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しゃれおつなお店や人々が行きかう街、表参道。そこで働くシナリオ・センタースタッフの見たもの触れたものをご紹介します。

映画『 フランシス・ハ 』にみる若者がオトナになる瞬間

『月刊シナリオ教室』連載「お宝映画を見のがすな」(出身ライター 髙野史枝さん)よりご紹介

若さはバカさだけど…

「もしも可能なら、何歳の頃に戻って人生やり直したい?」というのは「無人島に1冊だけ本を持って行くなら何にする?」(幸田文「流れる」)「人生最後の晩餐には何を食べる?」(シャンパンとフォアグラ)と同じような定番クエスチョン。これに対して、私は「だいたい30歳ぐらい」という結論を出していた。

なんで30歳かというと、青春が完全に終わった所から人生の再スタートが出来たらいいな、と思うから。
そりゃ19~20歳の頃の「水をもはじくピチピチ桃肌」や「食べても食べても太らない新陳代謝の良い体」は、咽喉から手が出るほど欲しいよ。

でも、「思い出すと布団にもぐり込んでしまいたい出来事」の大半はこの青春期に集中してる。
「飲み屋で酔っぱらってトイレに行き、換気扇に髪の毛を巻き込まれて絶叫、男友達が飛んで来てくれたが、私のパンツは上がってなかった」とか、「バーで隣に座ったおじさんの光頭をハンカチで磨いた」とかの酔っ払い系失敗は誰にでもあるとして(あるよね?ねっ)、論争したら相手に歯が立たないことに気づき、「今日はこれくらいにしといたるわ」(by池乃めだか)と打ち切ろうとしたが許してもらえず、コテンパンにやられて涙目とか、「デメリット」を言い間違えて「アンメリット」(肩こりか!)と言って嘲笑されたなどの無知系も多数。
ああ、布団ほしい。

「20歳、それが人生で最も美しいときだなんて、誰にも言わせない」というのはポール・ニザンの有名な言葉だが(ここしか知らないが)、これを言い換えたら「若さはバカさ」。青春時代はもうたくさんだと思ってた。
しかし「フランシス・ハ」(2012/アメリカ/ノア・バームバック監督)のヒロイン、27歳のフランシス(グレタ・ガーウィック)を見てたら、ちょっと考えが変わった。

映画『フランシス・ハ』予告編 公式サイトより

「好き」があふれてる

ニューヨーク。バレエカンパニーの研修生フランシスは、大学時代からの親友、ソフィーとルームシェアしているが、彼女はもっといい地区に引っ越すと言って去っていく。フランシスは男性ふたりが住んでいる部屋の間借りをすることに。

所属しているバレエ団の公演メンバーに選ばれなかった傷心のフランシスは、実家・サクラメントに戻りひとときの幸せな時間を過ごす。しかしニューヨークへ戻ればギャラが入らないので部屋代も払えず、結局また友人夫婦の家に居候。衝動的に弾丸パリ旅行をするが、パリに居るはずの友人とも会えず負債だけが残った。親友ソフィーは恋人パッチの転勤について日本へ行ってしまった。

仕事のないフランシスは母校の大学寮の管理人のバイトを始める。そこで親戚の葬儀で帰ってきていたソフィーと再会、ソフィーは婚約していて、フランシスはショックを受ける。ソフィーと寮で久々に語らい女同士の友情を確信するが、早朝ソフィーはパッチのもとへと帰って行った。
フランシスはやっと現実を受け入れ、以前から提案されていたバレエ団の事務の仕事につき、モダンダンスの振り付けを始め、居場所も決めた。新しいスタートだ…。

ストーリーだけ見れば「才能がそれほどはなく、夢に裏切られながらも都会にしがみついている若い女性」という結構イタい映画に思える。いかにも低予算なドキュメンタリータッチの映像(白黒)だしね。
「じゃ、いったいどこがいいの?」それはなんといってもヒロイン、グレタ・ガーウィックの魅力に尽きる。

彼女の大柄な体が踊ったり走ったりし始めると、いきなりスクリーンが輝き始めるのだ。白黒画面が全然チープじゃなく、「これでなきゃ」とさえ感じさせる。内からのエネルギーが溢れてくるかのように突然踊ったり走ったりするフランシス。こんなふうに体がはしゃぐのが青春だったんだな~と感動さえしてしまう。
ほんと、映画はヒロインで見るものです。

そしてこのヒロインをここまで魅力的に撮れたのは、監督のノア・バームバックが彼女を大好きだから。私生活でもパートナーらしいけれど、監督が自分の愛する人(女優)を精魂込めて撮ると、こんなに美しい作品になるんだと感嘆。脚本にグレタが加わっているのも、女同士の友情の熱さや男友達ともサッパリした友情を結べる描写などにいい効果が出ている。二人の愛情の頂点で作られた奇跡の作品かもしれない。

オトナになること=主観から客観へ

日本の女性が留学するピークは27歳らしい。
大学を出てしばらくOLやってみると、仕事の変化はないわ差別はあるわ昇進の道は見えないわという現状に突き当たってガックリ、ここで結婚という選択肢がイヤだと「貯めたお金はそこそこある。だったらここで留学して人生を変えよう!」となる。その年齢が27歳というわけだ。

納得。

「自分の人生にはまだ可能性がある。隠れた才能だってあるかもしれない」という希望的観測(=主観)で出かけても、たいていそれほどのキャリアにはならず戻ってくることになる事が多いが、ここでやっと自分の現実を受け入れ(=客観)、それからの人生を歩んでいくというパターン。夢をあきらめるというと身もフタもないが、「青春が終わり、大人の時代が始まる」と認識するための区切りの留学と考えれば、それも悪くない。

「フランシス・ハ」も一見明るい青春映画なんだけれど、実際は「夢見る青春は終わり、若者が現実を受け入れる瞬間を描いた」という苦みのあるテーマの映画と見ることもできる。フランシスは自分の才能の限界を知り(やりたいこと・好きなことが自分に向いているとは限らないんだよね…)カンパニーの事務職になる。

しかしダンサーとしてやって来たキャリアを活かし、コリオグラファーという別の道を模索し始める。結婚を選んだ親友ソフィーにも、むやみに自分の愛情を押し付けることをやめた(らしい)。そして何より、今までと違い、ちゃんと自分一人で住むための部屋を借りることが出来た。不器用な手つきで郵便受けに自分の名前を入れるラストシーンは最高。おおざっぱな「ハ」に、まだ青春の名残があるってことかな。

もう一度やり直せると想像するなら、「戻りたい年齢」を30歳から3歳繰上げよう。若さはまだありながらも、大人になって行く自分を受け入れ始めた27歳が、いちばん味わい深そうだ。

映画『フランシス・ハ』データ

原題『Frances Ha』
上映時間:86分
製作年:2012年
製作国:アメリカ
監督:ノア・バームバック
脚本:ノア・バームバック、グレタ・ガーウィグ(主演)
配給:エスパース・サロウ
公式サイト:http://www.francesha-movie.net/

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