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脚本 の勉強法:『ホタルノヒカリ』に見る魅力的な主人公の作り方

「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)から紹介。
今回は、出身脚本家・山岡真介さんも手掛けた『ホタルノヒカリ』のシナリオから学ぶ魅力的な主人公の作り方です。「主人公がいい人すぎる…」「主人公よりも脇役の方がキャラが立っている…」というお悩みも解決です!

主人公は脇役以上に魅力あるキャラクターにする

こんにちは、エンゼル浅田です。
あなたのシナリオをパラダイスに導きます。

先日お悩みを耳にしました。
困ったちゃんを考えていると、主人公より困ったちゃんの方が個性があり生き生きしたキャラクターになっちゃうんです。
で、困ったちゃんを主人公にした方がいいのかなあと、いつも迷ってしまうんですが……と。

確かに、困ったちゃんって普通の人ならやりそうにない行動をしたり、普通の人なら言いそうにないセリフを言ったり、ちょっと非常識だったりして個性あるキャラクターになりやすいです。
また、弱いところやダメなところを、しっかり持たせられるので、自然とキャラクターが生き生きしてきます。

困ったちゃんに限りません。
主人公より脇役の方が、個性ある生き生きしたキャラクターになってしまうことって結構ありがちですよね。
で、こっちの方を主人公にした方がいいんじゃないかなあ……と考えたことがあるんじゃないでしょうか?

でも、それで上手くいった試しはありません。
主人公を変えるということはドラマが変わるということです。ということは主人公を変えたのなら、それまで考えていたことをすべて白紙に戻してゼロからドラマを考え直さなければならなくなります。
逆に言うと、ゼロから考え直すのであれば、主人公を変えてもいいのかもしれませんが…。

プロの現場では勝手に主人公を変えることはできません。企画の段階から、どういう人物を主人公にするかはスポンサーやターゲット、キャスティングなどとからんで決まってきます。
それを、脇役のキャラクターが生き生きとしてきたので、こちらを主人公にしますというわけにはいかないのです。

なので、主人公を変えずに書くことをおすすめします。
どんなに困ったちゃんや脇役が個性のある生き生きしたキャラクターになっても、主人公を、それ以上に魅力あるキャラクターにするよう考えてみてください。

その時、ちょっと注意点があります。
困ったちゃんや脇役が強烈な個性の場合、主人公にも負けずに強烈な個性を持たせようとすると、なんだかガチャガチャと賑やかだけどバランスの悪い人物関係になりがちです。

そういう場合は主人公の共通性を、しっかりと考えてみてください。
確かに困ったちゃんや脇役の方が個性は強いけど、主人公の方が感情移入しやすい、主人公らしいキャラクターになるはずです。

ドラマでいうと『SCANDAL』がわかりやすいですね。桃井かおりさん演じる、困ったちゃんの方が個性は強いのですが、鈴木京香さん演じる主人公の方が、感情移入しやすいキャラクターになっています。
『恋ノチカラ』も、個性だけでいうと、堤真一さん演じる困ったちゃんの方が強いのですが、深津絵里さん演じる主人公の方が、共通性をしっかり持たせて感情移入しやすくなっています。

主人公をダメな人にすると、個性ある生き生きとしたキャラクターに

というわけで、まあ、困ったちゃんや脇役の方が個性があって生き生きしていても全然、構いません。
ただし、そもそも困ったちゃんや脇役の方が個性があり生き生きしてしまう原因として、主人公を優等生として考えすぎているのではないかと思います。

主人公だから、いい人にしなければならないと考えていませんか?
いい人にしようとすると、どうしてもキャラクターが大人しくなって個性が弱くなりがちです。一番気をつけて欲しいのは、いい人のいい話にしようとしないこと。いい人のいい話は、ありきたりで何かどこかで聞いたことがあるような話になってしまいます。

おすすめは、ダメな人を主人公にすることです。
ダメといっても、いろいろです。どうダメなのか、カッコつけて、ついつい嘘をついてしまう人なのか、周りに合わせすぎて流されてしまう人なのか、頑固者で人の言うことにまったく耳を貸さない人なのかなどなど、ダメさを具体的に考えてみてください。

すると主人公が個性ある生き生きとしたキャラクターになります。
この場合、困ったちゃんは、まともで優等生的なキャラクターになることが多いです。
主人公より個性が強くなることもないので、どちらを主人公にしようか迷うこともなくなります。

ダメ主人公と、まともであるが故の“困ったちゃん”との掛け合いでドラマが動く

主人公がダメな人で、困ったちゃんがまともな人のドラマの代表が『ホタルノヒカリ』『ホタルノヒカリ2』でしょう。
主人公は、綾瀬はるかさん演じる雨宮蛍。職場では仕事に前向きでオシャレなOLを装っていますが、家に帰るとジャージを着て、髪はチョンマゲ、尻なんか掻きながら縁側でツマミ片手にビールをプハー! 恋愛するより、家で寝ていたいという干物女です。

