シナリオ・センターの代表・小林幸恵が、出身ライターの活躍や業界動向から感じたことなど、2006年からほぼ毎日更新している日記です。
シナリオ・センター代表の小林です。今日の東京は、秋晴れのよい天気です。
「社内での化粧はみっともない」主旨の東急電鉄のマナー広告に、巷で賛否両論の声が上がっているそうです。面白いですね。色々な意見があるのは当たり前のことですから、どんどん意見は出すべきだし、ちゃんとお互いを認めて交換しあいたいですね。
ただ最近思うのですが、色々な異なる意見を取り上げない、他人の話を聞かない傾向が強くなっているようで、不寛容な時代を生み出しているのは、こんなところからではと危惧してしまいます。 「人は誰一人同じではない、全て違う」ということを、すべての人がきちんと肝に落とし込んで欲しいと願っています。
それぞれの環境、想いが新しい生き方へと導いていくお話があります。
「スマイリング 岩熊自転車関口俊太」(中央公論社刊)
「超高速!参勤交代」でおなじみの土橋章宏さんの新刊が出ました。
実は、この小説は、2009年 第13回函館港イルミナシオン映画祭でシナリオグランプリを受賞されたシナリオを小説にされたものです。
シナリオの時も、清冽な印象を与えたすてきな子供と大人の成長物語でしたが、小説「スマイリング」、ページをめくるごとに映像が鮮烈に見えてくる、とても面白い小説として生まれ変わりました。
父は失踪、母一人子一人の俊太。母はキャバクラで働きながら、金持ちの男を探しているが、現実は貧しいまま。 同級生たちは、すごいロードバイクに乗って、函館で行われるロードバイクレースジュニア部門にでようとしているのだが、ママチャリしかない俊太は、一人ママチャリでトレーニングをするしかない。
同級生たちから憐れみとからかいをうけながら、一人寂しく、自分の生活を呪う俊太。
そんな俊太が岩熊自転車屋のおじさんと出会うことで、新たな挑戦に賭けるようになるというおはなしですが、なによりも登場人物の俊太と岩熊のキャラクターがすばらしいので、ドラマの盛り上がりがハンパないです。
なんで盛り上がるかというと、土橋さんのキャラづくりは、良い人と悪い人という単純な人たちではないこと。誰もが良い人であり悪い人であり、好き嫌いもあり、優しさも冷たさもあり人間らしく生きている人たちなのです。
俊太の同級生たちも、単なるいじめっ子とかいう一方的なキャラではなく、長所も短所も持ったそれぞれの環境が違うだけの同級生、岩熊のおじさんも気のいいおじさんだけではなく、俊太もただの頑張り屋さんではなく、だからこそ最後のシーンが生きてくるのです。
助け合うことの大切さ、最後まで諦めないことの意味を教えてくれる成長物語と帯に書いてありましたが、土橋さんこそが最後まで諦めない人。もしかしたら俊太は土橋さんそのものかもしれないですね。(笑)
シナリオの「スマイリング」は受賞時点では、残念ながら映画化になりませんでしたが、7年目にして小説化にされたことで、映画化へと突き進んでいくような気がします。
「超高速!参勤交代」も城戸賞受賞した時点では映画化にならず、小説になったところで火が付き、1作目のみならず2作目の「リターンズ」も大ヒット。土橋さんは、日本アカデミー賞最優秀脚本賞にまで輝きましたからね。
この「スマイリング」も映画になって欲しい!! 皆さん、応援してください!
函館の澄み切った空に下で繰り広げられるロードレースは、ゼッタイに絵になります。自転車から受ける風までを感じられます。