現在、追加メンバーを募集中の「WDR(Writers’ Development Room)プロジェクト」。
WDRプロジェクトとは、NHKが2022年に立ち上げた脚本開発に特化したチームのこと。
発起人は、NHK局内の海外派遣プログラムに参加し、米・UCLAでシリーズドラマの脚本執筆コースで学ばれたNHK ディレクターの保坂慶太さん。
現在募集中のものは「第2期」。
前回の「第1期」は2022年に募集され、応募者総数2025人の中から10人のメンバーが決定。
その後、保坂さんが学ばれたメソッドを海外ドラマの分析などを通して学びながら、それぞれのメンバーがオリジナルドラマの第1話を執筆する、7ヶ月に及ぶプロジェクトがスタート。WDR第1期で掲げていたのは「一気見したくなる連続ドラマを作ること」。
期間中、メンバーは原則、それぞれ2本のオリジナルドラマの第1話を執筆。実際に執筆するのはそれぞれ個々の脚本家ですが、週に1度程度の「ブレスト会議」で、メンバーそれぞれが、互いの脚本に対するアイデア交換を実施。執筆に行き詰まった時には、他のメンバーからアイデアや、アドバイスをもらうことができ、ブレスト会議を行うことで、より強度の高い物語を開発することを目指した、とのこと。
メンバーから提出された全企画19本の中から選ばれたのが、昨年10月に放送され、2024年11月度のギャラクシー賞月間賞に輝いたNHK土曜ドラマ『3000万』(全8回)。
本作の企画を生みだし、第1話と第8話の脚本を手掛けたシナリオ・センター出身の弥重早希子さんに、どのようにして『3000万』は生まれたのか、お話を伺いました。なお、本作は弥重さんのドラマデビュー作。
特にWDRプロジェクトへの応募を考えている方は是非参考にしてください。
『3000万』ができるまで
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=『3000万』あらすじ==
コールセンターの派遣社員として働く佐々木祐子。高圧的な上司にも耐え、先が見えないながらも必死に生きている。一方、夫・義光は、「なんとかなる」と楽観的。そんな義光に祐子は苛立ちを隠せない。祐子の生きる喜びは息子・純一の存在。日々の生活はギリギリだが、ピアノに励む純一をなんとかサポートしたいと思っている。そんなある日、ピアノの発表会の帰路で祐子、義光、純一の3人が乗る車に、対向車線からバイクが突っ込んでくる。バイクの運転手であるソラは、「大丈夫ですか」と駆け寄る祐子を突き飛ばし、佐々木家の車で逃走。しかし、後部座席に純一が乗っていることに気づいたソラは、ハンドルを切りそこない、路肩に突っ込んでしまう。純一は、ソラが気絶している間に車から脱出し、助手席に置いてあったバッグを取り出す。中を開けると、札束がぎっしり入っていた――
――『3000万』はどのように決まったのですか?
〇弥重さん:私がWDRプロジェクトの期間中、2本目に提出した企画が『3000万』のパイロット版でした。WDRが一度解散となり、全員の脚本が局内の会議にかけられ、1ヶ月ほど経ってから、この企画に決まったと連絡をいただきました。
選んでいただけて率直にとても嬉しかったです。実は『3000万』のパイロット版は“難産”で、連続ドラマとしての明確な構想も固まっておらず、どう書いていくか未知数で、正直不安もありましたが、WDRで切磋琢磨してきた仲間である、名嘉友美さん、山口智之さん、松井周さんと4人で脚本を担当することになり、実力もあり、すごく信頼関係もある脚本家の方たちだったので、「このチームで面白いドラマを作ろう」と強く思いました。
――そもそもこのアイデアはどこから?