そんな蛍が同居することになるのが、藤木直人さん演じる職場の上司・高野誠一です。職場でも優秀で頼れる部長ですが、家に帰ってもキレイ好きで几帳面、家事だってスーパー主婦なみにこなしちゃうのです。
つまり干物女の蛍にとって、何でもキチッとしている高野が困ったちゃんになり、いつも『アホ宮!』と叱られて『ぶちょお……』となるわけです。

『ホタルノヒカリ』では、蛍が年下の同僚に久しぶりに恋をし、ブランクがありすぎて恋愛が下手になっている蛍を、高野が応援するという設定になっているので、困ったちゃんぶりは抑えめですが、それでも台風が近づいてきた時に雨戸の補修をさせたり、料理を習って自信をつけたいという蛍に、うどん作りを麺を打つところから教えたり、年下の同僚と二人きりにするために、会議室に閉じ込めたり、珍しく酒に酔って年下の同僚を、二人が同居する家に連れてきてしまったり、町内会の火の用心の夜回りをさせたりと、困らせています。

※You Tube 『ホタルノヒカリ』主題歌 
aiko-『横顔』music video short version(aikoOfficial)より↓

ダメ主人公だからこそ生きるナレーション

さらに『ホタルノヒカリ2』では、蛍と高野が結婚することになるが……という設定になっているので、困らせられ度がアップします。

結婚に向け節約しなければならなくなったり、ガマンすることを覚えなければならなくなったり、結婚したら、専業主婦を目指そうと朝食作りにチャレンジすることになったり、両家の顔合わせや挙式、披露宴をキチッとやりたいと言われたり、婚約指輪をなくしてしまい、見つけなければならなくなったり、妻やパートナー同伴のパーティーで、高野を立てて精一杯の気配りをし、しかも英語を話さなければならなくなったりと、高野が原因で困らせられ、蛍が右往左往することでコメディになっています。

たとえば第3話では、結婚するにはガマンすることを覚えなければいけないと知った蛍は、高野がゴーヤを嫌いだと聞き「私も大嫌いです!」と食べません。
ところが翌朝、じんましんが出ます。
医者に行くと心因性かもしれないと言われます。

高野が沖縄料理の店に行き、帰りが遅くなると聞き、蛍は「遅くなる? 私にガマンさせといて!」と、ものすごい勢いで走って家に帰り「ガマンできない! ガマンできない! やっぱゴーヤだ! まったく! こっちはじんましんが出るほどゴーヤ食べたいのをガマンしたってのに。もう食ってやる! 死ぬほど食ってやる!」と炒めたゴーヤを皿にも移さずフライパンから食べています。

と高野が帰ってきます。
蛍は庭に隠れて、それでも食べ続けます。
高野は蛍を見つけるのですが、心因性のじんましんは蛍がチューをガマンしていることが原因だと勘違いしていて、「考えてみればキチンと想いを伝えることはしていなかった。
俺は君のアホなところも全部まとめて好きだから。君のことが好きだ」と語りかけます。

その間、蛍はゴーヤを食べ続けています。
挙句、喉につまらせてむせてしまい、それを見た高野は「泣いているのか!」と感動して駆け寄りますが、ついにゴーヤを食べていることがバレてしまって「アホ宮!」「ぶちょお……」となるわけです。

ちなみに、このドラマはナレーションを多用しています。それも蛍と高野の二人のナレーションが入るという、ちょっと珍しい使い方をしています。

高野が「おそるべし、この女、3年の間に干物女っぷりがパワーアップしている」と蛍を見つめているのに、蛍は「何見ているんだろう? チュウ? チュウですか? チュウですね」と勘違いして「チュウ!」と唇を突き出すといった感じで、二人のズレで笑わせてくれます。

また、向井理さん演じる男性に告白された蛍が「どうすればいいんだろう…そうだ! オナラしちゃえ! ここで、すっごい臭いオナラを一発かませば百年の恋もさめるはず」といったように、ナレーションを使うなら、せめて、これぐらいは面白くなくちゃという使い方になっています。

ともかく、この干物女とぶちょおの組み合わせ、ぜひ参考にしてみてください。もう主人公で迷うこともなくなるはずです。

これで、あなたもパラダイス!

出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P74より

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ドラマ『ホタルノヒカリ』データ

2007年7月~9月(全10話)日本テレビ系水曜22時枠
脚本:水橋文美江・山岡真介
原作:ひうらさとる『ホタルノヒカリ』(講談社『Kiss』)
プロデューサー:櫨山裕子・三上絵里子・内山雅博
演出:吉野洋・南雲聖一他
出演:綾瀬はるか・藤木直人他
平均視聴率:13.6%(最高視聴率17.3%)
『ホタルノヒカリ2』は2010年7月~9月(全11回)
平均視聴率15.4%(最高視聴率17.4%)

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