「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)から紹介。
今回は、現在『ひよっこ』の脚本を執筆中の出身脚本家・岡田惠和さんから学ぶ電話のセリフの書き方です。電話のシーンの書き方って?、電話のシーン、面白く書くには?という疑問も解消です。
電話のシーン、どうしてますか?
こんにちは。エンゼル浅田です。
あなたのシナリオをパラダイスに導きます。電話のセリフのやりとり、どう描いていますか?基本的なパターンとしては3つあります。
パターン1は一番基本的な書き方で、電話で話している人物が変わるたびに交互に柱を書きます。
○田所印刷・廊下
橋本が携帯で電話している。
橋本「ごめん。今日ちょっと遅くなる」
○橋本家・リビング
圭子が電話している。
圭子「じゃあ、夕飯いらないのね?」
○田所印刷・廊下
橋本が携帯で電話している。
橋本「たぶん食べて帰るよ」
みたいな感じです。これだとセリフの度に、いちいち柱を書くので面倒くさいのですが、だからこそダラダラとやりとりを書くのではなく、本当に描きたいのはどこか、考えることにもなります。
パターン2は、電話の相手のセリフを声にしてしまうのです。
○田所印刷・廊下
橋本が携帯で電話している。
橋本「ごめん。今日ちょっと遅くなる」
圭子の声「じゃあ、夕飯いらないのね?」
橋本「たぶん食べて帰るよ」
これなら柱は一つですみますが、声が聞こえてくると、どんな表情やしぐさで話しているのか見たくなってしまいます。
そこでパターン3は、1と2の合わせ技になります。
○田所印刷・廊下
橋本が歩きながら携帯で電話している。
橋本「ごめん。今日ちょっと遅くなる」
橋本、抱えていた書類を落とす。
圭子の声「じゃあ、夕飯いらないのね?」
橋本「たぶん食べて帰るよ」
あわてて書類を拾い集める橋本。
○橋本家・リビング
圭子が電話している。
圭子「帰るの何時ぐらい?」
橋本の声「11時過ぎかな。先に寝てていいよ」
ソファに座っている恵美に、にっこりピースサインの圭子。
みたいな感じです。どのセリフを言っている時に、どちらを見せれば面白いのか、お互いに相手の声の間に何をしていれば面白くなるのか、などなどアイデアが広がります。
『最後から二番目の恋』の電話のシーン
実は、もう一つ、プラスアルファの書き方があります。
パターン2の声を書かずに、電話のやりとりの片方のセリフだけを書くのです。相手のセリフは、何となく、こんなことを言っているんだろうなあ、と片方のセリフだけで想像させることになり、ほんのちょっと難しいかもしれませんが、是非是非やってみてほしい超オススメ・バージョンです。
この書き方の達人が岡田惠和さん。というわけで今回は『最後から二番目の恋』を取り上げてみます。
『最後から二番目の恋』は、小泉今日子さん演じる45歳の独身女性・吉野千明が、鎌倉の古民家に引っ越してきたことから中井貴一さん演じる50歳の独身男性・長倉和平や和平の家族と出会います。千明は、坂口憲二さん演じる長倉真平(和平の弟)と恋人関係になるのですが……という大人のラブストーリー。
とにかく面白い! 毎回毎回、グイグイ引き込まれて1時間がアッという間でした。そして、これほど翌週が待ち遠しい連ドラは久々だったように思います。
何よりも登場人物のキャラクターが一人一人みんな個性的で、その生き生きしたセリフが抜群でした。やっぱり「面白い」と思わせるのはストーリーではなくキャラクターとシーンだなと再認識させてくれます。
まず第1話で片方だけの電話の描き方を使って、へえ! こんな手もあるのか!と思わせるシーンの組み合わせがありました。
和平が勤める鎌倉市役所に苦情の電話が入ります。「もしもし、お電話替わりました。長倉でございます。あ、お元気ですか? 一段と寒くなってまいりましたが、お変わりなく。よかった。アハハ、よくおっしゃいます、そういうこと。はい、今日……今日どういう?」
と、ここで柱が変わります。普通なら電話の相手のシーンになりますが、そうではありません。古民家を観て回る千明が勝手に人の家の写真を撮っているシーンが入るのです。
