりで大人気を博していた薬師丸ひろ子と、今や国際スターとなった真田広之の恋物語をからませて、大胆な解釈のエンタメ作品になっていました。

さて、今回の『八犬伝』の原作は山田風太郎です。角川文庫の上下巻で、新たに潤色された「里見八犬伝」の物語と、この原作を書き上げていく馬琴の半生を、同時代に生きた天才画家・葛飾北斎とのやりとりを中心に、交互に描いていくという構成の小説になっています。

映画をご覧になってからでもいいですし、あるいは先に小説を読んでから映画を、でもいいので、ぜひぜひこの機会に原作を読んでみてほしい。

山田風太郎先生が亡くなったのは2001年なので、もうかなり前ですが、私も愛読していました。奇想天外な忍法帖シリーズや、珍しい明治時代物も親しみましたが、一番好きな小説こそがこの『八犬伝』。

ちょうど自身が作家志望で、シナリオや小説を書いてもモノになる気配はまるで見えずに、悶々としていた頃だったと記憶しています。

「里見八犬伝」の筋書きはそれなりに知っていたのですが、リアリティに欠ける(だって、姫と犬の間にできた子たちが剣士として集結して、っていくらなんでもなあ、と思っていたりした)江戸時代の大ボラ話くらいの認識でした。それが山田版で改めて読んで「なんておもしろいのだ」と。

しかも、その壮大ホラ話を書いていく、執念の作家・曲亭馬琴の創作の日々の物語としての凄まじさ。この濃厚ダブル小説としての構成の妙。作家がフィクションを書く、取り組み方や覚悟に比べると、結果が見えないと腐っていたりする自分の小ささを思い知らされました。

ともあれ、この山田原作の構成をそのまま活かしての映画化ですが、脚本・監督は『ピンポン』や『鋼の錬金術師』の曽利文彦さん。NHKでやっていた連続人形劇『新八犬伝』のファンで、山田先生の原作に惚れ込んで実現したとのこと。

映画の中でも語られる、馬琴(役所広司)と北斎(内野聖陽)の友情、芸術家としての生き方や創作論に関する“実”と、物語としての「八犬伝」のストーリーが展開する“虚”のスペクタクルの混じり合いの妙。

そもそも「八犬伝」は壮大な物語で、詳細に描いていたら、何時間あっても足りないでしょう。それを1時間あまりで描いていて、若干ダイジェストっぽさもあるのですが、これはこれで見応えあるファンタジーになっています。

ただ、やはり「ここを見ろ!」なのは、芸術家2人のやりとりであったり、馬琴と(悪妻とされている)女房・お百(寺島しのぶ)、息子・宗伯(磯村勇斗)、その妻で、晩年に盲目となった馬琴を助けて口述筆記者となるお路(黒木華)の“実”パーツです。

宣伝で申し訳ありませんが、拙著『猫でござる』(双葉文庫)第3巻の最後に『おいらは風来猫の仁助だぜい』という短編を書き下ろしました。この物語は滝沢家で飼われていた猫の仁助の視点で、馬琴の生涯と、女房のお百、息子の嫁で馬琴を助けて「八犬伝」を完成させたお路を描いています。馬琴やお路は詳細な日記を残していて、代々猫を飼っていたことが記されていて、それを元に“虚”の猫の物語としました。これも読んで頂けると嬉しい。

さて、この映画でもメインテーマとされる“虚”と“実”のせめぎ合いについて。芸(フィクション)の神髄は、虚と実の皮膜(合わさったかすかな部分)にあるという「虚実皮膜論」を唱えたのは、浄瑠璃作家の近松門左衛門です。

山田先生がこの小説で描いた“実”のパーツである馬琴と北斎のやりとりや、芸術論談義ももちろん、こうであったかもしれない、というフィクション、つまり残された資料などを基にした創作です。

ともあれ近松先生が唱えた「虚実皮膜論」は、あらゆる創作物に共通する真実でもあります。虚と実の融合というと、いわゆるバックステージものの作品が浮かびます。第42回の『サマーフィルムにのって』()、第89回の『フォールガイ』()、さらには前々回の『侍タイムスリッパー』()も、タイムスリップものであると同時に、時代劇映画を制作する現場を舞台にしているバックステージものともいえます。そうした創作の神髄をも本作は描いているわけです。

『サマーフィルムにのって』についてはこちらを

『フォールガイ』『侍タイムスリッパー』についてはこちらを

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キノフィルムズ
本予告

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