「シナリオのテクニック・手法を身につけると小説だって書ける!」というおいしい話を、脚本家・小説家であるシナリオ・センター講師 柏田道夫の『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(「月刊シナリオ教室」)からご紹介。
今回は、「シナリオも小説も書きたい!」というかた必読の内容です。まずは、シナリオと小説の違いを知るところから始めましょう。その違いのひとつが「人称」。「人称って何?」という方はその疑問を解消して、小説づくりに役立ててください。
コンクールに通るには小説の書式を知ること
シナリオは映像のための設計図的な役割がありますので、皆さんは基礎講座で書式や書き方のルール、映像独自の書き方などを学びます。
シーンを示す「〇柱」を立て、ト書とセリフで書かれます。ト書を三字空けて揃えるとか、セリフの二行目は一マス空けといった書式は、設計図として分かりやすく、読みやすくするための決まり事です。
これに対して小説の決まり事は厳密ではなく、どのように書いても構いません。地の文とセリフだけ。文章で場所や人物を描写しなくてはいけません。セリフも、シナリオのような人物指定をしませんので、地の文で誰が話しているのかといったことも分からせます。
そうしたシナリオと小説の表現の違いを、まず知ることが必要です。
ただそうはいっても、小説にも最低限の書き方のルールや、知っておくべき原稿用紙の使い方、ワープロ原稿の書式や印字の方法などはあります。こうした書式的なことを(シナリオも同じですが)しっかりと身につけて書かないと、小説のコンクールなどで一次で落とされます。
小説は「人称」を決めてから、その人物の視点で描く
まずはシナリオの小説の表現の違いを理解しましょう。
例えば、
〇渋谷・スクランブル交差点(夕)
信号が代わり、人々が行き交う。
大きなバッグを背負った日野真美(18)が慣れない様子で渡る。
めざとく見つけた茶髪の佐倉徹(24)、真美に近づくと、
佐倉「ねえ、ねえ、彼女、どこ行くの?」
真美「……(呟く)ナンパだ。わるもんだ」
真美、無視してずんずん歩く。
皆さんもレッスンとして、試しにこれを小説の文章として書いてみて下さい。
当然表現は人によって違うでしょうが、まず小説では人称を決めなくてはいけません。一人称(私、僕など)と、三人称(真美は、佐倉はというように)で書くかの選択です。例外として二人称(あなた、君など)もあります。
主人公の行動や思考を中心に物語を運ぶ、という原則はシナリオも同じですが、シナリオは三人称で書かれます。それもカメラで追うように、神的な視点で人物の動きや表情、アクションを描いていきます。
小説は人称を決めたら、その人物の視点で描いていくのが基本。
例えば、
その日の夕方も渋谷のスクランブル交差点は、人が溢れていた。信号が青に変わると、左右前後からいっせいに人々が対岸に向かって歩き出す。ぶつかることはまずなく、肩をひょいと振るだけで巧みにすれ違っていく。
日野真美はそうはいかない。スマホを眺めながら向かってくる女子高生を避けよとして、隣のおじさんとぶつかって舌打ちされたり、背中の大きなバッグごとどつかれたり。
「ねえ、ねえ、彼女、どこ行くの?」
いかにもちゃらそうな茶髪男が真美に笑いかけてきた。
「ナンパだ、わるもんだ」
真美は口の中で唱えると、茶髪チャラ男を無視してずんずん歩いた。
この場合は主人公真美の三人称です。真美の視点ですから、茶髪男の名前や年齢などはまだ分かりません。それだけでなく、主人公も真美(18)というように書けませんので、何らかの方法で伝えることが必要となります。
出典:柏田道夫 著『シナリオ技術(スキル)で小説を書こう!』(月刊シナリオ教室2014年7月号)より
※要ブックマーク!これまでの“おさらい”はこちらのまとめ記事で。
「柏田道夫 シナリオ技法で小説を書こう スキル一覧」
https://www.scenario.co.jp/online/20685/
※代表・小林が綴ったシナリオ・センター出身の小説家についての記事もご覧ください。
「BUTTER~柚木麻子の視点のすごさ」
https://www.scenario.co.jp/online/19091/