で、また和平のシーンに戻って「アララララ、はい、申し訳ございません。はい、ご指摘ありがとうございます。はい、もう、早速、はい、はい、アハハハハ」
ここで、また、塀の隙間から人の家を覗き込もうとしている千明のシーンになり、和平に戻って「はい、失礼いたします。失礼しま~す」と電話を切ります。
電話の相手を出さずにイメージさせる
同じく第1話の後半、引越しも落ち着いて、夜一人で淋しくなった千明が電話しまくる長いシーンがあります。
「もしもし、裏切り者1号? え?ああ、ああ、だいたい終わった。疲れたあ。いやさあ、家具がさ、もう全部合わなくなっちゃったからさあ、全部売っぱらっちゃって、ほんで昭和アンティーク風にしてみましたよ。うん、そりゃあ、いい感じですよ。え? ダメだね。当分入れてやんないからね。なんてウソウソウソ。うん、おいでよ。ね? うん、広い広い、うん大丈夫、大丈夫。うん、うん、分かった、はい、じゃあね、おやすみ」
「もしもし、裏切り者2号? うん? 元気元気。海? そりゃ近いでしょ。ウソじゃないって。ちょっと待ってよ、ちょっと待ってよ」と2階に上がり窓を開けて「ちょっと待ってね。いくよ」と電話を外に突き出すと「聴こえる? 波の音だよ。風の音じゃねえよ。聴こえないの? ああ、じゃあ、裏切り者には聴こえないのかもね。ヘヘヘ。で、そっちはどうなの? 彼と。ああ、もういいや、聞きたくないわ。あ、やっぱ、聞きたいわ」
ここで隣家の長倉家のシーンになります。電話する千明の声が聞こえています。和平が「でっかい声だな、おい。近所迷惑だよ」などと言いながら外のテラスから家の中に入っていきます。
「真平君でしょ? なんかねえ、不思議な子なんだよねえ。ワイルドなのに癒し系。ジュード・ロウ?、じゃないんだな。どっちかっていうとブラピかな?あれ?違うかな?ああ、ああ、そんな感じ、そんな感じ。ちょっと救われてるんだよねえ、近くにいると思うと、ほんとに、そう、でもね、そのお兄さんていうのがさあ、もう何か嫌な感じなの。いちいち突っかかってきやがんの。もう最悪。うんうん分かった分かった、うんうん、じゃあ、また連絡するから。そっちもね。はい、うん、じゃあね、おやすみ」という千明の声を聞きながら、和平や真平、真平と双子の万里子それぞれのリアクションが描かれます。
第6話では和平の携帯に電話がかかってきます。部下の女性が勝手に携帯を開き「母からです。どうぞ」と和平に渡します。この部下の女性と母親は二人とも和平に好意を抱いていて、いわば母娘で三角関係のようになっています。
「あ、もしもし、長倉でございます。あ、どうも(部下の女性に背を向け)あ、はい、ええ、あの~大丈夫だと思います。はい分かりました。また、ええ、こちらから決めて、ご連絡させていただきます。分かりました。失礼します」という電話の間、部下の女性は、ずっと和平を睨みつけています。これはシナリオで描かれているのではなくスタッフが入れたのだと思いますが、ゴロゴロと雷の音が聞こえたりして。
電話の相手のセリフから想像させるので、相手の表情やしぐさまでイメージして、声だけ出ているパターン2のように相手を見たくなることもありません。
電話のやりとりの描き方を、ちょっと工夫するだけで、シーンの描き方が広がって面白くなるでしょ? 是非お試しください。
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)p130より
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ドラマ『最後から二番目の恋』データ
2012年1月~3月(全11回)木曜10時枠 制作局:フジテレ
演出:宮本理江子
脚本:岡田惠和
プロデューサー:若松央樹
キャスト:小泉今日子・中井貴一・坂口憲二 他
平均視聴率:12・4%
最高視聴率:13・7%(最終話)
第38回放送文化基金賞テレビドラマ部門番組賞受賞
第49回ギャラクシー賞テレビ部門個人賞及び第38回放送文化基金賞番組部門演技賞受賞(演技/小泉今日子)
2012年度芸術選奨新人賞受賞(演出/宮本理江子)
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