「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)から紹介。
今回は、映画『花戦さ』が公開中の出身脚本家 森下佳子さんのドラマ『JIN-仁-』から学ぶ、面白いアイデアの発想法。「そもそもアイデアって何だろう…」と悩みすぎて分からなくなってしまった方も大丈夫です。アイデアの種類という基本的なことから分かるようになります。
大きなアイデアに“あべこべ”アレンジ
アイデア、浮かびますか?
面白いアイデアが次から次へと湧いてきて、書くのが追いつかなくて困っちゃう!という方もいらっしゃるかもしれませんが、ごくごく稀かと思います。ほとんどの方は、なかなか面白いアイデアが浮かんでこなくて…と悩んでいるのではないでしょうか?
そんな時、どうしていますか?
ヒラメキを生む3つのBというのがあるらしく、BED(寝る)、BATH(お風呂に入る)、BUS(バスなど乗り物に乗る)だそうです。
この3つのBの話をしていただいた、ある有名シナリオライターの方は「もう一つあるんだよ。BEER!みんなで飲んでワイワイ話す!」と言っていました。
まあ、確かに気分転換するとフッとアイデアが浮かんだりすることもあるので試してみる価値はありそうですが…。
私は自転車に乗っている時に浮かんだりすることが多いです。
BUSの変形でしょうか?
ただ急いでいる時はダメで、あくまでチンタラと漕いでいる時。
スーパーで買い物していると浮かぶという人もいましたが、私はスーパーへ行くと何を買って何を作るか、これが安いから予定していたメニューを変えて…などと、あれこれ考えているのでアイデアが浮かんだことはありません。どんな時にアイデアが浮かぶのかは人によっても違うのかもしれませんね。
ただ、偶然にアイデアが浮かんでくるのを待っているだけではしょうがないので、無理やりというわけではないのですが、いわばアイデアをひねり出す方法を紹介したいと思います。
アイデアといっても大きくは2つに分けられます。
一つは題材や設定といった大きなアイデア。
もう一つは、どんなセリフを言わせるか、どう行動させたりリアクションさせるかといった小さなアイデア。
小さなアイデアはディテールという言葉でも呼ばれます。
この小さなアイデアが今までにない新鮮なものかどうかが面白いシナリオになる一番のポイントです。
小さなアイデアを今までにない新鮮なものにするには、人物のキャラクターを考え、このキャラクターなら、どんなことを言うかな、どう行動しリアクションするかなと、普通は言わなかったりやらなかったりするけど、その人物なら言いそうなセリフや、やりそうな行動、リアクションを浮かべればOKです。
さて大きなアイデアです。
一つは主人公のキャラクターから考えて、普通は困らないけど、このキャラクターならではの困らせ方を考えるという方法があります。
ほかにも、こんな手もあります。
今までにある映画やドラマ、マンガや小説などの設定を借りてきてしまうのです。
え? だって、これまでにある設定を借りてきてしまったら今までにない新鮮なアイデアにはならないじゃん!
その通り。そのままでは二番煎じの、ありきたりで面白くないアイデアになります。
これまでにある設定にアレンジを加えるのです。
一番手っ取り早いアレンジは、あべこべにすること。設定を逆に、逆に考えていってみるのです。
ドラマ『JIN-仁-』の設定
たとえば『JIN-仁-』は、大沢たかおさん演じる主人公・南方仁が江戸時代にタイムスリップするという設定です。
大学病院に顔を包帯で覆われた身元不明の救急患者が運び込まれます。その夜の当直の医師が南方でした。南方は患者の脳に腫瘍を発見、最新の医療器具を駆使し摘出手術を行います。腫瘍は胎児の形をしていました。
翌日夜、その身元不明患者がICUからいなくなるのです。
病院内を捜しまわった南方は、非常階段でホルマリン漬けになった胎児の形の腫瘍を持ちだそうとしていた身元不明患者を発見、患者を捕まえた瞬間、激しい頭痛に襲われ「戻るぜよ」という声が聞こえ、患者を引っ張った弾みでホルマリン漬けの胎児の腫瘍が落ちそうになり、落とすまいと手を伸ばして階段を転げ落ちます。
一瞬気を失い、気がつくと、そこは江戸時代なのです。
江戸時代ですから医薬品や医療器具はほとんどありません。
南方は大学病院の医師なので最新の医学知識を身につけています。病気や怪我で苦しんでいる人たちを目の前にして、どうすれば助かるのかを知っているのに、その治療を行うための薬や道具がないわけです。
とはいえ、そのままでは死んでしまいます。放っておくわけにもいかず……という困らせ方をしています。
