「そこそこ面白い」から「飛躍的に面白い」シナリオにするシナリオの書き方を、シナリオ・センター講師浅田直亮著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)から紹介。
今回は、テレビドラマ『すいか』から学ぶ普通の日常を面白く描く方法です。「普通の人の、普通の話を、面白く書くにはどうしたらいいんだろう…」というお悩みも解決です!
身の周りで起きそうな日常のドラマを書くことは一番難しい
こんにちは。エンゼル浅田です。
あなたのシナリオをパラダイスに導きます。
フツーの人のフツーの話を書きたいんです、と言われる方が多いです。
え? フツーって? 世の中に「普通」の人なんていません。
いや、そんなことないですよ、サラリーマンで妻が一人と子どもが二人いて、マンションのローンを払ってて……と思われるかもしれませんが、じゃあ、たとえばサラリーマンって、どんな会社の、どんな部署ですか?
さらに、どんな仕事を担当していて、仕事ぶりは?
上司や同僚や部下から、それぞれどう思われていて、それに対して、どう思っていますか?
そうやって考えていくと「普通」じゃなくなってくるはずです。
人間は一人一人違いますし個性があります。その個性を考えるのがキャラクター作りです。
「フツーの人を書きたい」が、キャラクターを考えない、あるいはキャラクターを曖昧にすることにならないよう注意してください。
同じように「普通」の話もありません。
どういう状況? いつの話? 場所は? 人物関係は? などなど天地人を考えれば考えるほど「普通」ではなくなります。
そういうことではないんです、という方もいるかもしれません。
たとえば先月取り上げた『女王の教室』のような「実際そんな奴いないよ!」という人物が出てくるわけではなく、また先々月取り上げた『銭ゲバ』のような人を殺したり殺されたりするわけでも、中学生が妊娠して出産したり、死に至る不治の病に侵されるわけでもなく、個性はあるかもしれないけど、実際にいそうな人たちの、実際に身の周りで起きそうな日常のドラマを描きたいんです、と。
うーん……本当は、そんなドラマが一番むずかしいのですが、気持ちは分かります。
そこまで言うならしょうがない、今回は、そんな実際にいそうな人たちの、実際に身の周りで起きそうな日常のドラマについて話しましょう。
日常を面白く描くなら、ググらず、ギリギリまで想像!
まず何よりむずかしいのは「面白い!」と思わせることです。
だって、実際にいそうな人たちの、実際に身の周りで起きそうな日常って、私たちが普段よく見ていることや普段よくやっていることが多いです。
普段よく見ていることや普段やっていることを、わざわざドラマや映画で観たいとは思いませんよね。
歯を磨いていたり、洗濯もの干していたり、通勤ラッシュの電車に乗っているだけで、面白い!とはならないのは当たり前です。
なので、実際にいそうな人たちの、実際に身の回りで起きそうな日常だけど、いても100人に1人ぐらいかなという個性が強い人たちの、実際にやったことがあるのは100人に1人ぐらいかなということを考えてみてください。
もう一つ、普段よく目にしていたり普段よくやっているはずなのに気がついていないことを描くというのもあります。
ただ、今まで、ずっと気がついてこなかったことに気づかなければならないので、こちらは驚異的にハードルが高いです。
どちらにしても想像力をかきたててください。
自分が想像しやすい範囲でシナリオを書こうとしないで、想像できるかできないかギリギリのところまでチャレンジしてみてください。
そうすれば想像力は鍛えられ、想像できる範囲も広がっていきます。
一番よくないのは、以前にも書きましたが、グーグルで検索し出てきた材料で書くことです。
これでは鍛えられないどころか想像力を萎えさせてしまうでしょう。
最近、想像力の広がりがないシナリオが増えている気がしますが、みなさん、身に覚えがないですか?
