脚本家の才能は意図的に
脚本家の才能は、生まれながらに持った「天賦の才能」と思われがち。
確かに脚本家が持った視点や切り口は、それぞれ脚本家ならではの特有性を持ちますが、
それを伝えるのは「技術」です。「技術」なくして観客の心に訴えかける脚本を書くことはできません。
今回は、何を見れば才能ある脚本家だとわかるのか。どう書けば、才能を見せつけることができるのか。
才能を感じさせる脚本家の「技術」をお伝えします。
才能を感じさせる絶対条件の「承」
創作というと、やはり「感性」という言葉が付きまといます。
でも、その「感性」も論理的な「技術」で見せないかぎり、感じさせることはできません。
観客を感動させるために脚本家は、そのシーンで観客にどう思ってもらいたいのか(笑ってほしいのか、泣いてほしいのかなど)、実は論理的に構成(起承転結)する、という「技術」を駆使しています。
構成の中でもとりわけ起承転結でいうところの「承」。
この「承」を見ることで脚本家の才能を見極めることができます。なぜなら起承転結の「承」は、ドラマの全体の8~9割を占めているからです。その映画のほとんどの時間を観客に飽きさせず釘付けにさせるわけですから、ここがうまく書けている脚本家は才能があるということです。
では「承」を見ていく前提として、まずは「承」の機能を押さえましょう。
才能を感じさせる脚本の3つの「事」。
承の機能は『人物を葛藤させ、盛りあげるところ』です。
ここにいくつものエピソードを投入し、人物を葛藤させ盛り上げていきます。
どんなエピソードを入れ込んでいくか。まず1つには『事件』があります。
『事件』を起こすことで人物を葛藤させ、ドラマを盛り上げることができます。わかりやすい例で言えば、船が転覆する、という『事件』を盛り込んで、溺れている親友を助けるか、それとも恋人を助けるかで葛藤させます。そうすることで観客は主人公がどんな決断をするか、ハラハラしながら画面に釘付けになります。
ただし、この『事件』ばかりを盛り込んでいても、才能を感じさせる脚本が書けるわけではありません。
船が転覆、雷雨に見舞われる、火事が起こる…と『事件』ばかりを投入しても逆にドラマは水っぽくなってしまい、観客の心は離れていきます。
では、他にどんな事をエピソードに投入している脚本家が才能を感じさせるのか。
それは、『事件』のほかに2つの「事」を投入している脚本家です。
才能を感じさせる脚本に投入される2つの「事」。
2つ目の「事」。それはズバリ『事実』です。
才能ある脚本家は『事件』の他に『事実』もバランスよく投入しています。例えば、日常でも元彼が私の親友と付き合っていた!という『事実』を聞かされると心を動かされますよね。それは脚本の中でも一緒です。
海外ドラマ「ウォーキング・デッド」(AMC・FOXインターナショナル・チャンネルズ、2010~)のSeason3でも、<主人公リックの妻・ローリーの妊娠>が『事実』として投入されています。その『事実』が、ゾンビによって荒廃した世界で生きるメンバーを葛藤させるのです。ゾンビが攻めてくるという『事件』を何度も描いても盛り上がらないのです。
そしてもう1つ才能ある脚本家が投入している「事」は、『事情』です。
『事情』も人物を葛藤させ、盛り上げるエピソードを作ります。日常でも、サラリーマン、というよりは、<孤児院で育った>サラリーマンと『事情』をつけることでその人物への興味はグンっとひきつけられます。
脚本でも、中園ミホ脚本の連続ドラマ「やまとなでしこ」(フジテレビ、2000)では、松嶋菜々子演じる主人公・神野桜子は、ただのキャビンアテンダントではなく<貧乏な家で育った>キャビンアテンダントです。その『事情』によって、堤真一演じる貧乏な魚屋・中原欧介との出会いによって葛藤します。ドラマの中でも、その事情で欧介の元に行くか、それとも東幹久演じる御曹司・東十条司の元に行くかで葛藤させるシーンを展開し、盛り上げているのです。
三谷幸喜初監督作品の映画「ラヂオの時間」も、『事情』によって人物を葛藤させ盛り上げているエピソードがあります。とあるラジオ局で新人脚本家・鈴木みやこの初脚本作「運命の女」のリハーサルからオンエア終了までのドタバタコメディ。みやこが書いた脚本がプロデューサーやディレクター、さらには役者のわがままによってどんどん脚本が書きかえられてしまうストーリーです。役者のわがままによって急遽、人物の設定がパイロットになり、さらにはハワイ上空で消息を絶つ、と無理やりの展開に変えられてしまって……。
ここに、このラジオドラマのスポンサーが航空会社だったという『事情』を投入し、人物を困らせています。無事にラジオドラマのオンエア終了を願うよう観客の心を盛り上げているのです。
承に入れ込む3つの事を踏まえて、脚本を書いている脚本家は才能があると言えます。
さらに才能を感じさせる脚本家は、その登場人物ならではの葛藤を生む、事件・事実・事情を選りすぐり、投入しています。上記で挙げた作品も、その人物ならではの葛藤を意識し、エピソードを選択して脚本を書き上げています。「ウォーキング・デッド」のローリーの妊娠は大きな『事実』ですが、それを「ラヂオの時間」に入れ込んだとしても、ならではの適切な葛藤を生み出すとは思えません。
あなたの中にも眠っている脚本家の才能
才能を感じさせる脚本は、起承転結の承に3つの「事」を投入し、人物を葛藤させて盛り上げています。
さらに3つの「事」でその人物ならではの葛藤を生み出し、投入することで盛り上がり、才能を感じさせる脚本が生まれます。この論理的な「技術」、ここを押さえれば、あなたの中に眠っている脚本家の才能を呼び覚ますこともできます。
つまり、あなたにも才能を感じさせる脚本は書けるのです。
なぜならあなたならではの『事件』をはじめ『事実』や『事情』を持っているからです。
たとえば遠方にお住まいならば、その地域の方言、食べ物、風習、独特の人間関係などはあなたの武器にもなります。それは東京の人には書けないエピソードなのです。
その才能を呼び起こすために必要なのは技術、その1つである承の技術を押さえることです。
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