〇弥重さん:いつもオリジナルを書くときは、身の回りの出来事や見聞きした話をキッカケに構想していくことが多いのですが、今回の企画を考えているときは、そのやり方では、ピンとくるアイデアが全然出てこなくて。
そこで発想を変えて、とにかくハラハラドキドキする物語、クライムサスペンスを書いてみよう、と。しかも、“普通の人”が何かをやらかしたり巻き込まれていく物語。普通の人が何かの拍子に「間違った選択」をしてしまう。もちろん現実社会においては許されないことですが、そんな人間の弱さや痛み、おかしみを描きたいというのは、私が脚本を書き始めた頃から意識していたことだったので、そういった私なりの視点とクライムサスペンスというジャンルをうまく融合させられたらなと、思いつく限りのワードを並べて連想ゲーム的に作っていきました。
そんな中で浮かんできたのが、『3000万』冒頭の事故シーンのイメージでした。そこからどんどんイメージを膨らませて、そこに、WDRのブレスト会議で出た意見も反映させながら書き上げていったのがパイロット版『3000万』の1話でした。
――その後、どのように進んでいったのですか?
〇弥重さん:全8話で1話50分弱というのがこのタイミングで決まったので、全8話の物語としてどういう構成にしていくのか、キャラクター設定やログライにも立ち返り、チーム全員で話し合いながら作っていきました。
もちろん、パイロット版がベースにはなっていますが、それをもう一度、全員で「産み直す」というような感覚でしたね。脚本家の3人はもちろん、本作の制作統括・演出の保坂さんや、途中からは演出の小林直毅さん、プロデューサーの上田明子さんにも加わっていただき、チーム全員であらゆることを話し合いながら作っていきました。
オリジナル作品なので、一筋縄ではいかないことも多かったですが、とにかく信頼関係ができているチームだったので、私自身、行き詰まって苦しんだ時もチームのメンバーにたくさん助けてもらいました。
全話の大きな流れを決めつつ、第1話のパイロット版のリライトに取り組み、結果、かなり変わりました。より面白いものになったと思います。
全員で話し合って書く、また話し合っては書くということを、とにかく延々、繰り返しました。地道に思われるかもしれないですが、とても豊かな創作時間で、その積み重ねこそが、物語に厚みを与えてくれたと思います。
――第1話のエンドクレジット。「脚本:弥重早希子」と大きく出ていてすごくカッコよかったです!
〇弥重さん:ドラマを観てくれた周りの人たちから「面白かったよ!」という感想とともに、「名前、すごかったね」って。ドンと大きく名前を出していただけて、素直にとても嬉しかったです。
大切にしていること&改めて実感したこと「粘る」
――本作は弥重さんにとって“デビュー戦”。今回の経験で特にどんなことを感じられましたか?
〇弥重さん:「粘る」ことが大切だな、と改めて思いました。自分の直感を大事にして粘る、というか。
例えば、クライマックスを考えているとき、自分的にはものすごく良いアイデアが浮かんで、直感で「これはいける!」と思うことがありますよね。
その直感はめちゃくちゃ大事だと私は思っているのですが、一方で勢いだけで書いてしまうと、都合が良すぎたり、あるいは、直感で「いける!」と思ったイメージと、実は真逆の方向に話がまとまっている、というようなこともあると思うんです。一見、まとまっているんだけど、アイデアを思いついた時ほどの感動がない、というか。
このことは、今回のチームライティングで、いろんな視点や意見を取り入れながら書いたからこそ、気づけたことだと思います。
「いける!」の直感で、まずは勢いで書いてしまう。それがないと先に進まないので、勢いで書くのもめちゃくちゃ大事だと思います。その後、もう一回冷静に見直して、粘る。
今回、初めてドラマ作りの現場を経験したことで、ドラマ作りは、俳優の方々、スタッフの方々をはじめ、本当にたくさんの方々が、それぞれの立場で、脚本を元に、「どうすればより面白い物語になるのか」を考えながら作り上げていく仕事なんだということを、身をもって実感できたのは大きかったと思います。
だからこそ、粘る。
簡単なことではありませんが、これからも、そう心掛けたいと思っています。
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なお、『シナリオ教室』(2025年1月号)には弥重さんのインタビューを掲載。
併せてご覧ください。
https://www.scenario.co.jp/online/34802/
※こちらの記事も併せて。
▼妄想から物語を作る/第45回城戸賞 佳作受賞 弥重早希子さん
※シナリオ・センター出身の脚本家・監督・小説家の方々にいただいたコメントも是非。
▼脚本や小説を書くとは/シナリオの技術を活かして
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