シナリオ・センターでは、ライター志望の皆さんの“引き出し=ミソ帳”を増やすために、様々なジャンルの達人から“その達人たる根っこ=基本”をお聞きする公開講座「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」を実施しています。そのダイジェスト版を『月刊シナリオ教室』よりご紹介。
今回の達人は、出身ライターの原田ひ香さん。どのようにしてシナリオライターから小説家になったのか。小説家はシナリオライターとはどう違うのか。そんな疑問にお答えいただきました。
シナリオライターと小説家の違い
私はシナリオでいくつか賞を取り、2年くらいシナリオライターとして活動した後、小説家になりました。その経験から両者を比較すると、小説家はいいですよ! シナリオライターはキツい……(笑)。
シナリオのコンクールは数が限られていて、しかも賞を取った後、なかなか仕事につながらない。
それに比べて文学賞というのは大手主催のものだけでも50くらいあり、私は「すばる文学賞」を取ってから3年くらい経つんですが、その間仕事が途切れたことはないです。
文学賞を取ると、担当編集者が付いて、親切に面倒を見てくれます。
シナリオライターと小説家の違いが、いちばんよくわかるのが、打ち合わせの場所。
シナリオの場合、ライターがテレビ局に行って打ち合わせをします。
小説の場合は、編集者が自分の家や、近くの喫茶店まで来てくれます。
これは、別に小説家の方がエラいとかいうことではありません。
シナリオの場合は、台本に演出や音楽などが加わって初めて商品になる「半製品」であるので、局のプロデューサーさんは脚本を作ること以外にたくさんすることがあって忙しいわけです。
それにひきかえ、小説は原稿そのものがほぼ「製品」だということです。
シナリオライターの役割は、多い時は何百人のスタッフがかかわる仕事のごく一部ですが、小説の場合は編集者と一緒に作るとはいえ、ほとんどすべてが作家の仕事です。
そこがシナリオライターと小説家の大きな違いといえます。
どんな小説家も常にオリジナルを生み出していかなければならないという辛さはありますが、ギャラも書いた分だけきっちり支払われるし(笑)、私は、小説家はいいなと思っています。
純文学とエンタメの違い
ところで皆さんは「純文学」と「エンターテイメント小説」の違いはご存知ですか?
私は一応純文学作家とされていますが、かなりエンタメ寄りだと思われているようですけど。
文芸誌の「新潮」「文学界」「群像」「文芸」「すばる」、これら文芸5誌で発表された作品が基本的に純文学と呼ばれます。それ以外はミステリー、童話、ファンタジーはもちろん、どんなジャンルでも、どんな小説でもエンタメになります。
純文学の作家は、基本的に半年に1編、どこかしらの雑誌に新作を書くのが基本です。必ずしも掲載されるとは限りませんが。今のところ私はそのノルマは達成しています。なぜ半年かというと、年2回の芥川賞を意識しているからなんですね。芥川賞は、100枚から250枚ぐらいの小説が対象になっていると一般的に言われています。
色々な解釈があるとは思いますが、純文学とエンタメの違いの一つは「描写表現のあるなし」ではないかと私は思っています。描写を重視しているのが純文学、逆にストーリーを重視しているのがエンタメ系という風に。ただし、面白い純文学作品はストーリーも優れているし、面白いエンタメ作品は描写も優れている。
つまり、結局のところ、良い作品は同じところに向かうのでは……というのが私の考えです。
小説家になるには、一生懸命 本を読むこと
企画書を書いたことのある方、いますよね。
企画書の「あらすじ」を書ける人は、大体小説も書けるんじゃないかなと思います。ただ「あらすじ」を小説に持っていくには、やはりセンスが必要です。中には天才肌の方もいるでしょうが、私のように才能のまるでない人間は努力するしかないのです。
子供の頃、ヴァイオリンを習っていて、先生から音楽は「努力とセンスだ」と言われました。しかし、センスは努力することである程度は身につけられるからとにかく努力しなさい、と。
また、フィギュアスケートの中野友加里さんが「練習は裏切らない」とおっしゃっていました。小説にとって、その努力や練習とは、読書です。どんな読書も決してあなたを裏切りません。
本は、読んだ分だけ自分を高いところに連れて行ってくれる存在です。
私はシナリオライター時代に毎週原作を探して企画書を提出していたのですが、この期間の膨大な読書量が、今の自分につながっていると思います。今でも私は最低でも週2冊は読んでいますし、他の小説家の皆さんも皆さん、本をびっくりするほどよく読んでいます。
小説家にとっては、独自の文体をつかむことが重要です。
主人公が一人称で語る方法が一番やりやすく、新人賞に応募される作品のほとんどは一人称です。
ただしひとつだけ難点があり、「私」がどんな服を着ているか、どんな表情をしているかなど、自分の描写がしにくい。よく「鏡の中には、やつれた顔の男がいた」なんていう表現があると思いますが、あれはその欠点を解消するための苦肉の策なんです(笑)。
シナリオでは、「ト書をシンプルに」って教えられますよね。
小説では、逆にどれだけ描写できるかなんです。
以前、ある編集長に「あなた、もうシナリオライターじゃないのよ」と言われてハッとしました。シナリオの場合は、役者さんや演出の力、音楽などによって、人物の感情を脚本以上に足していただくことができますが、小説家はすべてを一人で表現しなきゃいけない。それに改めて気づきました。
私の願いは、1日1分1秒でも長く小説家を続けることです。
皆さんも私も、お互い、本を読んでたくさん書いて努力していきましょうね。
出典:『月刊シナリオ教室』(2011年6月号)より
ダイジェスト「ミソ帳倶楽部 達人の根っこ」
原田ひ香さん 小説家の根っこ~シナリオライターから小説家へ~
2011年3月25日採録
プロフィール:原田ひ香(はらだ・ひか)
小説家。神奈川県生まれ。シナリオ・センターでは、シナリオ8週間講座を経て本科へ。2005年に研修科へ進級。2006年「リトルプリンセス二号」で第34回創作ラジオドラマ脚本懸賞公募最優秀作受賞。2007年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。その他、『東京ロンダリング』『失踪.com東京ロンダリング』『母親ウエスタン』『彼女の家計簿』『三人屋』『復讐屋成海慶介の事件簿』『虫たちの家』『ラジオ・ガガガ』『ランチ酒』『三千円の使いかた』『DRY』『ランチ酒:おかわり日和』『口福のレシピ』『まずはこれ食べて』『一橋桐子(76)の犯罪日記』など著書多数。
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