『すいか』が面白いのは、100人に1人いそうな、
やったことがありそうな日常だから
実際にいそうな人たちの、実際に身の周りで起きそうな日常を描いたドラマとして『すいか』を観ていただきたいと思います。
小林聡美さん演じる主人公・早川基子が勤める信用金庫の同僚が、3億円を横領し逃走するところからドラマは始まります。
ここは実際に身の周りで起きそうな事件ではないのですが、事件をきっかけに基子は、34歳になるまで住み続けてきた実家を出て、賄い付きのオンボロアパート「ハピネス三茶」で一人暮らしを始め、同じアパートに住むエロ漫画家(ともさかりえ)や大学教授(浅岡ルリ子)、大家(市川実日子)という生まれ育ちも年代も違う三人の女性たちと出会います。
ドラマで描かれているのは、ほとんどが、この4人の女性をめぐる日常です。
日常ではあるのですが、いても100人に1人ぐらいかなという個性が強い人たちの、実際にやったことがあるのは100人に1人ぐらいかなということが描かれていて、とても魅きつけられるのです。
たとえば第2話では基子が煎餅を食べるところが描かれます。
ただ煎餅を食べているだけだと「面白い!」とはなりません。
私たちが普段よく見ていることや普段よくやっていることですから。
でも、基子は吸いながら食べるのです。
煎餅のクズが落ちないように。
きれい好きの母親からクズが落ちるものは吸って食べるように言われてきた影響です。
ハピネス三茶に母親が訪ねてきたシーンでは2人並んで煎餅を食べます。
もちろん、2人とも吸いながら。しかも、テーブルに落ちたクズを指にくっつけて食べたりしています。
第3話では基子の100円玉貯金のエピソードが描かれます。
漬物や梅酒を作るような大きなビンの容器一杯に100円玉が詰まっています。
中学生のときから続けてきたもので、大家に300円払おうとして小銭がなかった時も「ここにあるじゃないですか」「これはダメ」と手をつけようとしません。
わざわざアイスを買って1万円札を崩すのです。
ところが、一緒に100円玉貯金を始めたけど、すぐ挫折した友だちが有名イラストレーターになっていて、そのインタビュー記事を読んだことから、100円玉貯金を全部使ってやると決意します。
折りたたみのキャリーカートに100円玉の詰まったビンを載せて街を歩きまわります。
しかし、欲しいものや買いたいものが見つからず、路上ミュージシャンの前に置いてあるカンパ用のケースにジャラジャラ投げ込んで、もう、そのへんで勘弁してくださいとミュージシャンに言われたりするのです。
日常のドラマを書くときも目を離せなくなるようなシーンを
エロ漫画家は、たとえば第4話ではファミレスのウエイトレスのバイトをしていて、自分のことを好きだという年下の男性に、鼻の穴に両方の人差し指を突っ込んで見せて「これでも好き?」とやって、バイトをクビになります。
教授は、たとえば第6話で夜中に路上で男女が激しく言い争って野次馬が集まっているところに駆けつけてきます。
基子もいて教授を見ると裸足です。
帰り道は基子のサンダルを片方ずつ履いて肩を組みケンケンで帰ってきます。
大家は、たとえば第3話でアイスの棒に「あたり」が出ます。
もう一本もらいにいって食べると、また「あたり」です。
神社で「はずれが出ますように」と神頼みしても、また「あたり」で「苦しい…」とアイスを食べます。
「だったら捨てればいいじゃないよ」と言われると「だって当たってるんですよ、もったいなくて捨てれません」と答えます。
この4人以外にも登場人物全員が個性的なのですが、中でも基子の母親(早稲田小劇場の伝説的女優・白石加代子さんが演じています!)が抜群です。
たとえば第7話で「いつまでも嫁に行かない娘を目覚めさせる方法」というセミナーに行き「女で成功するには才能かオッパイ、どっちかがないとダメ」と言われ、基子のアパートを訪ね美容整形外科のチラシを見せて豊胸手術を勧めたりします。
第8話では自分がガンであることを知ります。
ガンといっても初期のもので手術をすれば直るのですが、やはり不安です。
基子と一緒に向かったのは、基子を産んだ病院です。
病院の建物を眺めながら、基子が一番最初に喋った言葉が「バイバイ」だったことを話します。
「私に向かってバイバイ。ほんと薄情な娘よ」と。
そして、抱き上げたら人の匂いがした、それまでミルクの匂いだったのに、淋しかった、嬉しかったけど淋しかったと言って涙ぐむのです。
こんな目を離せなくなるようなシーンを、実際にいそうな人たちの、実際に身の回りで起きそうな日常のドラマを書くときでも、想像力をかきたてて描くようにしてみてください。
これで、あなたもパラダイス!
出典:浅田直亮 著『シナリオパラダイス 人気ドラマが教えてくれるシナリオの書き方』(言視舎)P165より
シナリオ・センターの書籍についてはこちらから
ドラマ『すいか』データ
2003年7月~9月
日本テレビ土曜9時枠
脚本:木皿泉
演出:佐藤東弥・吉野洋・佐久間紀佳
プロデューサー:河野英裕
出演:小林聡美・ともさかりえ・市川実日子・浅岡ルリ子他
平均視聴率8.9%(最高視聴率:初回10.6%)