医薬品や医療器具がないだけではありません。南方が治療しようとする方法は、江戸時代の常識からすると考えられないことです。周りの人たちの理解が得られず、邪魔されることもあります。
たとえば江戸時代にタイムスリップして最初に出会うのが、小出恵介さん演じる旗本の橘恭太郎です。
何者かに襲われ、前頭部に刀傷を負った橘を屋敷に運ぼうと、通りかかった侍たちに「30分か遅くても1時間以内にオペしないと手遅れになります」と頼みますが「オペ? オペとは一体……?」「手術です」「手術?」と話が噛み合いません。
とはいえ、何とか橘家の屋敷に運んでもらいますが、医療器具があるはずもなく、金づちやのみなどの大工道具を煮沸消毒します。
橘の妹、綾瀬はるかさん演じる咲に「ガーゼありますか?」と尋ねても「ガーゼ?」、さらしを見つけ出し「20センチ角に切って下さい」と頼んでも「……?」となり、「消毒薬ありますか?」「焼酎ありますか?」と右往左往します。
そして、手術を始めようとすると、橘の母親が立ちはだかります。「もし恭太郎を死なせたら、この場で、そなたを殺して私も自害いたします」と手術に立ち会うというのです。「何を見ても気を取りみださないでください」と言って何とか手術を始めます。
のみで頭蓋骨に穴をあけると血の塊が見え、さあ、これを取り除けば大丈夫という段階になって、母親が懐剣を抜き「頭をかち割って助かるわけがなかろう!」と斬りかかってきます。
それはそうでしょう。江戸時代の人にとって頭蓋骨を切り取るなど、あり得ないことですから。
ドラマ『JIN-仁-』は『ドラえもん』のあべこべ
テレビドラマ、特に連続ドラマとしてはタイムスリップというようなSF的な設定は珍しいのですが、大ヒットしたドラマなので、ご覧になった方も多いでしょう。
この設定だけでも、これから一体どうなるんだろうと思わず引きこまれてしまいます。こんなアイデア、よく浮かぶよなあと思いますが、これって『ドラえもん』のあべこべになっているんですね。
まず『ドラえもん』は、勉強もスポーツもイマイチなドジばかりしている小学生・野比のび太のところへ、22世紀からやってきます。
22世紀の未来から現代(土管の置いてある空き地があったりするので、現在より少し前の感じですが)へタイムスリップしてくるのを、あべこべにして、現在から江戸時代という過去へタイムスリップさせています。
そして『ドラえもん』では、のび太が困っているとドラえもんはポケットから22世紀の「ひみつ道具」を取り出し助けてくれます。
でも、ひみつ道具の使い方を間違ったり使い過ぎてしまったりして、かえって、とんでもない状況に追いこまれてしまうというパターンです。
これをあべこべに、南方は現代から医薬品や医療道具を持っていかない設定にしています。
江戸時代にあるもので何とか代用したり、さらには薬や道具を新たに作り出していくのです。『ドラえもん』が毎回、どんな「ひみつ道具」が出てくるのかが楽しみなのに対して、たとえば電気メスの代わりに焼け火箸で止血したり、ペニシリン(今でいう抗生物質ですね)を製造する過程を見せたりするディテールの面白さにもつながっていきます。
ヤクザの跡継ぎが高校生になる『マイ☆ボス マイ☆ヒーロー』は、女子高校生がヤクザの組長になる『セーラー服と機関銃』のあべこべと言えます。
窓際サラリーマンが会長の特命を受けてトラブルを解決する『特命係長・只野仁』は、昼行燈と呼ばれながら悪を懲らしめる『必殺仕置人』『必殺仕掛人』など必殺シリーズの中村主水のあべこべとも考えられます。
あなたも、お気に入りのドラマや映画、マンガや小説などの設定をあべこべにしてみてください。
ほ~ら、ね? 今までにな新鮮なアイデアが浮かんだでしょ?
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)p114より
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ドラマ『JIN-仁-』データ
第1期 2009年10月~12月 第2期 2011年4月~6月
TBS日曜劇場枠
脚本:森下佳子
演出:平川雄一朗・山室大輔他
プロデュース:石丸彰彦・津留正明(第1期)・中井芳彦(第2期)
出演:大沢たかお・綾瀬はるか・中谷美紀 他
平均視聴率 第1期19% 第2期21・3%
最高視聴率 第1期25・3% 第2期26・1%(共に最終回)
日本民間放送連盟テレビドラマ部門最優秀賞他、
東京ドラマアウォード2010、ギャラクシー賞等数多くの賞を受賞